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薔薇色メリークリスマス!

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薔薇色メリークリスマス!
薔薇色メリークリスマス! 薔薇色メリークリスマス!

リアクション

8.


「見て欲しいものがあるんです」
 そう前置きをして、そっとパーティ会場から、マユはレモを連れ立って抜け出した。
「さっきは、急にお願いしてごめんね? でも、どうしたの?」
「えっと、合図するまで、振り返らないでいてもらえますか?」
「うん?」
 頷きつつも、レモは不思議そうだ。
 喫茶室から少し離れた場所で、ようやくマユは足をとめる。
「振り返ってみてください」
 その言葉に、レモは振り返り……暫く、言葉をなくした。
 二人の前に広がっていたのは、薔薇と、呼雪が飾り付けたイルミネーションに縁取られた喫茶室だった。光の中、楽しそうに笑い合う人々の姿は、泣きたくなるほど幸せそうに見える。
「レモさんのおかげで、みんな笑顔なんですよ」
「……そう、かな」
「はい」
 この景色を、マユはどうしても、レモに見せたかったのだ。
 喜んでくれただろうか? とレモを見上げると、レモの頬に、一筋の涙が伝っていた。
「……ありがとう。すごく、すごく嬉しいよ」
 そう言うと、レモは両手を広げ、その光景を手のひらで包み込むようにする。大切な景色を、そのまま胸にしまい込みたいように。
「でも、困っちゃうな」
「え? なんでですか?」
「だって、僕がみんなに感謝を伝えたくて計画したのに……僕が一番、喜ばせてもらっちゃった」
 照れ笑いを浮かべて、レモは涙をぬぐう。
「やっぱり、決めたよ。絶対、僕はここを大事にしたいって」
「レモさん……」
 どこか決意を感じさせる呟きに、マユは不思議そうに小首を傾げた。
 すると。
「少年たち!? ど、どうしてここに」
「アーヴィンさん!」
 物陰にいたアーヴィン・ヘイルブロナー(あーう゛ぃん・へいるぶろなー)が、二人の姿に驚いた声をあげる。が、驚いたのはレモとマユも同じだ。
「い、いや。偶然近くまで来たものだからな」
 アーヴィンはそう言い訳をするが、レモにはわかっていた。
 なんとか勇気を出して、ここまで来てくれたということが。
 いつごろから、こうして見守っていてくれたのかはわからないけれども……。
「アーヴィンさん、ちょっとそこで待っててね! マユさん、どこにも行かないように見てて!」
 レモはそう言うと、一目散に会場へと戻っていく。そして、とって返してきたときには、レモの他に、クリストファーの姿もあった。
「あ、あの。アーヴィンさん、きっと来てくれると思ったから、プレゼント交換のくじ引き、僕、かわりにしておいたんだ。相手は、クリストファーさんだったから、今ここでできたらと思って……」
 息をきらせて、レモがそう説明する。
「なるほど、そういうわけだったか」
 クリストファーは苦笑しつつ、アーヴィンに向き直った。
「メリークリスマス、アーヴィン」
「…………」
 微笑みとともに差し出されたプレゼントを、アーヴィンはぎこちなく受け取る。
 クリストファーからのプレゼントは、手作りのビーズアクセサリーのセットだった。
 携帯ストラップはブレスレット風に手首に通せるタイプの長めのストラップと、短めのストラップの2つセットになっていて、男性が使っていても違和感のないように、シルバーのシンプルなデザインだ。
「これは?」
「しおりだよ。アーヴィンは本が好きだから、使ってくれるといいな」
 まぁ、その本の内容については、ノーコメントにしておきたいところだが。
 さておき、しおりのほうは、ヒイラギの葉の座金に、ビーズで作ったヒイラギの葉と赤い実のチャームをチェーンで繋いである。座金、チャーム共につや消し仕上げで、落ち着いた風合いだ。
 さらに、二枚組のコースターも入っている。白い薔薇と、赤い薔薇をモチーフにした、ビーズで編まれたものだ。
「気に入ってくれたなら、いいんだけど」
「もちろんだとも! その、……ありがとう。これは、俺様からだ」
 アーヴィンが用意したものは、薔薇をモチーフにした、ステンドグラスのランプだった。
「灯すと薔薇が浮かび上がるんだね。ありがとう、大事にするよ」
「そうか? ……よかったのだよ」
 アーヴィンは、ほっとしたように微笑んだ。その顔を見上げ、レモもまた、微笑む。
「よかった。ホントに」
「レモ少年、その……心配をかけて、すまなかったな」
「ううん! ただね、僕も今回初めて知ったんだけど……プレゼントを贈るのって、こんなに素敵なんだね。贈るほうも、贈られたほうも、ドキドキして嬉しいんだなぁって。それをね、アーヴィンさんも感じてくれて、よかった!」
「本当だな」
 アーヴィンは頷き、レモにもプレゼントをくれた。薄い本……といっても、可愛らしい絵本だ。
「ありがとう、アーヴィンさん。メリークリスマス!」
 嬉しそうに受け取ると、レモはさっそく、マユと二人で絵本の表紙をのぞき込んでいる。その姿に、クリストファーは、どこかほっとしていた。
 {SNM9998793#ウゲン・タシガン}が脱獄したことについて、レモは知っているのかどうか。クリストファーもクリスティーも、判じかねている。けれども、まだウゲンの事情もはっきりとはわからない以上、レモに尋ねるのは時期尚早ではないかというのが、二人の今のところの結論だった。
 幸い、パーティ会場では、レモはウゲンの話を聞いてはいない様子だ。
「クリストファーさんて、歌だけじゃなくて、手芸も上手なんだね。すごいなぁ……」
 そう、無邪気に話しかけてくるレモに対して、考えていたことなどはおくびにも出さず、「よかったら、今度そっちも教えようか?」とクリストファーは穏やかに答えたのだった。


 喫茶室へと戻るところで、ちょうど、ドアを出てくるジェイダスとラドゥにレモたちは出くわした。
 パーティもそろそろ終わるということで、一足先に帰ることにしたのだろう。
「あの、ジェイダス様、ラドゥ様。今日は本当にありがとうございました」
「いや。楽しかった。メリークリスマス、レモ」
「まぁ余興としてはなかなかだったかな」
 ジェイダスがレモの頭を撫で、ラドゥはそう口にして、とんっとレモに何かを手渡した。
「私とジェイダスからだ。駄賃にしておけ」
「え……! あ、ありがとうございます!!」
 思わぬプレゼントに、レモは頬を紅潮させ、二人に深々と頭を下げる。
 リア・レオニス(りあ・れおにす)から預けていたコートを受け取ると、二人はゆっくりとした足取りで、喫茶室を後にした。
「嬉しいな……びっくりしちゃった」
「よかったですね」
 マユがそう言い、クリストファーも微笑む。
 すると、再びドアが開き、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)リュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)が出てきた。
「お忘れ物があったから、お渡しししてきますね」
 そう口にして、二人はジェイダスたちの後を追っていった。


「ジェイダス様」
 エメの声に、ジェイダスは足を止めて振り返る。薔薇のなかに立つ姿は、少年となっても相変わらず、神々しいまでに様になっている。
「あの……プレゼントを、お渡ししたくて。よろしいでしょうか?」
 ジェイダスへの贈り物は、万華鏡だった。繊細な作りの、美しいものだ。
「おまえが作ったのか?」
「はい。あの花火の薔薇を想いながら作ってみました。楽しんで頂ければ幸いです」
 万華鏡の景色は、二度とは見られない、一瞬で消える美しい薔薇のようなもの。そう思い、エメはこれを選んだのだった。
「ありがとう。美しいな」
 イルミネーションの光を覗きこむジェイダスは、少しだけ子供のようでもあり、なんだか可愛らしい。
 気に入ってくれたことを喜びつつ、エメは思い切って、今日一番の勇気を振り絞り口を開いた。
「あの…実はお願いが、あるのです」
「お願い?」
「私に花を教えて下さらないでしょうか。ジェイダス様に師事しても、いつかは自分の【美】を求めて行くでしょう。それ位でなくては、成長もないと思います。ですが、今は貴方の世界を間近で見たい、追いたいと思うのです。どうか、よろしくお願いします」
 真摯な瞳でそう願い出たエメを、しばしじっと、ジェイダスは見据えた。その言葉が心からのものであるかを、吟味しているかのような間だった。
「……いいだろう。ただし、甘えは許さないぞ」
「もちろんです。ありがとうございます! なによりのプレゼントです」
 そう瞳を潤ませるエメに、ジェイダスはふふっと笑みをこぼし、それから、指を曲げて少しかがむように命じる。まるで、内緒話をしたいかのように。
「ジェイダス様?」
 不思議に思いつつ、素直にかがむと、ジェイダスは少しばかり背伸びをして、エメの唇に軽いキスをした。
「プレゼントは、こっちだ」
「…………ありがとう、ございます」
 薄闇にもそうとわかるほどに、エメの白い肌をほの赤く染まった。傍らの、薄紅色の薔薇のように。

「ラドゥ様」
 エメとジェイダスのやりとりを、若干やきもきと見守っていたラドゥの肩に、ふわりとストールが巻かれる。
「なんだ……貴様か」
 つれないながら、いつも通りの反応に、リュミエールはくすくすと笑った。
「これは、なんだ?」
「プレゼントだよ。これはね、ラドゥ様にだけ」
 先ほど皆に配ったものよりも大判のストールは、茜地に薔薇を黒く型染めしたものだ。
「メリークリスマス、ラドゥ様。寒い夜も僕の想いが貴方を暖めますように、……なんてね」
 わざとおどけて笑うリュミエールに、ラドゥは「恥ずかしいやつだな」と視線をそらす。だが、きゅっと、その手はストールを握っていた。
「少々肌寒いからな。仕方が無い、もらってやる」
「うん、ありがと」
「…………メリークリスマス、リュミエール」
 ぽつりと、小さな声で付け加えられた予想外の言葉に、リュミエールはいっそう笑みを深くして、ラドゥを見つめる。照れまくったラドゥはといえば、ついに背中を向けてしまったのだった。