リアクション
○ ○ ○ 「ふぅ……なかなか美味しいお茶ね」 臨時保健室を訪れた茅野 菫(ちの・すみれ)は、大部屋に設けられた椅子に腰かけて、一息ついていた。 これまで休憩をとることなく、多くの出し物や展示を見て回ったため、身体も精神的にも疲れてしまっていた。 「お菓子どうぞー! 一緒に食べよ〜」 突然、高価そうな服を纏った少女が現れて、菫のテーブルにお菓子が入った皿を置いた。 「ここでは、かうんせりんぐっていうのもやってるんだよ。悩みがあったら聞くよー。ボクにはマッサージは出来ないけどね」 勝手にお菓子を食べ始めながら、少女はにこにこ菫に笑いかけている。 ふうと、大きなため息をついて。 「いただくわ」 菫は不機嫌そうに、チョコレートをつまんで、口の中にいれた。 (悩み、かぁ……) 目の前の女の子を見ながら、菫は一人の年下の男の子のことを思い浮かべていた。 「ヴァイシャリーに、好きな子がいるんだ。でも、その子はヴァイシャリーにいるとは限らなくて……会いたいってお願いしても、なかなか会わせてもらえなくてさ」 次のお菓子、プチケーキを手に取りながら、菫が話を続けていく。 「会えないどころか、今どうしているのかもわからない。まだ子供なのに、危ない事に駆り出されたりすることもあって。怪我してないか、病気してないか、寂しくないかって、心配で仕方がないの。寂しいのはあたしの方かもしれないけどさっ。って、聞いてるの?」 菫は返事をしてくれない女の子に、ふて腐れたような目を向ける。 その子は、お菓子を食べるのをやめて、上目使いにこちらを見ていた。なんだか、申し訳なさそうに。 「あの……」 彼女の後ろには、畏まった格好の青年の姿がある。保護者だろうか、それとも付き人……。 そこまで考えて、菫は目を瞬かせた。 「ま、まさか……」 息を飲んで、菫は小声で尋ねる。 「レイ、ル?」 少女は、こくんと頷いた。 途端、菫は頬を真っ赤に染めた。 「は、早く言ってよ! 何でそんな格好してるのっ」 照れ隠しの様に、菫は怒りだす。 「この格好なら、連れてってくれるって言われたから。皆と、遊びたかったし」 「もう〜っ」 突然菫は立ち上がると。 「でも、可愛いから許す!」 と、レイルに抱き着いた。 「菫おねぇちゃんも、可愛いよ。ほっぺ真っ赤でね!」 「そういうことは言わないの〜」 菫が抱きしめる手に力を籠めると、レイルもぎゅっと菫を抱きしめてきた。 久しぶりに会って、凄くすごくうれしかったけれど。 「よし、仕事終わったら、一緒に学園祭見て回ろう」 菫は、レイルを解放して懐かしい彼の顔を、名残惜しそうにじっと見つめる。 長く抱き締めていたら、彼の付き人に警戒されてしまうかもしれないから。 「うん! 皆と一緒に、ちょっとだけならいいって言われてるんだ」 レイルは嬉しそうに笑っている。 少し、彼は成長していた。 そう菫が言うより早く。 「菫ちゃん、前より女の子っぽくなってきたよね」 言いながら、レイルは菫のじぃぃっと胸を見ていた。 「あなたって子は……ませてるんだから、もうっ」 また顔を赤く染める菫を見て、レイルは満足げに微笑んでいた。 「レイルも、前より身長高くなったよね……」 久しぶりのこの時間を。 次いつ会えるか分からない大好きな子と、少しでも長く一緒に過ごしたいと、菫は思うのだった。 |
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