リアクション
○ ○ ○ 「屋台も見て回りたいんだが……」 月崎 羽純(つきざき・はすみ)は、猫&うさぎガーデンのテーブル席で、伴侶の遠野 歌菜(とおの・かな)を待っていた。 歌菜の誘いで訪れたこの場所では、猫とうさぎの可愛らしい姿が堪能できる。 猫もうさぎも嫌いではない羽純も、楽しめてはいる、が。 実はかなりの甘党である彼は、屋台のスイーツに強い興味を持っていた。 百合園主催だけあり、高級スイーツも取り揃えているようだ。 早めに行かなければ、売り切れてしまうかもしれない……。 とはいえ、猫も可愛い。 羽純はすり寄ってきた猫の背をゆっくりと撫でてあげる。 「羽純くん、お待たせ〜。飲み物貰ってきたよ」 歌菜がカップを2つ持ってきた。 彼女は紅茶が入ったカップを自分の方に置き、もう一つの――スープが入ったカップを、羽純に渡した。 「ああ」 特に気にすることもなく、羽純はカップを受けとって、程よい温度のスープを飲み干した。 ……そして。 「にゃ……!?」 羽純は、歌菜の陰謀♪で、猫になった。 「可愛い〜っ♪」 歌菜は、猫になった羽純をぎゅっと抱きしめた。 「……にゃっ(……ちょっと待て、何で俺が猫になってる?)」 「さ、学園祭行こうか、うふふっ、手触り最高♪」 「にゃん、にゃー!(歌菜の仕業か……!)」 羽純の抗議の声は、歌菜にはにゃんにゃんという可愛い声にしか聞こえない。 「ずっと思ってたんだ。空京万博の時は、私が子猫になっちゃったけど……私も羽純くんの猫になった姿をじっくり見て抱っこしたいな♪ って。ふふふ♪」 腕の中の子猫は本当に可愛かった。 温かくて、柔らかくて、撫でると気持ちが良くて。 「にゃ、にゃん! にゃにゃん!!(こ、コラ! そんなにきつく抱き締めるな!)」 「はぐれちゃ駄目だから、しっかり抱かれててね?」 胸に包み込んで、撫でながら幸せそうな笑みを浮かべて、歌菜は学園祭の出し物や展示を巡ることにした。 屋台を回って。楽しい出し物、展示を沢山見て、美味しい物を食べて。 なにより、腕の中の猫の感触と可愛らしさで満たされて。 歌菜は大満足で、廊下を歩いていた。 「あっ……」 突然、腕の中の猫が重くなる。 「そっか、効果がきれちゃったのね」 歌菜に抱かれていた猫――羽純が元の姿に戻っていく。 微笑みながら見ていた歌菜だけれど……。 「!?」 突然、戻った羽純に、歌菜は強い力で腕を引かれる。 「羽、羽純くん、あの……っ」 連れて行かれた先は、校舎裏。 誰もいないその場所で、歌菜は羽純に壁に押し付けられた。 強い力で押しつけられ、間近で睨まれて歌菜は酷く焦った。 「はわわわわわわ……ごめんなさいっ。ちょっとした出来心だったんです、許して〜」 彼の顔が触れるほど近くに迫っている。 歌菜は思わず目をぎゅっと閉じる。 「ふーん、出来心?」 「そ、そう、ごめんなさい〜っ」 赤くなって、焦りながら……恐る恐る、歌菜が目を開けると。 そこには、微笑んでいる羽純の顔があった。 どきどき、心臓が高鳴っていく。 猫も可愛かったけれど――。 (やっぱり羽純くんは人間がいいな) 歌菜の顔にも、微笑がうかんでいく。 そのまま。 2人の唇は、自然に重なった。 「唇に、さっき食べたアイスの甘味が残っていたぞ」 羽純は歌菜を離して、頭の上にぽんと手を置いた。 「ごめんなさいっ、羽純くんの分もちゃんと買って……って、アイスは溶けるから買えなかったんだっけ」 「それじゃ、今度は俺に付き合え」 「うん、勿論」 羽純は、歌菜の手を今度は優しく引いた。 (人間の羽純くんと、もう一度学園祭を楽しめるなんて) 贅沢な一日だなと歌菜は思う。 普通の彼、猫の彼、荒々しい彼、そして優しい彼。 沢山の出し物と、沢山の羽純が見れた1日だった。 |
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