リアクション
○ ○ ○ 「ふふふんふん♪ ふふふふふん♪」 (やっぱりあの方が……) 蓮見 朱里(はすみ・しゅり)は、鼻歌を歌いながらスープを温めているリーア・エルレン(りーあ・えるれん)の姿を見て、軽く苦笑した。 この猫&うさぎガーデンに異様に動物が多いのも、挙動不審な猫やうさぎがいるのも、彼女の仕業だと気づいた。 (確か空京万博の時は、子犬に変身したアインと一緒に会場の見回りをしてたんだっけ) 空京万博では、リーアは子犬子猫に変身する薬を提供していた。 (あの時私はお腹の中に赤ちゃんがいたから変身は出来なかったけど、今はそんな心配も無いし、少し甘えてみるのもいいかな) そう考えて。 「すみません、かつお味のスープ、いただけますか?」 「喜んで! どうぞ♪」 リーアは快く、スープを朱里に分けてくれた。 「朱里……一体どこに」 アイン・ブラウ(あいん・ぶらう)が、猫とうさぎに目を留めていた間に、隣にいたはずの朱里はいなくなっていた。 庭園やその周りを探しまわてみるも、彼女の姿はなかった。 「にゃ……」 「ん?」 ふと、振り向いた猫と目が合った。 なんだか構って欲しそうなその猫を、思わずアインは抱き上げる。 「ねえ君、このあたりで一人の女性を見なかったか。小柄で可愛い、僕の奥さん」 「にゃーん」 その猫――猫に変身した朱里は可愛らしい鳴き声をあげた。 (朱里はいつも家事に育児に一生懸命で、とても頑張りやなのだけど、無理をしていないだろうか。時には子供のように甘えたいと思ってるのかもしれない) 腕の中の猫を見ながら、アインはそんなことを思う。 「そう、もし猫の姿になったら、君のように小さくて可愛い猫になっていそうな……」 じっと、アインは猫を見つめる。 「にゃーん」 猫は可愛らしく、甘えるような声を出した。 「変だな。君を見ていると、どこか他人では無いような気がしてきた」 アインはそっと、猫の背を撫でた。 「彼女の姿が見えなくて、不安になっているのかもしれない」 「にゃーん」 その猫の鳴き声が、アインには自分を気づかう言葉のように感じられた。 「どうかもう少し、僕の傍にいてくれないか」 (大きくて優しい腕) 猫になった朱里は、アインの腕の中で彼に身をゆだねていた。 (子犬になった彼の気持ちを私が感じていたように、彼も私のこと、分かってくれているのかな) ベンチに座った彼の膝の上に乗って、朱里はごろごろと甘える。 すると、彼の大きな手が、朱里の頭と背に下りてきて優しく撫でてくれる。 そんな彼の肩に飛び乗って、頬をぺろぺろと舐めると、アインはちょっと恥ずかしげに、朱里を離して『めっ』というかのような顔を見せる。 「にゃーん」 甘い声を上げて、朱里は彼の目に訴えかける。 その真っ直ぐな目を見て、アインは気付く。 「……まさか、朱里なのか」 アインは小さな声を上げた後、確信したかのように頷いて、朱里を胸に抱きしめた。 朱里は再び、彼の頬と唇をなめた。 アインは朱里を優しく撫でて、それから頬や額に、キスをした。 それは人前では決してできないこと。 片方が猫の姿だからこそ、出来ること。 「にゃーん」 また甘い声を出して、身を寄せて。 朱里は子供の様に、本当の子猫のように彼に甘え続けた。 |
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