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第4章 美術館のカフェにて

 シャンバラ宮殿近くの美術館で、美術工芸展が開かれていた。
 館内には、シャンバラと日本の美術家、工芸家達の様々な作品や、名品が陳列されていた。
 一通りじっくり堪能した後で、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)と、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、併設されたカフェに訪れた。
 と、その時。
「あの方は!」
 注文の品を待っていたルカルカは、店内に入ってきた1人の女性に気付いた。従者を従えているその人物は、誰もが良く知る女性――ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)だった。
「ラズィーヤ様、こちらで一緒にいかがでしょうか〜」
 即座に立ち上がり、ルカルカはラズィーヤに近づいた。
「お仕事で宮殿にいらしたのですか?」
「ええ、会議がありましたの。こちらでは、シャンバラと日本の工芸品を見ながらお茶を楽しめると伺ってきたのですが……」
 ラズィーヤは少し意外そうな顔をする。
「あ、ええっと。仕事のついでですが、ダリルが誘ってくれたんです」
「どうぞ」
 ダリルがラズィーヤの為に椅子を引いた。
「ありがとうございます」
 椅子に腰かけて、ラズィーヤは辺りを見回す。
 店内にも美術品や絵画が並べられている。
「彼、工芸品に目が無いんですよ。意外ですか?」
 ラズィーヤの隣に腰かけて、ルカルカが問いかける。
「……ルカ」
 ダリルが咎めるような目で見ているが、ルカルカは全く気にしない。
「意外とまでは言いませんが、イメージとは少し違いますわよね」
 そう言って微笑み、ラズィーヤはメニューをほとんど見ずに、ウエイトレスにストレートティーと何かを頼んだ。
 その直後、別のウエイトレスが大きなパフェをワゴンに乗せて運んできた。
「お待たせいたしました」
 ウエイトレスがテーブルの中央に置いたのは、宮殿パフェと名付けられた、シャンバラ宮殿に見立てた豪華で大きなパフェだ。期間限定品である。
 すぐにルカルカはスプーンで自分の皿にとって、好きな物から食べていく。
「うん、この甘いカスタードがまたなんとも♪ ラズィーヤさんもどうぞ」
 ルカルカはバランスよく皿にアイスと生クリーム、フルーツ、お菓子を乗せてラズィーヤに渡した。
「あれっ? どったのダリル。食べないの?」
 ダリルは渋い顔で、茶を飲み、携帯電話を弄っている。
「ラズィーヤ様がいる前で、そういうのってマナー違反だよ〜。ほら、ダリルがこれ食べたいっていうから寄ったのに」
 ダリルの眉間に皺が寄る。そして彼は冷たい目をルカルカに向けてきた。
 余計な事は言うな。
 ……というような顔をしているけれど、ルカルカは気付かない。というか気付かないふり〜。
「宮殿を可能な限り精密に再現したというから……。ただの好奇心……だ」
「そゆ事にしといてあげるー」
 ふふっと笑みを浮かべるルカルカ。
 自分の皿にどんどん入れて、パフェはどんどん少なくなっていく。
「でしたら、携帯なんて弄ってないで、もっと見ればよろしかったのに。食べたかったのではなく、観賞目的でしたのよね? せっかくですから、わたくしがもう1つご馳走しましょうか?」
 ラズィーヤもにこにこ笑顔を浮かべながら、ダリルに言う。
「ありがたいお申し出ですが、結構です……」
「食べないの? おいしーよ?」
 ルカルカはほれほれと、パフェを乗せた皿をダリルの前に出す。けどすぐに自分の元に戻し、自分の口に入れる。
「アイスが程よく溶けて、食べごろですわよね。わたくしももう少しいただいてもよろしいでしょうか?」
「是非食べてください! ここのアイスやフルーツがとっても美味しいと思うの」
 ラズィーヤにとってあげたあと。
「食べないのぅ?」
 ふふふんと笑みを浮かべて、ルカルカはダリルに問いかける。
「いい」
 完全に拗ねてしまったのか、ダリルは顔を背けて茶を飲み、飾られている工芸品の観賞をしている。……食べたいのに、そうして気を紛らわせていた。
 そうこうしている間に、ルカルカはパフェを平らげた。
「はー、幸せ」
「お待たせいたしました。トロピカル雲海ムースでございます」
 その直後に、ラズィーヤの注文の品が届いた。
 真っ白なムースの上に、バナナやヤシの木に似せたフルーツが乗っかっている。
「ラズィーヤさんは、こういうのが好きなんですか?」
「今日の気分ですわ」
 そう言うとごく自然にラズィーヤは小皿に少しとって、ダリルへ差し出した。
「……ありがとうございます」
 断るわけにもいかず、ダリルは素直に戴くことに。
 なんだかルカルカがくくくっと笑っているのが目障りだったけれど。
「ね、ダリル。今度、スイーツでヴァイシャリーの塔を再現してよ。甘くないチョコとかメインでさ。見て美しく、食べて美味しいので」
 目をキラキラ輝かせながら、ルカルカが言う。
 ダリルがラズィーヤをちらりと見ると、ラズィーヤは決して嫌そうではなく普段と変わらない微笑みを浮かべていた。
 ダリルは軽く吐息をつくと、観念したかのように言う。
「完成したらお持ちしますよ」
 更に、ラズィーヤに、日本の工芸菓子の手法で甘味料を控えて作るつもりだということ、多少日持ちするように作るので、しばらく観賞するのも一興かと、と話していく。
「甘い方がお好みですか?」
「お任せしますわ。形も味も最高のものでお願いしますわ」
 にっこりラズィーヤが微笑んだ途端。
 ダリルは真剣な面持ちとなる。
 プレッシャーの為ではなく、脳内で設計をし始めたようだ。
「あの、ラズィーヤさん……」
「あ、そうですわね」
 ルカルカの物欲しそうな目に気付き、ラズィーヤは笑みを浮かべながらルカルカの皿にも、ムースを入れてあげた。
「恐縮です。いただきます〜♪」
 その後は難しい顔をしているダリル抜きで、ルカルカとラズィーヤは美味しい料理の食べられるレストランや、雰囲気の良いカフェについて楽しく情報交換をしたのだった。