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薔薇色メリークリスマス!

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薔薇色メリークリスマス!
薔薇色メリークリスマス! 薔薇色メリークリスマス!

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 再び室内に戻ると、プレゼント交換会もそろそろ終盤だ。

「やっぱりクリスマスパーティっちゅーんはええもんやなっ!」
 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は、サンドイッチを片手にご機嫌だ。例年、祖父の祥月命日ということで、用事と言えば法事だった泰輔なだけに、人生初のクリスマスにやるクリスマスパーティはとても楽しみだったらしい。
 とはいえ、問題はプレゼントだ。
 服装についても悩みはしたものの、結局学生の特権ということで、一番のフォーマルでもある制服に落ち着いた。が、プレゼントはまた違う問題で、なによりの問題点は、泰輔の金銭感覚にある。
(なるべく予算かからんで、豪勢なモン……なにがええんかなぁ?)
 ケチなのではなくあくまで倹約家としては、貧乏くさいものを贈りたくはないがなるべく安くは済ませたく、そうして頭をひねった結果が、今回のプレゼントだった。

「というわけで、俺からのプレゼントはこれや。歌曲王フランツ・シューベルトの直筆楽譜!」
 パートナーのフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)が、今日のために作った小曲だ。たしかに、これはこれ以上なく豪勢で、……かつ、泰輔としては五線譜の紙代しかかかっていないという代物である。
 おー! と声があがり、フランツはまんざらでもなさそうだ。そんなフランツに、泰輔が「な?」とウインクを寄越す。
「誰かがおまえン歌で幸せな気分になる、こんな嬉しい、贈る側も嬉しいプレゼントがあるか?」と半ば強引におだてて書かせたというのは、まぁ、裏の話だ。
 フランツとしては、「願わくば、僕の書いたこの曲が、それを喜んでくれる人の手に渡りますように!」というところだが……。
「え、本当にあの歌曲王の、シューベルト…さん?」
 幸いなことに、プレゼントの受け取り手である堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)は、ぱぁっと瞳を輝かせている。
「これはまた、素晴らしいプレゼントですね」
 ヴォルフラム・エッシェンバッハ(う゛ぉるふらむ・えっしぇんばっは)は、さっそく楽譜に目を落とし、口元をほころばせた。
「僕は『白鳥の歌』の『セレナーデ』が一番好きです!」
「そうかい? ありがとう」
 一寿の言葉に、フランツもほっと安堵したようだ。
「そーやろそーやろ。フランツの才能のこっちゃ、絶対はずれはあらへん」
 オペラに関しちゃ、脚本見る目ないけどな……と、泰輔は心の中で密かに付け加える。
「僕からは、これを」
 綺麗にラッピングが施されたプレゼントを、今度は一寿が泰輔に贈る。
「おー。なんやろ?」
 中からでてきたのは、一寿の手作りのオルゴールだった。
「オルゴール?」
「はい。ドラム部分をつけ替えると、別の旋律が奏でられるようになってます。元々の曲の「ホワイト・クリスマス」と、自作の取り換え用ドラムで「星に願いを」「クリスマス・ノエル」「ジングルベル」、それからパートナーのヴォルフラムか作ってくれたオリジナルの小曲、と5つのメロディが楽しめますよ」
「器用やなぁ。エエもん、おおきに」
「まさに音楽の交換だね、素晴らしいよ!」
 受け取った泰輔だけでなく、フランツもご機嫌だ。
「かのフランツ・シューベルトの新作とは、興味深いな」
 クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)が、一寿の楽譜を少し羨ましげに見ている。
「せや。フランツ、せっかくやし、ぱーっと弾いたったらええやん」
 泰輔が軽くそう言って、フランツの背中を叩く。
「まぁ……やぶさかではないね」
「それでしたら、私からの返礼ということで、ご一緒に演奏してもよいですか?」
「それは素敵だ!」
 ヴォルフラムの提案に、フランツは頷いた。

 フランツがピアノの前に座り、ヴォルフラムが竪琴を構える。
 楽譜は、ヴォルフラムに見えるように、一寿が手にしていた。フランツは当然暗譜済みだ。
「多少、即興でもかまわないかな?」
「ええ。かまいません」
 そう答えてから、ヴォルフラムは竪琴を軽く鳴らして音を確認し、フランツに微笑んで言った。
「ふふ、そうそう惨めなものでもないですよ、竪琴ひきも」
 フランツ・シューベルトがゲーテの詩に曲をつけた「竪琴弾きの歌」になぞらえた言葉に、フランツは「たしかに」と肩をすくめてみせる。
「では……」
 こほん、とフランツが咳払いをする。パーティの面々は、声を潜め、その音色を待った。
 呼吸をあわせ、ピアノが流れ出す。それにあわせるようにして、竪琴の柔らかな音色が響きわたる。
 最初は少しもの悲しく、しかし次第に明るく、華やかに。
 聖なる夜の祝福が、音となって響き、弾け、溢れ出す。
 それは心までも震わせるような、素晴らしい演奏だった。

 即興を終えると、満場の拍手が鳴り響く。
 フランツは席を立ち、ヴォルフラムと二人で恭しく頭を下げた。
「素晴らしいな」
 ジェイダスも満面の笑みで、二人を褒め称える。
「歌詞がないのが残念だね」
 クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)がそう言うと、「それなら、クリスマスソングとでもいくかい?」とフランツは気軽に応じる。
「頼めるかな? 楽譜や歌詞は用意したんだ」
 クリスティーはそう言うと、レモを手招いた。
「え……本当にやるんですか?」
「なにを言ってるの。そのために練習したんだから」
「そうですけど……」
 この日のために、密かにレモはクリスティーとクリストファーにクリスマスソングのレッスンを受けていたのだ。
 いつかはソロも歌えるようになって欲しいところだが、残念ながら、相変わらずレモの歌は『まぁまぁ聞ける』レベルなのが実情だったりする。
 これに関しては、不肖の弟子すぎて、レモは常々二人に申し訳なかった。
「一寿さんも、一緒に歌ってくれるかな」
 レモが半ばすがりつくように一寿を見上げる。
「もちろんです。というか、みんなで歌いましょう」
「そ、そうだね!」
 安堵するレモに、しょうがないなと苦笑しつつ、クリストファーは歌詞の書かれた紙片を希望者に配った。
「演奏は、僕も参加するよ」
 黒崎 天音(くろさき・あまね)が、ヴァイオリンを手に進み出る。事前に、クリストファーが頼んでいたのだ。それと。
「マユさんも! ね、お願い」
 マユ・ティルエス(まゆ・てぃるえす)にレモがお願いし、小さな身体いっぱいにリュートを抱えたマユも楽隊に参加することになった。
「フロイデ!」
 フランツは大喜びで、指揮をとるように指をふりあげている。

 流れ出す、陽気なクリスマスソング。
 四重奏の伴奏にあわせ、楽しそうな声が重なり合い、冬空へと流れていく。 暖かく和やかな合唱は、何曲も続いたのだった。