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エデンのゴッドファーザー(後編)

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エデンのゴッドファーザー(後編)

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 コツコツコツ――。
 耳を澄ませば確かに階段を誰かが登ってくる音が聞こえた。
 足音を消して迫れるほど、マフィアの下っ端構成員など器用ではなく、死線を潜り抜けてきた契約者にとっては温い――。
 入口のドアに辿り着いたマフィアが左右に張り付き、互いに頷いた。
 突撃――だが、

「うりゃぁっ!」

 そのドアの向こうでミネルバが振るったライトブリンガーで裂かれ、それを合図に全員が飛び出してきた。
 階段にもぞろぞろといるマフィア達は、檻から放たれた猛獣を見ている気分だった。
 直感的にまずい、敵わないなどと思えば一歩目は出遅れる。

「すまない――ッ、シェリーを連れて行かねばならないんですッ!」

 両手にカタールを装着したザカコが1人、また1人とマフィアを薙ぎ、突き刺していく。
 クソ――ッ、クソ――ッ!
 慌て、悪態をつきながら後ろにいるマフィア達は銃を構えるのだが、再びミネルバがザカコを飛び越えて彼らの前に降り立ち、一閃で全てを薙ぎ払った。

「こっちッ!」

 情報収集とホテルの手配を済ませ戻ってきた桐生 円(きりゅう・まどか)が、道を挟んだ向こうのテナントの間から手招きをしているのが見え、シェリー達全員で一斉に横断した。

「キミ達はお呼びじゃないからっ」

 それを追おうと銃撃してくるマフィアを円も銃で応戦した。

「円、どうでした?」

 ゆっくり銃撃戦を繰り広げながらホテル目指して進んでいく一行の中、オリヴィアは円に成果を求めた。

「情報は全然だめ! でもホテルはちゃんと確保してきたよ。どこよりも一番乗りできるんじゃないかなぁ、多分っ! 他にホテルに行く理由を持ってる人がいなければいいんだけどね」
「そう、ありがとう」

 しかし、目的地への前進は路地を進んだ少し先で止まってしまった。
 綺羅達が先読みして立ち塞がったのだ。

「これは……全員でホテルまで向かうのは無理そうですね」
「おいおい、弱気になるなよ相棒っ! シェリーにゴッドファーザーになってもらうんだろ? 表だろうが裏だろうが、ガキが笑って過ごせる世界を作ってもらうために頑張ってるんだからよ」

 すまないとザカコはヘルに目で言った。
 しかし、だ。
 状況は挟み撃ち――不利に変わりはない。

「だからこそ最後に、こっそり自分達に教えてください、シェリー。開けられる日付と場所が定められた金庫なんて、普通に考えて怪しすぎます。シェリー、貴方は金庫について真実を知っているのでは? 自分達を信頼をしてもらえているなら話して貰いたいです。無論、それを自分達が聞くよりも、集まったボスの面々や狙う方の前で言うべきなのかもしれませんが――」
「冥土の土産ってやつだっ」

 シェリーは一度天を仰いで決意した。
 そんな調子で言われ、自分をここまで守ってきてくれた人間に、無碍な態度を取れるはずもないからだ。

「金庫は僕の父――ロメロの棺で間違いない。それはもう掘り起こしてホテルに、ラズィーヤの元へ送ってある。鍵はどれでも問題ないはずだ。棺に巻きつけられた鎖の錠を開けるだけで済むから――。そして時間と場所の指定は、1人を生き残らせるため。1人の王を、1人の神で成り立つエデンならば、可能性があるから――。僕が嫌で出て行った日陰の街を、日向の街にする可能性が高くなるから。だから遺産も――そういう類。金や武器ではなく、エデンを掌握するための何か」

 推察の域は出ないけど――と付けたし、シェリーは悲しそうに言った。
 父は最後の方、死の直前までのわずかな時間で方向転換を試みていたというのを聞いたから、そう思うんだ、と――。
 少し大事な部分をはぐらかされただろうとは思ったが、十二分に信頼をしてもらっているとも思えた。
 なら、尽くそう――。

「行きましょう、シェリー。私の後ろから出ちゃだめよ」

 シルヴィアがそう言ってシェリーを一旦自分の影に回すと、それを見た円とミネルバが銃を構えるマフィア達の群れに飛び込んだ。
 幸運だったのは、契約者に挟まれなかったことだ。
 例え数で劣っていようが、実力に大きな差があれば少なからず打開への道は開けている。
 ミネルバは身体に何発も銃弾を浴びたものの、イモータリティで一度きりの踏ん張りを見せ、多くのマフィアを巻き込みながら剣で薙ぎ、円も銃撃で確実に1人1人を沈めていった。

「どきなさいッ」

 シェリーを後ろにつかせながらシルヴィアも敵との距離を一気に詰め、進路を妨害する敵を居合の一撃で仕留め、ホテルへの道を駆けた。

「ちっ、シェリーを追え! 逃がすなッ!」

 綺羅が部下達に号令をかけて、自身も先走る気持ちと同様に身体を前へ進めるが、ザカコのカタールが目の前に伸びてきた。

「邪魔をするなッ!」
「見よ! 深淵より至りし名状し難き我が神の威光を!」

 綺羅とピエールがヒロイックアサルトで自身を強化し、2人掛かりでザカコに飛び掛かるが、それを華麗に交わしていく。

「邪魔だよぉ」

 ならばと、マリスがライフルを構えてザカコに銃口を向けるのだが、

「おいおい、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ」

 ヘルの銃で腕を撃ち抜かれ、血飛沫と共にライフルを落とし、ザカコもまた、敵の力量を計り終えた所で反撃に打って出、2人に切り傷を与えた。

「少々実力差があるようですね……。逃げるなら見逃しますよ」

 ザカコの優劣はついたと言わんばかりの言葉が、プライドを傷付け、彼らに捨て身を決意させた。
 雄叫びと共にマリスがザカコに、ピエールがヘルに神風を仕掛け、1人はカタールで貫かれ、もう1人はライフルで身体を撃ち抜かれたのだが、体当たりを仕掛けて足を取り、地面に強引に叩き伏せた。

「よくやったわ……。さあ、地獄を味わいなさい」

 綺羅が一歩、二歩と引いた位置からアシッドミストを展開し、強酸をもって全てを溶かしつくそうと試みた。
 冗談じゃない――とヘルは機晶爆弾を放り、それをライフルで撃ち抜いて爆風で霧を吹き飛ばす。
 その霧が綺羅へ降りかかり、彼女の身体を溶かし、焼かれた皮膚が煙を上げるのだが――今一度アシッドミストを唱えた。

「死なば諸共ッ! このソドムの街で朽ち果てようッ」

 その自爆行為に多くの者が溶けていった――。