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2023 聖VDの軌跡

リアクション公開中!

2023 聖VDの軌跡

リアクション



【この中に一人くらいはリア充が居るっぽい!】

 闇プロレス式シングルマッチ、第三試合。
 聖ヴァンダレイの刺客として花道から現れたのは白いワンピースを纏った佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)
 裸足に長い髪を顔に垂らしたルーシェリアの風貌は、流れているBGM効果も相まってまるで貞●のようである。
 ゆっくりと花道を歩み、丁度中間地点。立ち止まったかと思うと、着ていた物を脱ぎ捨てた。
 そこに現れたのは裸身――ではなくリングコスチューム。そして怒りの表情のルーシェリアであった。
 リングに上がっても、その表情は変わらず、怒りやら恨みやら辛みやらが籠った視線で花道を見据える。
 その視線を浴びながら、入り口から現れたのはフィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)。ルーシェリアの怒り等諸々籠った視線を受けながらも、涼しい顔で花道を歩く。
 悠然とリングに上がったフィーアは、持っていたマイクのスイッチを入れる。会場にハウリングが響き、歓声で沸いていた会場が静まり返る。そして口を開こうとした、その時であった。
「ちょ、ちょっと待て! 待ってくれ! おい貴公! 何故貴公がカップル側として参加しているのだ!?」
 入場口から山県 昌景(やまがた・まさかげ)が駆けつけてくる。

――昌景は今回、フィーアと一緒に会場入りしていた。聖ヴァンダレイ側の人間として。
 しかし気が付くと、フィーアは姿を消していた。何処を探しても見当たらない内に試合が始まってしまった。
 いくつもの試合が終わったというのに、いくら探してもフィーアの姿は無い。そんな中、ふとリングを見ると悠然と花道を歩くフィーアの姿を昌景は目にする。
 しかもよく見るとカップル側の人間としてだ。何が何だかわからない中、問いたださずにいられなくなり、昌景も気付いたらリングへと駆け寄っていたのであった。

「貴公はむしろ『カップルなぞ粉砕されればいい』と言っている側ではないか!」
 昌景がそう叫ぶと、フィーアがニヤリと笑みを浮かべ、マイクを構えた。
『ああ、確かに僕はカップルを粉砕する側の人間だ』
 だが、と一呼吸おいて、フィーアが口を開く。
『やるならば自身の手で粉砕すべきだ。聖ヴァンダレイのヴァンダレイキックではなく、僕自身の手で、な……だから僕はカップル達をあえて解放するのさ、粉砕するために!』
「なら一言私に言っていけぇッ!」
 全くその通りである。
「……どうやら一度語り合う必要があるようだな」
 昌景はそう言うと、リングへと上がる。
「ああ、語るとは言っても拳でだけどね」
 フィーアがそう言って、笑みを浮かべる。
「そこのお二人さん、私を忘れて貰っちゃ困りますよぉ?」
 完全に蚊帳の外に追いやられていたルーシェリアが笑みを浮かべる。だが、目の奥は完全に笑っていない。ぶっちゃけ怖い。
「おっと、物申すというならボクも一言あるよ!」
 すると笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)がリングへと上がり、ルーシェリアを指さす。
「ルーシェリアさん、貴女にね!」
「私に? 何か文句でもぉ?」
 狂気じみた笑みを浮かべながらゆらりとルーシェリアが紅鵡を笑っていない目で見据える。だが、紅鵡も負けてはいない。ニヤリと笑みで返す。
「ルーシェリアさん……貴女、既婚者だよね? パートナーがいる上結婚までしている、充分リア充なんじゃないかな? それがボク達聖ヴァンダレイ側にいるっていうのはおかしくないかな?」
「ははははは、別におかしくなんてないですよ? そのパートナーが来なかったんですからぁ」
 口では笑っていたが、ルーシェリアの顔は笑っていなかった。色々と複雑な事情があるようである。
「まぁ……色々あるんだね……でもリア充には変わりないよね? 別に恨みは無いけどさ、この胸の恨みや嫉妬の発散させる相手になってもらおうかな?」
「いいですよぉ? 私も八つ当たりの相手が欲しかったところですからぁ」
 紅鵡とルーシェリアが笑顔で睨み合う。

――その時、リングに薔薇が投げられ、刺さった。

「「「「何奴!?」」」」
 リング上の四名が投げられた方向を見ると、コーナーリングに立つ人影があった。
 そこに立っていたのはリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)――否、今彼女はリカインであって、リカインではない。
 彼女はタキシードに身を包み、【「雄狩る」の仮面】を装着していた。
『――非リア充の怨念を感じ取り、参上した』
 リカインはそう言って、リングへと降り立つ。

――非リア充の怨念がこの世にある限り、奴はどこからともなくやってくる。
 目的はただひとつ、非リア充の持つ異常なまでのエネルギーを国家神のため役立たせるべく男であれば股間を切り取り宦官に、女であれば髪を切り落とし神官に仕立て上げること。
 男装に身を包みながら長い髪はそのままと正体を隠す気など全くない。
 再度言う。今の彼女はリカインであり、リカインでない。
 今の彼女は仮面雄狩る。このリング上の非リア充の気配を感じ取り、降り立ったのであった。

『四人の非リア充共……国家神の礎となるがよいッ!』
 そう言うと何処からか入手したらしき鋏を突きつける。今リング上にいる女性全員を、神官に仕立てる為の道具である。
「何かまた面倒なのが来たなぁ」
「また変なのが……」
 呆れた様にフィーアと昌景が呟く。
「八つ当たり相手が増えましたねぇ」
「同感だね」
 対照的に、ルーシェリアと紅鵡が笑みを浮かべて言った。

――その時、会場にハウリングの音が響き渡る。リングサイドにいた聖ヴァンダレイがマイクのスイッチを入れたのである。
『この勝負、このまま続行させてもらおうか』
 動きを止めるリング上の者達に向って、聖ヴァンダレイは続けた。
『一度闘志に火がついてしまった者同士、試合順を待つのは退屈であろう? 聞けばその仮面の者も恋人がいる身だとかいうではないか。リングに上がる資格は十分にある。 ならばそこに居る者達全員で戦うがいい! 生き残るのは一人でいい! この試合はこの聖ヴァンダレイの権限により、バトルロイヤル形式へと変更させてもらうッ!』
 その言葉に、観客席が歓声で沸き上がる。
『この采配に文句がある者はおらんな!? ならばゴングを鳴らせぇッ!』
 そして、試合の開始を告げるゴングが鳴らされた。


     * * *


――試合開始のゴングが鳴らされ、五名の選手が互いを見据える。
 五名の戦い、生き残り戦。試合は乱戦が予想された。
 先に誰がどう動くか、誰もが様子を伺う中、一人が動いた。
『その髪、斬り落とすッ!』
 妖怪髪おいてけ、ではなくて仮面雄狩ることリカインである。
 鋏を構え、ルーシェリアを狙う。配偶者でありながらカップルにぶつける恨み辛み妬みといった強い負の感情を感じ取ったからであろうか。
「いいですよぉ、かかってこいですぅ!」
 挑発するようにルーシェリアがリカインに叫ぶ。
『まずは一人、国家神の神官となるがいいッ!』
 ルーシェリアにリカインが鋏を向けた。が、
「くらえぇッ!」
横から貫くようなスピアータックルで紅鵡がリカインにぶち当たる。
『ぐぉっ!?』
「恋人がいるっていうならボクの敵だよ!」
『……ならば貴様らから』
 そう言ってリカインが立ち上がろうと膝を立てた瞬間、ルーシェリアが駆けた。
「てぇッ!」
『んがぁッ!?』
 立てたリカインの膝を踏み台にし、側頭部に膝蹴りを叩きこむ。
『くぅ……ッ!?』
 側頭部を押さえつつ、再度立ち上がろうと膝を立てるリカインに、
「まだまだ行くぞぉッ!」
今度はフィーアのシャイニングウィザードが決まる。ただしこちらはルーシェリアの物と違い、原型とされるタイプ、顔面に膝をぶち当てる物である。
『ぐぉあッ!?』
 ダイレクトに膝が顔面に当たり、仮面がリカインから外れる。
「……あ、あれ? 私は一体何を……?」
 仮面が外れ、正気に戻ったリカインの目に天井の眩いライトが映る。その眩しさに、思わず目を細める。
「ここは……ん?」
 細めた視界に、何かが映る。
「食らえぇぇッ!」
 コーナーから、昌景が降ってきた。前方に宙返りするという矛盾した動き、シューティングスタープレスが放たれたのである。
「え、なにぃッ!?」
 突然の事に、リカインが動けるわけも無い。昌景の全体重をその身の受け、肺の空気を強制的に吐き出させられる。
 呼吸が止まり、リカインの思考が止まる。その間に昌景が抑え込んだ。更に他の三人も、弾かれないよう上から抑え込む。
 理解できない上思考も停止、更に四人に抑え込まれたリカインがフォールを返す事ができるわけも無く、カウントが三つ数えられた。


     * * *


――早々に一人が退場し、リング上に残るは四人。
 その四人で、既に一対一の構図が出来上がっていた。
 一組は紅鵡とルーシェリア。もう一組はフィーアと昌景である。

「全く貴公という者はぁッ!」
 フィーアをコーナーに追い込んだ昌景は、その胸に逆水平チョップを叩きこむ。一度、二度、と打ち込み、
「はぁぁッ!」
一度気合を入れなおすと、連続して打ち込んだ。乾いた音が、マシンガンの様に連続で響き渡る。
 コーナーで逃げ場のないフィーアは、身体を貫く衝撃に顔を歪めつつ耐える。
「せぇッ! 少しは解ったか!?」
 最後に一撃、逆水平を撃ち抜くと昌景がフィーアに言った。
「さぁねぇッ!」
 だがフィーアは直ぐに昌景を押しのける様に胸を押すと、アッパー気味にエルボーを二度叩き込む。すると昌景が動きを止めた。
「せぇッ!」
 すぐさまフィーアは昌景を捕らえ、エクスプロイダーで後ろに放り投げる。
「くぅッ……! 何にもわかってないか!」
 背中を叩きつけられながらも、昌景は直ぐに立ち上がりフィーアの頬を一発張る。
「ならこいつを食らえぇッ!」
 そしてその場で旋回。ローリングラリアットを放った。
「ぐぁッ!」
 喉元に叩きこまれ、フィーアはリングに倒れ込む。だが昌景はそれだけで終わらせず、無理矢理立たせると背後から腕を固めタイガースープレックスの体勢に入る。
 そのまま後ろに放り投げようとするが、フィーアは腰を落とし投げられないように耐える。お互いの攻防が続き、先に手を緩めたのは昌景。
「ふんッ!」
 すかさずその隙を見逃さなかったフィーアは、昌景の足を踏みつけ、拘束を解く。そしてすかさず、昌景の腕を取り脇固めの形でリングへと押し倒す。
 だがそのまま脇固めで固めず、フィーアは捕らえた腕を股に挟み、脇で昌景の頭を締め上げる。クロスフェイスが完成していた。
「てぇぇッ!」
 上体を反らし、昌景を絞り上げるフィーア。昌景の脊椎が、肩が悲鳴を上げる。
 何とか逃れようと、ロープを探す様に何度か昌景の手が空を彷徨うが、リング中央に近いこの場所から目当てのロープは距離がある。軽いフィーアを引き摺ろうにも、ガッチリと決まったクロスフェイスから身動きが中々取れない。
 最早残った自由の効く昌景の腕でできる事はただ一つ。リングを叩き、ギブアップするだけしかなかった。

 一方、紅鵡とルーシェリア。
「そぉれもう一丁!」
 隙を突いた紅鵡のスピアーがルーシェリアの鳩尾を貫く。
「あぅッ!」
 吹き飛ばされ、転がるルーシェリア。
「逃がさないッ!」
 ダウンしたルーシェリアに紅鵡が飛び上がり、両膝を立てダブルニードロップで襲い掛かる。が、ルーシェリアはそのまま転がりリング下へとエスケープ。
「あ! 何逃げてるのさ卑怯だぞ!」
 リング下で屈むルーシェリアに紅鵡が怒ったように言うと、すぐに戻ってきた。手に、持ち込んで隠していたパイプ椅子を持って。
「な……レフェリー! レフェリー!」
 紅鵡がレフェリーを呼ぶが、現在レフェリーはフィーアのクロスフェイスで締め上げられている昌景に注意を持って行かれている。
「さぁて、いきますよぉ!」
 ルーシェリアがパイプ椅子を構えると、紅鵡が身構える。だが、
「ほいっ」
ルーシェリアが取った行動は、殴りつけるでもなんでもなく、紅鵡に椅子を放っただけである。それも投げつけるようなものでなく、パスするように軽く。
「え? おわっと!」
 一瞬呆気にとられるが、咄嗟に紅鵡は椅子をキャッチ。
「頂きですぅ!」
 直後、ルーシェリアがトラースキックを放った。椅子に向けて。
「ぐあっ!?」
 手から弾かれた椅子は、紅鵡の顔面に当たり思わず倒れる。すかさずルーシェリアはフォールの体勢に入る。
 既に昌景のギブを取ったレフェリーは、こちらのフォールを確認しカウントを取る。
 自分に起きた状況が理解できず、フォールされている事に気付き慌てて紅鵡は返すが、時既に遅し。カウント三で紅鵡の敗退が決定した。

 さて、リング上に残ったのはルーシェリアとフィーアの二名である。
「てぇやッ!」
 で、動いたのはフィーアであった。フォール直後を狙い、ルーシェリアにシャイニングウィザードを放つ。
「うわっ!?」
が、ルーシェリアは横に避ける。
「ちっ、外したか」
「外したかじゃないですよぉッ!」
 ルーシェリアがトラースキックを放つが「おっと」とフィーアが避けるとロープへもたれかかる。
「いきなりなにするんですかぁッ!」
 そのままフィーアに向かって、ルーシェリアがジャンピングニーで襲い掛かる。
「おっと♪」
 フィーアは屈むようにして避けると、ルーシェリアの勢いを利用して持ち上げる。
「うわっ!」
 危うく場外へ放り出されそうになるが、トップロープを掴んだルーシェリアは何とかエプロンに着地する。
「頂きぃッ!」
 だがその直後、フィーアはアッパー気味のエルボーを放ち、ルーシェリアの動きを止めると自身もエプロンへと移動する。
 そしてルーシェリアの腕を取り、エクスプロイダーの体勢に入る。受け身を取りにくくしたリストクラッチ式のエクスプロイダー。しかもエプロンから放つ断崖式。これが決まれば試合はほぼ決まったようなものである。それはルーシェリアも理解していた。
 力を込めるフィーアに対し、腰を落とし投げられないよう踏ん張るルーシェリア。再度、力を籠めようと一瞬フィーアの腕から力が抜ける。その隙を逃さず、クラッチされていない片手でルーシェリアはフィーアの後頭部にエルボーを叩きこむ。
「ぐ……っ!」
 思わずクラッチが外れ、ルーシェリアの腕が自由になる。
「お返しですぅッ!」
 すぐさま、ルーシェリアはフィーアの腕をアームロックで固めた。だがエプロン際での関節技は決め手にならない。レフェリーが反則のカウントを取るが、四で解くとあっさりとリングへと戻る。
 続いて腕を気にしながらフィーアがリングへ戻ると、即座にルーシェリアのキックが放たれる。だがそのキックを躱すと、フィーアは組み付き、腕を取り脇固めの体勢へ。昌景からギブアップを奪ったクロスフェイスへ入るパターンである。脇固めから押し倒し、後はヘッドロックと腕を極めれば完成する。
「貰ったぁッ!」
 押し倒し、フィーアが勝利を確信したように叫ぶ。だが、ルーシェリアは自ら前転し、腕を抜く。
「てぇやぁッ!」
 そのまま、呆気にとられているフィーアにルーシェリアがシャイニングウィザードを放つ。側頭部へと膝を放たれ仰向けに倒れるフィーアを、ルーシェリアがすかさず抑え込む。
 完璧なタイミングで入った閃光魔術は、フィーアからフォールを返す力を奪っていた。返す事が出来ず、カウント三が数えられ試合終了のゴングが鳴り響くのであった。

 総勢五名によるバトルロイヤルを生き残ったのはルーシェリアであった。
 レフェリーから勝利を告げられ、歓声を浴びる。しかし彼女の胸には空しさしか残らない。
 勝利したところで、残ったのは独り身という変わりようのない事実。結局は何も変わらない。
「……結局、無意味です」
 寂しく、ルーシェリアが呟いた。

「「「「膝蹴り免れただけありがたいと思えよ!」」」」

 そんなルーシェリアに、しっかり敗北のヴァンダレイキックを食らって担架で運ばれる敗北者達が叫んだ。