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リアクション
(……ほんっと、ありえねー……久し振りに団長と話せるチャンスだったのに……。流石に団長を迷子のお呼び出しみたいに呼ぶわけにはいかねーし)
土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)の息は、きれていた。
契約者で、軍人で。ちょっと走ったくらいじゃ息なんて切れもしない、筈なのに。
学園祭に視察に来る──という団長金 鋭峰(じん・るいふぉん)に同行する部下の一人として、その間雲雀との視察の時間を貰ったのは、丁度30分ほど前のことだ。
それが慣れない校内に入ってものの数分で見失うなんて……。
(初めて会った時も、確か団長を探して走り回ったっけ。あの時は結局自力で見つけられなくて、団長が声かけてくれて……)
ホールを抜け、森を抜け。ひとつひとつ部屋を抜けるたびに、緊張と失望と焦りがないまぜになっていく。
ヒラニプラにも、空京にも、中国にも、いない。
「……団長、どこでありますか?」
(まさか同じ事繰り返せば会えるなんて都合いい展開、あるわけねーけどさ。あの頃とはもう……違うんだから。
……だから今度こそ、自力で見つけに行く)
でも。もしいなかったら、どうしよう。はぐれた時の集合場所なんて決めてない。
いや、一応、校門のところで待っていれば会えるだろう。
──でもその時は他の教導団員も一緒になる。
ここだって、最初に行きましょうと話していたから雲雀は来てみただけで、団長が確実に来ているという保障もない。
ついそんな考えが浮かんでしまうのを頭を振って打ち消すものの、すぐまた別の不安が首をもたげる。
(……見つけたら、どうしよう。声かける? 何て? 駄目だって言われたら?
……一緒にいられる時間は僅かなのに、直接会うのが久し振りすぎて……)
平原、砂漠、山地、湖。樹の陰に山の裏側に、訪れている客の向こうに。姿を求めて小走りに抜ける。
(……いない……)
入口のホールに失望と共に戻って来た時。
彼女はその正しすぎるほど姿勢正しい、彼の背中を見付けた。
「あ、の」
一歩、二歩。近づいて、声を掛けようとして、声にならない。いや、何を言っているのか解らないまま言葉が口から勝手に流れる。
「……会いたかったです。ずっと会いたかったんです。今のあたしが、団長に会っていいのかわからなかったです、けど……!」
振り向いた団長の顔は、すごく懐かしくて。
言葉にならない思いが目からこぼれて、彼女は指で涙をぬぐった。でもそれではとても止まらなくて、彼女は軍服の腕で目を抑えた。
……涙なんかで、許されるもんじゃない、とも、思う。
せっかく会えたのに、団長が困ったような顔をしているのが、ぼやけて見えた。
「……こっちへ来なさい」
団長に誘われて、雲雀は隅っこの方まで行った。
「何を泣いている」
小さく問いかける彼に、嗚咽を抑えながら雲雀は思いのたけを告げる。
「この半年近く、あたしにできる限りの事をしてきたつもりです……。でも、あたしはきっとまだ、団長に認めてもらえるような功績を挙げられてません……」
どれくらいの功績なら認めてもらえるのか、正直彼女にはわからなかった。
でも結局、あたしはあたしにできる事をやるしかないんだから──そう思って。
「いつになるか、わかりませんけど。いつか……それだけの功績を挙げられたら……また、…………手、……………繋いでもいいですか」
それは、団長の気持ちを確かめようとする言葉だった。
団長もそれを分かっているのか、人前で少女に泣かれて狼狽しているのか、その両方か。
「……軍服を着ているときは不用意に泣くものではない。民が不安に思う。
……手は、教導団の長たる者が人前で繋ぐものでは……ない」
雲雀は咽喉をしゃくりあげた。拒絶、だけでなく。その声色には幾種類かの戸惑いが含まれていたから。
そしてぎこちない団長の手が、彼女の肩を一度だけ励ますように、ぽんと叩いたから。
……団長と雲雀の間の個人的な関係に、何も変わったところなどなかった。
「君の気持ちは、解った」
だけど。
「だが、……何故功績をあげなければならない状況になったと、君は思うのか?」
彼は、ゆっくりと、諭すように言う。
「何のために功績をあげるのか。……いいか、功績をあげること自体が目的ではない。教導団は民のためにある。功績をあげる──民やそれを守護する教導団のために、何を考え、何を為すべきかが大事だ。
そして……その過程で得るものの中には、周囲の信頼もあるだろう。
──君は、私のためではなく、シャンバラと君自身のために働きなさい」
遠回りするように見えても、それが結局一番の近道なのだと、彼は言っているようだった。