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種もみ女学院血風録

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種もみ女学院血風録

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第6章 その後

 百合園女学院にて。
「とても美味しいですわ。手作りですか?」
 校長室のソファーで、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)は、キュべリエ・ハイドン(きゅべりえ・はいどん)が用意したスイーツを堪能していた。
「ええ。試行錯誤の上、パラ実の方にも協力していただき、作り上げました」
 それは、ヴァイシャリーで採れたワインで味付けされた上品な味のチーズケーキだった。
 使用した水はキマクのオアシスと、ヴァイシャリーの澄んだ水。
 厳選された素材を求め、ジャジラッドに横流ししてもらったお菓子作りに適した卵を使ったり。
 スイーツ好きな知り合いに、試食を頼んだりして。
 貴族の舌を唸らせるほどのスイーツを作りだしたのだ。
「ボクもいただいていいですか?」
「勿論です、どうぞ」
 同じくラズィーヤを訪ねてきたヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)にも、キュべリエはチーズケーキを差し出した。
「いただきます」
 一口、口の中に入れたヴァーナーの顔がぱっと輝いた。
「美味しいですー。ふわふわしっとりです」
「よろこんでいただけて、嬉しいですわ」
 キュべリエは紅茶を飲みながら、小さく笑みを浮かべた。
「今回の件ですが……」
 2人がケーキを食べ終えた後で、キュべリエは切り出す。
「姉妹校のお話、悪くはないと思います」
「パラ実と姉妹校になったり、パラ実の方々が百合園に頻繁に訪れるようになってしまったら、学院の評判が落ちます。入学者が減り、経営が成り立たなくなりますわ」
 お嬢様校であることが、日本やヴァイシャリーの人々に支持されている理由なのだから。
 不良校と過度に付き合うことは出来ない、とラズィーヤは言う。
 パラ実生をまとめ上げる人物が現れる、もしくは組織が出来て、正常な学校間の交渉が出来るようになったら、姉妹校などの話も挙がることもあるかもしれない、が。
「姉妹校の話を白紙にする為に宦官科の話を出したと思いますが、パラ実では女子割礼が伝統であると言ってきたらこちらも従わなければならなくなり、不毛な戦いになりかねませんわ。種もみの塔の一室を借り受け、セレスティアーナ様の離宮としてはどうでしょうか?」
 キュべリエのパートナーの金死蝶 死海(きんしちょう・しかい)の提案に、ラズィーヤはふふっと笑みを浮かべる。
「そうですね、先方に拒否していただくために言いましたの。大荒野にセレスティアーナ様の離宮を設ける案も、今のところ出ていません。わたくしも提案するつもりはありませんわ。代王のお一人を、ヴァイシャリーでお預かりすることは、名誉なことですから」
 セレスティアーナをヴァイシャリーで確保しておくことは、政治的にも重要なのである。
 ただ、本当に自分が大荒野に嫁ぐことになったり、ヴァイシャリーに何か大きな異変が起きた際には、そういう未来もあるかもしれないと、ラズィーヤは続けた。
「パラ実との連携を持っておく事は国軍において発言力の高い教導団をけん制する意味でも有効なのではないかしら?」
 キュべリエは更にそう意見をした。
「軍やロイヤルガードのトップは代王の高根沢理子様ですわ。そもそも、教導団を牽制する必要などありません。そういったお話はまたの機会に。今日は種もみの塔のお話だけにいたしましょう」
 言って、ラズィーヤはヴァーナーを見る。
「難しいことはよくわかんないです。でも、ボクは百合園はみんなの手と手をつなぐのがんばるところにしたいんです」
 四天王の人も、オアシスのために頑張ってるみたいだったから。
「百合園のコにいけないことするかもしれないから、百合園だけ仲良くするのは難しいみたいですけれど……。百合園からじゃなくて、ヴァイシャリーからキャラバンとかで交流できないですか?」
「そうですね……。農家の方々との交流は望ましい事かもしれません。百合園とは関係なく、オアシスとの取引の活性化を推進してきましょう」
「ホントですか! えっと、取引に行く人達を、女学院をつくろうとしてる四天王の人に、護衛とかお願いできないでしょうか?」
「オアシスの未来を真剣に考えている方に案内や護衛を頼めるといいですね。ただ、あくまでこちらからお願いするのではなく、求人という形で募集をさせていただくことになると思いますが」
 ヴァイシャリー家がパラ実生を雇うという形にはならないように。
 引き受けてくれた人達が、ヴァイシャリー家の手先だと思われないように。
 あくまで対等な商取引として、交流が行われるようにできたらとラズィーヤはヴァーナーに言った。
「はい。女学院が作れなかったとしても、警備会社を作るとかも、いいと思うです」
「ええ、百合園としても、ヴァイシャリー家としても協力は出来ませんが、ヴァーナーさんや皆さん個人個人が、こうして気にかけて、働きかけてくださることは、きっとオアシスだけではなく、シャンバラの為になると思いますわ」
「警備だけではなくて、自ら農家を手伝ってくださったらいいと思うのですよ。カツアゲや拉致、麻薬販売に走らず、きちんと商売ができる方でしたら、是非ヴァイシャリーにも直売に来て欲しいですわ」
 ラズィーヤは微笑みを浮かべる。
「取引を通じて、自然な出会いがあり、嫁問題も解決に向かうといいですわね」
「はい……ありがとです」
 ヴァーナーはラズィーヤの返事が嬉しくて、ぎゅっと抱き着いてお礼を言った。

☆ ☆ ☆


 塔の外、チョウコとカンゾーを中心にみんなが集まって種もみ女学院の方針について話し合っていた。
 百合園は開校に反対なのではない。
 その後の百合園との関わり方に懸念を抱いているのだということを、身を持って知った。
 また、同じパラ実生やOBからも、いろいろな助言をもらった。
「何だ、諦めるのか?」
 腰抜けめ、と言いたそうなジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)
 彼は主にカンゾーやパラ実生男子を見渡して言った。
「よく思い返してみろ。パラ実におっぱいと呼べるものを持つ女性はいるか? オレはいないに等しいと思っている」
 何の話を始めるつもりかと、カンゾーだけでなくチョウコもジャジラッドに注目した。
「C級四天王の熾月瑛菜は最近成長期なのか順調に育ってきているようだが、胸もC級止まりがいいとこだろう。
 ミツエにいたっては貧乳とありがたがる特殊な性癖を持つ者達には人気が高いかもしれないが、あんなものは断じておっぱいではない。ただの胸部だ。
 ガズラ・キマクの胸は触ったことはないが、硬い筋肉の一部になっていてとても残念なことになっているだろう。
 我らが恐竜騎士団の団長ラミナ・クロスの胸も似たり寄ったりと推測している」
 ここまで一気に言い放ったジャジラッドに、カンゾーは感心したり頷いたりしていたが、チョウコは唖然としていた。
 ジャジラッドのおっぱいへの考察はまだ続く。
「触れたらマシュマロのようにやわらかく、良い香りのするものがおっぱいであり、巷で至高のおっぱいを持つとされる泉美緒に代表される百合園生徒を迎えるに何をためらうか。
 パラ実との姉妹校に反対している輩は、ラズィーヤに代表されるようにたるんだ身体をコルセットでごまかしている者達に決まっている!」
 しだいに熱くなっていくジャジラッドの声。
 いつの間にかカンゾーは身を乗り出して聞き入っていた。
 チョウコはいまだ唖然としている。
 ジャジラッドは声を大にして言い放った。
「女子学園特有の、男の目を気にしないですむ甘い環境に慣れ浸りたいだけだ!」
 うおーっ、と拍手と歓声を送るカンゾーを蹴り倒し、チョウコが「だけど」と詰め寄る。
「あんなに強烈に拒否されたんだ。ちょっと難しいよな……」
「エサを作ればいい」
 ジャジラッドはある方向に目を向けた。
 ここからは見えないが、その遥か向こうにはアトラスの傷口があるはずだ。
「女子はおおむねスイーツとテーマパークが好きだろう? アトラスの傷口にあるアトラス宇宙港に併設する形でつくるんだ。収益も見込めるだろう」
「そんなカネあるかよ」
「石原財団やキマク家に援助を申し込んでみますわ」
 答えたのは、美しいがどこか冷たい印象を与えるサルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)だった。
 ああそれなら、と言いかけたチョウコをカンゾーが止めた。
「そいつはちょっとな……。実はもう、どっちも一度頼んでるんだ。これ以上はな。だから、テーマパークは俺らがつくったカネでつくろうと思うがどうだ?」
「途方もない話ですわね」
「ハハッ、そうだな。──で、おっぱいの件だが、種もみ女学院は種もみ学院として開校しようと思う。女ばっかり百合園のおっぱいを拝むなんて許せねぇからな」
 胸を張って言い切ったカンゾーに冷たい目を向けたチョウコは、その目をジャジラッドにも向けた。
「おっぱい信者になっちまったじゃねぇか。どうしてくれる」
「何も悪いことねぇだろ」
 ジャジラッドは悪びれもせず笑った。
 チョウコは舌打ちして頭をかく。
「好き勝手言いやがって。──とにかく、種もみ学院はこんな感じだ!」
 チョウコは綺麗とは言い難い字が書かれた紙を置いた。
 そこにはこう書かれている。

・種もみ女学院は、共学の種もみ学院として種もみの塔屋上に開校する。
・音楽関係の部活動が盛ん(になる予定)で、四十八星華と共に公演できる(かもしれない)。
・荒野の緑化活動にも力を入れていく。
・学院の目標はオアシスの活性化である。

「それから、武尊には総長になってもらいたい。多額のカネを出して借りてくれたんだ。今のあたし達にできる精一杯の礼だ」
 こうして、種もみ学院が誕生した。
「やることはいっぱいあるぞ!」
「オアシスを蘇らせるぞー!」
 チョウコとカンゾーは空に向かって声を張り上げた。

担当マスターより

▼担当マスター

冷泉みのり

▼マスターコメント

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■冷泉みのり
こんにちは、冷泉です。
『種もみ女学院血風録』のリアクションをお届けいたします。
素敵なアクションをありがとうございました!
いろいろと形を変えて開校しました。
学院の最初に何をしようかなと考えております。
その時はまたお会いできたら嬉しく思います。

■川岸満里亜
楽しいアクションをありがとうございました。お、驚きのアクションもありました……!
次は若葉分校としてまた関わらせていただけたらと思います。

貴重なアクション欄を割いての私信等、本当にありがとうございます。
余裕が持てず、ほとんどお返事がかけず大変申し訳ありません。