リアクション
○ ○ ○ 「そこのあなた! 今、してはいけないことをしましたね! しっかり見てましたよ、お帰りくださいっ!」 強い姿勢で、風馬 弾(ふうま・だん)は、男性客を部屋から追い出した。 「ありがとうございます。マッサージに夢中で、気づきませんでしたわ」 ほっとした表情で弾に礼を言ったのは、ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)。彼女はこの部屋でマッサージを担当していた。 弾は臨時保健室に協力を申し出て、ティセラのサポートを行っている。 といっても、マッサージやカウンセリングの技術はないので、出来ることといったら、雑用とこうして卑猥な気持ちでティセラに近づいてくる男達を撃退することくらいだった。 「いえ、ちょっとでも役に立ててるのなら、嬉しいよ」 弾もほっと息をつく。 「次の予約の方の時間まで、まだ少しありますから、わたくし達も休ませていただきましょう」 言って、ティセラはカップと茶葉を棚から取り出した。 「あ、お茶でしたら私が淹れます」 弾のパートナーのノエル・ニムラヴス(のえる・にむらゔす)が、ティセラからカップと茶葉を受けとって、3人分の紅茶を淹れていく。 彼女は客やメンバーに茶を入れたり、症状を聞いたりして、弾のサポートをしていた。 「お掛けになっていてください。すぐお持ちします」 「はい、お願いしますわね」 ノエルに任せ、ティセラはソファー方へと歩く。 「先ほどのお礼に、マッサージいたしましょうか?」 ティセラは弾にそう尋ねた。 「い、いやいやいや、恐れ多くてとても!」 弾はびっくりして、転びそうになりながら答えた。 「それでは、こちらで少し休みましょうか」 ティセラはソファーの方に弾を招く。 「そうですね」 2人は向かい合って腰かけて、少しの間だけ休憩をとることにした。 「どうぞ。良い香りの紅茶ですね」 トレーに乗せてきたカップを、ノエルはティセラと弾に配った。 それから自分の分を持って、弾の隣に腰かける。 「この紅茶、百合子さんが用意してくださったのです。とても美味しいですわね」 紅茶を飲んで微笑むティセラは、とても綺麗だった。 そしてこの女性が、とても強い事も、弾は知っている。 それは、戦闘能力だけではなくて――。 「どうしたら、ティセラさんのようになれるんですか?」 カップを置いて、弾はそう向かいに座る美しい女性に尋ねた。 「わたくしのように、ですか? わたくしは、何か皆様と違いますでしょうか」 「違います。ティセラさんはとても苦労されてきたのだと、聞いています。とても大変な目に遭ってきたのだと。……どうしてティセラさんは、強い意志や、夢を持ち続けることが出来るんですか?」 ティセラは、5000年前の戦いで命を落としている。 その後、エリュシオン帝国で復活させられ、洗脳され、敵としてシャンバラに戻ってきた。 正気に戻った今は、昔と同じように、いや昔以上に自らの意思で、シャンバラに尽くしている。友や、大切な人々に、深い愛情を注いでいる。 (辛い事沢山あったのに、今もこれからもずっと、シャンバラのために戦い続けようとしてるんだよね。自分が幸せになることなんて、考えてないかのように) 「剣の花嫁として覚悟を決めるとはどういうことなのでしょうか……」 ノエルもそう尋ねてティセラを見つめる。 弾も、思わずじっとティセラを見ていた。 「そうですね。……大切な存在を、忘れずにいることでしょうか。誰かに愛されることではなく、愛することを喜びと感じられれば、信念のままに、歩み続けることが出来ますわ」 「愛することを喜びに、ですか」 弾は気恥ずかしくなって、少し照れてしまう。 こういうことをさらりと言うティセラがやっぱり眩しかった。 「さ、そろそろ時間ですわね。準備をしましょうか」 ティセラが立ち上がった。 「はい。今度は普通のお客様だといいですね」 「ホントに……」 弾とノエルの言葉に、ティセラは軽く苦笑する。 「ええ。でも、もしものときは、またお願いしますわね」 そんなティセラの言葉に、弾は強く頷いて。 彼女を手伝い、準備をしていくのだった。 |
||