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リアクション
【2022年12月24日 07:50AM】
正子での情報収集を終えたフレデリカは、ホテルの外で簀巻きにされている面々への事情聴取を行うべく、一旦ホテルを出ることにした。
が、ロビーのラウンジで朝食バイキングを楽しんだ後、ソファーで休憩していたコントラクター達を発見し、ついでだからと、彼らからも事情聴取することを決めた。
「やぁ、おはようお嬢さん。真っ赤なミニスカサンタコスチュームが、とても決まってるね」
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)の挨拶に、フレデリカはやや戸惑い気味の笑みを返す。
「あ、気にしないでください。エースはいつも、こんな調子ですから」
隣のソファーから、エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が僅かに苦笑を湛えて助け舟を寄越す。
他にリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)やクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)といった顔も見られた。いずれも、昨晩のパーティーに参加していた者達だ。
他に秋月 桃花(あきづき・とうか)や五十嵐 理沙(いがらし・りさ)、セレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)、或いはルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)といった顔ぶれも揃っていた。
いずれも朝食バイキング中にエース達とばったり出会った為、食後の談笑を楽しんでいたところである。
だがその会話の内容はというと、昨晩何をしていたか、を互いに尋ね合い、誰もはっきりとは答えられないという、フレデリカには喜んで良いのか良くないのか、よく分からない方向性になっていた。
「あっ、フレデリカさん、昨晩このホテル近辺を飛び廻ってなかった?」
理沙からの唐突な問いかけに、フレデリカは一瞬、息が止まりそうになった。
「えぇっとですね、実は私達、昨晩はツァンダのローカル番組の収録に入っていたのですけど、所々に、フレデリカさんの姿が見きれていたんです」
セレスティアの説明に、フレデリカは内心で冷や汗をかいていた。
記憶は消せても、記録は残ったままだ――ダリルの言葉を、この場でも思い出さざるを得ない。
SPB(シャンバラプロ野球)傘下のツァンダ・ワイヴァーンズ球団で、ワイヴァーンドールズというマスコットガールユニットを組んでいる理沙とセレスティアは、昨晩のパーティーの様子をテレビ取材しに来ていたのである。
それが、ツァンダのローカル放送での深夜番組『ワイヴァーンドールズの旅して乾杯』で放送される予定となっていたのだが、スタッフ達の記憶が揃いも揃って曖昧となっており、番組編集が上手くいっていない、というのである。
「ひとりやふたりの記憶が飛んでいるだけなら、酔い潰れたせいだっていえるんだろうけど、ここに居る全員が何も覚えてないというのは、ちょっとおかしいよね」
リリアが思案顔でフレデリカに問いかけてくるが、フレデリカは引きつった笑みを浮かべたまま、何とも答えようがなかった。
更に――。
「郁乃様の姿がですね、見当たらないんです。一体どこへ行ってしまったのやら……」
桃花がぷっと頬を膨らませて、不満顔を見せた。
実は彼女のパートナーである芦原 郁乃(あはら・いくの)は、ホテルの外で簀巻きにされている大勢のコントラクターの中に居たのであるが、まさか自分のパートナーが簀巻きにされているとは露とも知らず、桃花はただただ、立腹するばかりであった。
しかも、まだ桃花自身は知らないのだが、郁乃を簀巻きにしてホテルから放り出したのは、何と桃花本人だったのだから、フレデリカとしても何もいえなかった。
「わしはまぁ……この頭痛は二日酔いじゃからの、昨晩何があったかなんぞ、端から覚えておらんのは当たり前なんじゃが」
ただひとり、ルシェイメアあけは記憶の曖昧な己に対して納得している様子を見せた。
皆が皆、ルシェイメアのような反応を見せてくれたらフレデリカとしても大いに助かったのだが、現実は中々そう上手くは事が運ばないのが常であった。
「そういやさぁ……おいら、奥歯の一部が微妙に欠けてるみたいなんだけど……昨晩、何食ったんだろう? 歯が欠けるってぐらいだからよっぽど堅い何かなんだろうけど……普通、料理にそんなものが混ざってたら、気づく筈だよね?」
クマラが納得いかないといった顔つきで、リリアから借りた手鏡を使って何度も己の口の中を覗き込む。
料理に紛れ込んでいた謎の硬質物体――フレデリカは我知らず、息を呑んでいた。
* * *
外で簀巻きにされてた郁乃さん……実は彼女も、私を手伝ってくれてたひとり、なんだよね。
でも、パーティー会場でのプレゼント配布が終わって、一部のひと達だけで打ち上げが行われた時、郁乃さんってばもう、べろんべろんに酔っちゃって、ほんと、どうしようかと思ったぐらいだったわ。
何でも、ブランデー入り紅茶、じゃなくて紅茶入りブランデー試飲大会なんてやらかしちゃったらしくて、そこでがぶがぶやっちゃったもんだから、そりゃ酔っぱらうよね、って感じで。
そういえば、パーティー会場でのプレゼント配布に併行する形で、参加者同士のプレゼント交換会も行われたよね。
提案者のエオリアさんが上手く仕切ってたみたいで、参加したひと達は本当に楽しそうだった。
ただ、その中に提供者不明のプレゼントが紛れ込んでたみたい。
「これは一体、どうしたものでしょうね」
「う〜ん……中はどうやら、宝石のようだね。きっとどこかの恥ずかしがり屋さんが、匿名で提供してくれたに違いないよ」
小首を傾げるエオリアさんだったけど、エースさんのこのひと言で、そのまま交換会用のプレゼントに含めてしまったようね。
でも、ちょっと怪しいっちゃあ怪しいか。後で調べた方が良さそう。
ところでエースさんってば、花束をいつもあんなに沢山、用意してるのかしら?
パーティー会場で出会う女のひとには、片っ端から花束を手渡してるみたいだけど。
そうかと思ったら、リリアさんとダンスを踊ってみたり。
リリアさん、何だかすっごく嬉しそう。こういうシチュエーションって、普段はあんまり、馴染みがないのかしら?
でも、恋愛感情とか、そういうのは無いようね。
実際エースさんが他の女性に優しくしてるのを見ても、全然怒った素振りとか見せないもんね。
あ、そういえばエースさん、ある女の子に料理を貰って、顔が真っ赤になってたっけ。恥ずかしいとかそういうのじゃなくて、単純に激辛だったってことらしいけど。
その激辛料理……えぇっと、正確には激辛四川料理ね、それを振る舞ってたのは、美凜さんだったみたい。
もうめっちゃくちゃ辛かったみたいで、あのエースさんが危うく口の中の物を吐き出してしまいそうになるって程だから、よっぽどだったんだろうね。
「どう? 美味しかったアルかー? 美凜の特製料理アル。極上の逸品ネ」
「最高に辛いけど、味も最高だったよ。お礼って訳じゃないけど、一緒に踊ってくれないかな。しっかりリードしてあげるから」
流石エースさんね〜。辛さを乗り越えて、しかも美凜さんをダンスに誘うなんて、中々出来ることじゃないわね。
って、感心してる場合じゃないわね。
今のところ、サンタの秘宝に繋がるヒントはまだ何も、見つかってないんだし。
……あら、どこかから悲鳴が。
見ると、クマラさんがほっぺたを抑えて悶えてる。
美味しい料理を物凄い勢いで食べてたみたいだけど、何か堅い物を噛んじゃったみたいね。
「何じゃこりゃ〜……って、宝石?」
クマラさんが料理の中に紛れてた物をつまんでるけど、あれってまさか……秘宝!?
うそ、ちょっと、冗談でしょ?
何でサンタの秘宝が、あんなところに紛れ込んでるの?
いや、それだけじゃないわ……郁乃さんが会場でのプレゼント配布が終わって、後片付けしてる時にも何か、拾ってたよね。
「あれー? 何だこれー? 綺麗だなー。宝石みたいだけど、こんなの落として気付かないひとって、普通居るかなぁ?」
そんなことをいいながら、郁乃さんが拾い上げた物……ちょっと待って、それも秘宝じゃないの!?
一体、どういうこと?
どうして秘宝が、複数あるの? それがどうして、その辺に散らばってるの?
おかしいわよ、絶対、おかしいって。
私、もうひとつの秘宝は一個しか用意してなかった筈よ。それなのに、複数あるってどういう訳?
……駄目駄目、落ち着いて、フレデリカ。ここでパニクったって、解決にはならないわ。
とにかく、郁乃さんが秘宝らしき宝石をひとつ拾ってるし、クマラさんも秘宝っぽいものを噛んで歯が欠けちゃった後、その宝石をどこかに処分したみたい。
郁乃さんを、見つけないといけないわね。
んで、その郁乃さんだけど、打ち上げの時にべろんべろんに酔っぱらってたせいで、全然違うひとを桃花さんと勘違いして、押し倒そうとしてた。
その瞬間を桃花さんに見られたみたい。
「あれ? 桃花の胸、何だかいつもより小さかったような……」
「……誰の、何が、小さかったんですか?」
あ、桃花さん。全身から物っ凄い負のオーラが出てるよ。
うわー、見てらんない。
郁乃さんの着てた服を綺麗にひん剥いて、妙に慣れた手つきで簀巻きに仕上げちゃった。成る程、これが郁乃さんが簀巻きにされちゃった経緯なのね。
ん?
ちょっと待って。
郁乃さんがポケットに仕舞い込んだ秘宝は、どこいったのよ?
うわちょっとマジ最悪。
全然分からなくなったじゃない。簀巻きにした桃花さんも、郁乃さんの服をどこに放り投げたのか覚えてないみたい。
こうなったら、パーティー会場の清掃係を当たるしかないわね。
この時、私の時計は2022年12月23日の22:00頃を差していた。
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