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四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~

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四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~
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リアクション

 
 第24章

「ピノちゃん!」
 土手を上がると、薄青 諒(うすあお・まこと)が大地達と一緒にピノの事を待っていた。彼は嬉しそうに彼女を迎えたが、少し沈んだ様子に気付いて困惑顔になる。灯篭流しで、何かあったのかな……
「ピ、ピノちゃん」
 元気になってもらいたい。そう思って、諒は手を差し出した。
「手、繋いで帰ろう……?」
「諒くん……うん! そうしよう!」
 こくん、と頷いて、ピノは諒の手を取った。1回だけラスを振り返って、べーっ、と舌を出して。
「う……、それ、何のあてつけだ……!?」

「え? 苦労?」
 風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)にイディアとの生活の様子を話していたファーシーは、「もし苦労していることがあるようでしたら手伝いますよ」と言われて首を傾げた。
「うん、それ……。朱里さんにも言われたんだけど、苦労って、まだよく分かんないのよねー。……だって、子育てって、楽しいじゃない?」
 ファーシーは笑顔で、明るく言った。
 とはいえ、これから幾つもの“苦労”に直面するだろうことは何となく分かる。彼と2人だけでは対処出来ないこともあるかもしれない。
「でも……うん、何かあったら手伝ってくれると嬉しいかな」
「分かりました。じゃあその時は……」
 優斗はアクアに笑顔を向ける。
「アクアさんと一緒に手伝いに行きますね」
「……!? 何で私が貴方と一緒に行かなきゃいけないんですか! 行くなら1人で行きますから」
「優斗さん、今のどういう意味ですか!?」
「優斗お兄ちゃん、今のもう1回言ってみてよ!!」
「……優斗」
「「「「!!!!」」」」
 今にも優斗をぼこぼこにしそうになっていたアクアとテレサミア鬼城の 灯姫(きじょうの・あかりひめ)の静かな声に動きを止めた。助かった、と彼は灯姫に顔を向ける。
「今日も祭というものを堪能できた。優斗、いつも私へ色々なモノを見せてくれて……ありがとう」
 灯姫は彼女達を不思議そうに見ながら、だが楽しそうに、微笑んだ。
 その、彼女達の隣では。
「……スカサハさん、この車椅子、ありがとう」
 これから、コネタントの家にイディアを迎えに行く。その前に、と、ファーシーは電動車椅子から立ち上がり、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)にお礼を言っていた。
「何だか、不思議な気持ちになったわ。懐かしかったり新しかったり。それでいて、少し……」
 かなしくなったり。
 車椅子が要らなくなった。それは、自分が一歩、先に進んだということでもある。自分の足で歩いて、誰かの助けになることが出来る、ということでもある。けれど、同時に。
 もう、あの頃には戻れないんだな――。そんな、決別にも近いかなしさも覚えた。
「……ファーシー様」
 そんな彼女を見て、スカサハは、静かに言う。
「……ファーシー様は今、幸せですか?」
「……え?」
「……イディア様と、これから暮らしていく事に不安もあるかと思うです。ファーシー様は……」
 色々、我慢してしまうように見えることがある。その明るさが、誰かを安心させるためのものなんじゃないかと思う時がある。でも……だからこそ。
「でも……何があっても、スカサハ含めここに居る皆様は、ファーシー様を……お友達を護ります。それだけは、覚えていて欲しいです」
「スカサハさん……」
 ファーシーは丸い目を何度か瞬かせ、そして柔らかく目を細めた。
 彼女の気持ちが、伝わってくる。

「ありがとう。今、わたしは幸せよ」

                  ⇔

 皆は徐々に公園の外へと歩き、帰っていく。出入り口には何か巨大な機晶姫が立っていて、何か変態チックな言葉を発している聞き覚えのある声のその物体に、シュリュズベリィ著 セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)が何か写真を見せている。巨大機晶姫の目は何かハート型になっていて――もの凄い既視感を感じながらもアクアは無かったことにした。
 公園を出て、そんな機晶姫とセラとサルカモ達を抜かして歩いく。隣では、ルイ・フリード(るい・ふりーど)が彼女に延々と話しかけてきていた。それに、半ばうんざりしながらアクアは返事を返していた。
「アクアさん、今の生活は充実していますか?」
「…………。ええ……、多分」
 それなりに忙しいし、やりたいことはしているし、充実している…………と思う。
「楽しい思い出は出来ましたか?」
「…………」
 色々な経験をしたが、何をもって“楽しい”とするのか。それが未だ彼女には判らない。“楽しくないことはありましたか”と訊かれれば、『最近では心当たりがない』と答えられたのだが。“ふつう”と“楽しい”の間が、判らなかった。
「……私は貴女の記憶に、今後もしっかりと残るでしょうか」
「…………。…………?」
 声の調子が、これまでと違う。
 振り返ってみると、セラが機晶姫――ノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)の下でこちらを見守っている。彼女の雰囲気も、つい今までとは何処となく違う気がした。
「…………ルイ?」
 あの、うっとうしい笑顔ではない、彼は何か、物哀しさが感じられるような、笑顔を浮かべている。
「人生は、短い。アクアさん、貴女は私よりも長く生きるかもしれない」
 その間に、知り合った多くの人との別れの時も来るだろう。しかし――
「それでも、思い出の中に私という存在が居た事を覚えていて欲しいのです」
「…………」
 アクアの表情が変わる。それは、驚きという感情だった。考えてみたこともない……否、人の寿命が短い事などは嫌という程に知っている。ただ、それがこれまでは“どうでも良い”事だっただけで。
 だが、今は――
「今は、私と居るのは楽しく無いかもしれませんが……」
 そうして、ルイは彼女に笑いかける。
 何年か経って。
“このような事もありましたね”
 と。笑って思い出話が出来るような存在になりたい。
 ――私も逝くその時までに、貴女の心からの笑顔を、一度でも見てみたい。
 この気持ちが「好き」なのか「愛」なのかまだ分からないけれど――
「恋」という感情は、どのようなものなのだろうか。
「ルイ」
 アクアは名を呼ぶ。今まで呼んだ覚えの無い彼の名を。もう、この短時間で2回目だ。3回目があるかどうかは知らないが。
「“会いたくない”というのと“嫌い”というのは同義ではないのですよ?」
「……アクアさん? それは……」
 無表情で。これ以上無い程の無表情で、アクアは告げた。
 嫌悪感は感じるけれど、感じない。
 ――仕方がない。矛盾しているようだが、これが事実なのだから。

              ◇◇◇◇◇◇

「……環菜、お祭楽しかったですね」
 日本の祭をツァンダで見るのは珍しい。祭という夏の風情を久しぶりに感じ、満喫しようと出かけ、今はその帰り道。御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は環菜に話しかける。公園から自宅まではそう距離も無い。賑やかしかった会場を離れ、静かな歩道を2人で歩く。
「短い中で充実した時間だったわね」
 答えは簡素だが内容が肯定であることが“楽しかった”ということを告げている。
 花火は終わり、人々も帰路に着き、周囲に先程までの賑やかさと熱気はどこにも無い。その落差に、陽太は何とも言えない寂寥感と喪失感を感じずにはいられない。
 夜気の中を、彼は環菜と手を繋いで歩いていく。しっかりと、手に力を込めて。握り返してくる環菜も、同じだけの力を返してくれる。
 その彼女に、陽太は只管に話しかける。
「ファーシーさんが無事に出産して、俺はとても嬉しいです」
「ええ。それは……純粋に良かったと思うわ」
 もう一騒ぎくらいあるんじゃないかと思ってたから、と彼女は続け、それには彼も苦笑を返すしかなかった。出産するまでは、確かに一抹の不安はあった。
「ルミーナさんと隼人さん、仲が良くて微笑ましかったですね」
「そうね……ルミーナは私のことばかり気にしていたから……。過去にも色々あったようだけど」
 環菜はそう言うと、ひとつ、息を吐いた。
「随分と時間が掛かったけれど。……まあ、それは私達も同じだったかもね」
 彼女は笑う。だから、恋愛には時間が掛かるものなのよ、と。
「そうですね……」
 どれもこれも、帰ってからでも、自宅でも話せる事柄だった。けれど、何となく。
 会話が途絶えると寂しい気分になる気がして。
 とめどなく、陽太は話題を振った。
 ――そういえば。
 昔、日常的に騒ぎが起こっていた蒼空学園で校長を務めていた頃の環菜は、騒動が収まって自分1人の日常に戻った時に、やっぱり寂しい気分になったのだろうか。
 想像すると……無意識に、妻をぎゅっと抱きしめたくなる。
 でも、それは帰宅するまであと少し、おあずけだ。
 だってほら、玄関の扉はもうすぐそこだから。
 いつも一緒に過ごしてくれる、愛する配偶者の温もり。その『幸せ』を掌の中で再認識しながら、彼は我が家のノブを回した。

              ◇◇◇◇◇◇

 家の中が暖かい。
 子供が1人加わっただけで、どうしてこうも暖かくなるのだろう。
「……あ、アイビスの歌声だ」
 後片付けや雑用をしていた榊 朝斗(さかき・あさと)は、リビングから聞こえてきた幸せの歌に耳を澄ませた。優しい優しい、これから、たくさんの。たくさんのファーシーの愛情を受けて元気に育ってもらいたい。
 そんなアイビスの気持ちが、ここまで伝わってくる。
 彼女を直接見なくても、どんな表情を浮かべているのか想像出来る。
「……子守唄でも歌ってるのかな」
 朝斗はしばし、作業を止めて聞き入った。
「可愛いわね〜、天使の寝顔ってこういう感じなのかしら?」
「うー、にゃー」
 ルシェンちび あさにゃん(ちび・あさにゃん)も、嬉しそうに2人の傍でくつろいでいた。この時ばかりは、ルシェンが近くにいてもイディアはぐずらない。
 でも、穏やかな時間というのは意外と過ぎ去るのも早いもので――

「あ、ファーシー君が迎えに来たかな」

 ぴんぽーん、と呼び鈴が鳴った。

担当マスターより

▼担当マスター

沢樹一海

▼マスターコメント

沢樹一海です。
リアクションの公開が遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。

夏休みも終わって新学期が始まった昨今ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
まだまだ昼間は暑いですよね、30度越えとか。
私は真昼間に自転車漕ぐような生活をしているのですが、本当、僅かな時間なのに体力が吸い取られます。あ、自転車に空気が入っていないせいかもしれません。
一転、夜になると涼しくなったり、公園に行ったら栗が落ちてたり、木々が枯れてきたり……と、秋も近いな、という気がします。
夏と秋が混じっているような感じでしょうか。
…………。
ともあれ、山車、花火大会、盆踊り、太鼓、そして灯篭流しと、それぞれに楽しんでいただければ幸いです。
感想もお待ちしています。

※沢樹NPCパートのPC様登場シーンが色々と混雑しております。
 ただ、最後の花火のシーンには、途中で明確に分かれた数組以外は、全員一緒にいる、という設定になっています。メインアクションのみを抜き出す形になっているので、全てのお名前を出せなくてすみません。

ファーシーの子供の話や執筆裏話的なものは後日マスターページに書く予定です。
それでは、またどこかでお会いできれば幸いです。ありがとうございました。