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【マスター合同シナリオ】百合園女学院合同学園祭!

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海軍食堂


 今朝のこと、百合園女学院の家庭科室にて。
 フランセット・ドゥラクロワ(ふらんせっと・どぅらくろわ)は目の前の光景に目を丸くしていた。
 海軍のコックやその手伝い、主計員たちが一緒になっていく種類かのカレーや焼き物、サラダなどを作っている。
 食材の皮をするすると剥く人、その横でトトトトトン、と手早くそれを、ボウルに放り込む人。鍋をかき回しだしを取っている人に、できあがった肉に次々と温度計を差し込んでいく人。忙しく皆手を動かし、足を動かし、その大量の食材を「料理」に変貌させていく。
 山盛りの食材が並んだ作業台の一つの前では、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が包丁を手にして立っている。
(新型の機晶船だなんて可愛い願い……その夢の御手伝いを出来るなら、それは光栄な事。船よりも大きな艦を求めない所が、如何にもあの人らしいわね)
「準備は午前中が勝負です。お昼は戦争になります。切り物を多めに。これじゃ絶対余る、と言われるくらいが丁度イイんですよ」
 ローザマリアは手を動かしながら、フランセットに話しかけた。
「そういうものか。それで何か案があるようだが」
「はい。メニューですが、肉じゃがは如何でしょうか?
 カレーと同じ具材で作れるので食材を共用出来ます。と言うより具材を炒めるまでは全くプロセスが同じです。海軍ならではの料理ですし、何よりも――カレーと並ぶ双璧を為す海軍食としても知られています。抑えておくべきでは?」
 彼女は、ニヤリと不敵に笑う。が、フランセットは顔に疑問符を浮かべた。
「肉じゃが……? 聞いたことのない料理だが。作れるのか?」
 それもそのはず、肉じゃがは日本独自の料理だ。かの東郷平八郎がイギリス留学で食べたビーフシチューを懐かしみ、コックが再現しようとしてできた、という話がある。現在ではよく知られる「おふくろの味」だが、今まで食べたことがない。
 ローザマリアは自信ありげに返答する。
「イエス・マム。やるからには、他の模擬店と五分以上に渡り合う為に、力添えさせて下さい」
「そうか、百合園女学院はそもそも日本の学校だというしな、海軍とつなぐものであれば良さそうだ。私も食べてみたい」
「では」
 ローザマリアは早速調理に取り掛かる。肉じゃが専用の鍋を用意すると、食材を炒め、こんにゃくや調味料を投入していった。
 彼女は「汁ありがいいかしら?」と独り言を呟きつつ、急ピッチで肉じゃがを仕上げていった。
 ぐつぐつと煮えていく肉じゃががおおよそできあがったところで、ローザマリアは少量お玉ですくい、味見用の小皿に取り分ける。
「味付けは船の舵取りも同じ、ということで、味見をお願いします」
 フランセットは貧乏舌という訳ではないが、海上で過ごしたためか味には余りこだわらない。大抵のものは美味しく食べられる、のだが、口を付けると新しい味に興味をそそられたようだ。
「ほう、意外に、甘いものなのだな」
「日本の料理はみりんと砂糖、醤油が特徴的ですね」
「そうだな、私はもう少し辛い方が好みかな」
「イエス・マム」
 ローザマリアは醤油をとくとくと入れてかき混ぜ、味を調整していく。
「地球の海軍の食事というのにも興味があるな。食事は志気に直結するからな」
 彼女を見ながら、フランセットはそんな話をしていた。


 スタッフが食事を作って台に載せ、ワゴンでスタッフと共にフランセットが近くの教室まで運んでいくと、
「丁度出来立てなんですね♪」
 と、弾んだ声がした。
 教導団からやって来たルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。隣には彼女のパートナー達と二人、そして金 鋭峰(じん・るいふぉん)の姿があった。
 ルカルカたちも、団長の学園祭の視察にお供した団員の一員だ。
 そろそろ昼食を取るべきかと団長が考えていたところ、彼はルカルカの、ちょっとうずうずしたした瞳を見付けて、何か知らないかと尋ねた。
 自分から言い出しにくい──部下から誘うというのは不遜に思えたから──ところに声を掛けられて、さっそく彼女はここを紹介した、というわけだ。
 ルカルカは、随行するならと学園祭の展示やマップはすべて頭に叩き込んである道行きを解説しながらスムーズにここまで案内してきた。
 彼女は入口でばったり会ったフランセットの姿を見ると、指一本立てて内密、とアイコンタクトを取ろうとする。
「?」
 フランセットは一瞬不思議そうな顔をしたが、その横に立つ団長を見て、ああ、大事にしたくないのだろうと理解したようだった。
 が、ルカルカにはもう一つ別の意図もあった。
(フランセットさんには、海の国防に思う事や海に目指す未来があると思う。これは、それを国軍総司令である団長に話すいい機会かも。
 団長も、現場を良く知る指揮官の話を聞きたいと思ってると思う。けど、イコール軍の意思と取られかねないから団長の発言は慎重にならざるをえない──)
 であればその代わりに、とルカルカは団長の腹心たろうと、意を全身で感じ心で判断するために、神経を研ぎ澄ませていく。
 フランセットが団長のために奥の席を用意させる間、海軍のショーが始まるまで若干の時間があると告げられて、ルカルカは周囲に置かれた簡単な模型、展示品を案内することにした。
「こちらが現在ヴァイシャリー海軍で使用されている……」
 ルカルカのパートナーダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が事前に記憶したデータを、パソコンの映像を交えて解説していく。それが妙に詳細を覚えているので、
「実は、ダリルは教導団のサーバに繋がってるという噂が……」
 ルカルカは団長にもっともらしい口調で冗談を言った。
「お前は俺を何だと思っているのだ。たんに覚えているだけだ。フランセットもルカの与太話なんか信じるなよ」
 珍しく汗をかいたダリルは、これも珍しく、団長に向かって敬礼をした後、側に立つ──流石に団長を放置、というのはよろしくないと思った──フランセットに尋ねた。
「新型機晶船については俺も興味があるので是非話が聞きたい。飛空艇操縦士の資格ももつ俺だ。機晶船の操縦にも当然心惹かれる。導入が決まったら是非見学させてくれ」
「……私の船は、レトロだからな。機晶技術は使用しているが、かなり帆船に近い部分が多い。期待に添えるか分からないな。新型の機晶船は……まぁ、結果次第だ」
 導入が決まったら見学するといい、彼女も言いたいところではあるが。
 フランセットの方も教導団の団長の前で、彼の配下である団員を簡単にヴァイシャリー艦隊の船に乗せる確約するとは、言いにくいようだった。今では国軍に編入されているものの、平時における独立性にそれほどの差はない。フランセットの階級が建国前後で中将の「まま」なのもそのあたりの事情がある。
 それにルカルカはフランセットが団長に考えを話すいい機会だと思い、彼女にも幾つか軍について質問をするものの、彼女としては団長は上官で、あまり親しくもなく、そして一応公務で来ていたし、半分は私的な場のようなため、邪魔をするのは無粋だと思って、普段より口数も少なかった。
 一通り回ったところで、ルカルカは席に着くと食事のメニューを広げた。
「折角ですから、海軍カレーを食べませんか?」
「そうしようか。……『日本風海軍カレーセット』の辛口を頼む」
 頷く団長のためにルカルカはフランセットに注文すると、自身も同じものを頼んだ。
「兵站は大切だよね、士気に関わるし。あ、私も超辛で♪」
「俺は辛口だ」
 ダリルが静かに言うと、
「ルカはカレーが好きだよな。……俺も中辛大盛り」
 団長が危害を加えられないか、と念のため彼の背後を守っていた夏侯 淵(かこう・えん)がそんなことを言った。
「ふぅん」
 ルカルカが気づき微笑ましげに笑む。それを淵はあえて気付かない振りして、運ばれてくるなり、せっせと口に運んだ。
 実は甘口が好みだが、子供だと言われたくないので見栄を張った。外見が10歳くらいの子供なので、どうも大人ぶりたいのだ。
 幸いセットにはサラダや牛乳、ゆで卵が付いてきたので、彼も見栄を張り通すことができた──のだが、ルカルカの微笑は子供を見るような大人の視線で、それが何だか気になる淵だった。