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第12章 子猫ちゃん発見

「ちょっとそこの子猫ちゃん!」
 夕食後。なんだか少し食べたりなかったレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)は、美味しいものでも食べようと、街へ繰り出していた。
 美味しい食べ物が目当てだけれど。勿論目に入ってしまう、美味しそうな娘達!
 その中でもビビビというかボボボっと燃えるような感情が湧きあがった相手に、レオーナはいつものように突撃していた。
「ああ、やっぱりそうなるのですね……」
 ほろりと涙を流しながら、クレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)は後に続く。
 彼女は食べたりなかったわけでも、美味しいものが食べたかったわけでもないのだが。
 この時間、むしろ全時間に、レオーナを野放しにしておいたら、ニュースになりかねない事態に発展してしまう可能性があるから。百合園の名を地に落し、沈めてしまう可能性があるので、やむを得ず、ついてきたのだ。
「ねえねえ、突然だけど、お食事でもいかが?」
 くるんと回り込んだ後は、にっこり微笑みを浮かべて優しく語る。
「ゴボウでも食べながら、あたしたちの愛と今後について語らわない?」
「はい?」
 突然声をかけられて、ぱちくりと目を瞬かせたのは……グィネヴィア・フェリシカ(ぐぃねう゛ぃあ・ふぇりしか)だった。
「突然すみません……ちょっと夏の暑さで頭の方をだいぶやられてまして……お食事にお誘いしたいと言いたいようなんです」
 駆け付けたクレアがぺこぺこ頭を下げながら言う。
「わたくしは既に夕食はすませましたの。ええっと百合園の方ですわよね? お茶でしたら……」
「ああっ! 素敵なお店発見! そこにしましょう行きましょう! 愛を育む為に!」
 レオーナはグィネヴィアの腕をぐいぐい引っ張って、カジュアルなカフェに入っていく。

「きんぴらゴボウ、ゴボウスティック、酢ゴボウ、ゴボウ茶。デザートにゴボウケーキお願いします!」
「お客様、そちらはメニューにはございません」
「作って、難しくないから!」
「いえ、メニューにないものは無理ですので」
 レオーナの注文は店員に半分拒否された。
 頼めたのは、きんぴらゴボウと、ゴボウスティック、ゴボウ茶だった。
「面白い方ですね」
 くすくす微笑みながら、グィネヴィアはアップルティーを頼んだ。
 クレアもグィネヴィアと同じものを頼む。
「あたしレオーナ。清楚で純情で高貴で可憐で美しく(中略)たおやかでしなやかだけど、それを鼻にかけない謙虚なごく普通の女の子よ」
 料理が届くまでの間、レオーナは99.9%嘘な自己紹介をしていく。
「趣味は、ゴボウの武器化追及と、女の子を愛でることかな。将来は女の子だけの神聖百合帝国を建国するのが夢なの!」
 趣味と夢は本心だ。
「女性を大切にされるということですよね? 素敵な夢ですねぇ」
 グィネヴィアはほんわり笑みを浮かべながら聞いている。
「そうそのためにはまずは……」
「アップルティーでございます。こちらは、きんぴらゴボウと、ゴボウスティック、ゴボウ茶です」
 注文の品が届き、配られた。
「ごぼうを食することが大切なの!」
 言って、ばくばくゴボウを食べ始める。
「豪快な食べ方ですわ。生のままでもいけそうですわね」
「生ゴボウはダメよ。武器に使うんだから」
「そうなのですか?」
 良く分からないというように、グィネヴィアは首をかしげる。
「そうよ。ゴボウで世界を築くの! 夢を叶えるのよあたしは」
 レオーナはごぼうを飲み込むと、グィネヴィアに頭を下げた。
「こんなふつつか者のあたしですが、末長く宜しくお願いします」
「ええ、よろしくお願いいたしますわ」
 純粋な目でほほえみながら、グィネヴィアも頭を下げた。
(こ、これは! 今までにない反応! いける、いけるわ、愛の巣まで連れていけるわ!!)
 レオーナは胸と瞳をぼぼぼぼぼっと燃え上がらせる。
「恋愛は相思相愛が大切なのよ。だから子猫ちゃんのことも教えてー。趣味とか、好きな女の子のタイプとか」
「趣味は、美味しい紅茶のフレーバー配合ですわ」
「おおっ、ゴボウも是非混ぜて!」
「ふふ、合うかしら?」
「で、好きな女の子のタイプは」
 興味津々、レオーナは目をぎらぎら輝かせる。
「そうですわね……勇敢な子でしょうか」
「そうなの、あたし実はとっても夕刊なの。毎日欠かさず読んでるわ!」
「うふふ、素敵ですわね」
(この娘、レオーナ様の支離滅裂な言葉を自然に受け流しています……やりますね)
 クレアはアップルティーを飲みながら、感心していた。
「それで、結婚するのなら、可愛い女の子と美しい女の子どっちがいい?」
「女の子同士で結婚できるのでしょうか? 結婚できるとすれば、可愛い子でしょうか」
「ああ、それってあたしのことね。あたしたちやっぱり相思相愛みたい! 愛があれば、外見女の子同士だって、結婚できるわよ。全世界の人々があたしたちを祝福してくれるわ〜」
 レオーナはグィネヴィアとの素敵な未来を思い描いた。
「レオーナさん、女性の方と結婚されるのですか? ええ、わたくしも祝福しますわ」
 変わらずにこにこ、グィネヴィアは微笑んでいる。

 ちょっとかみ合わない会話を楽しんだ後。
「さあて、二人で街に消えよっか? それとも、おうちに行くかな?」
 伝票を渡して会計をクレアに押し付けたチャンスの時間に。
 レオーナはグィネヴィアを外に連れ出した。
 そして彼女をぐっと引き寄せる。
「ええっ? わたくしはもう帰らなくては……」
 しかし、クレアにはレオーナの行動は手に取るようにわかる。
 釣りはいらないと札を出して会計を済ませて、駆け付ける。
「いけません! 相手様が困っておられますし、第一、公然の場でなにをする気ですか!」
「ごめんねクレア。あなたも入りたいのね。三人で消えよっか?」
 レオーナは上機嫌でクレアの肩にも腕を回してくる。
「お仕置きです」
 クレアはバシッとレオーナの頭に氷術を放った。
「あいたっ、至近距離からなにするのよー」
「それでは、失礼いたします〜」
 その間に、グィネヴィアは待たせていた馬車へと走っていってしまう。
「ああっ、子猫ちゃん……。クレア、嫉妬はダメよ! 女の子同士、あたしを中心に皆で仲良くしないと!」
「ううっ」
 クレアは涙が落ちないよう、天を仰ぐ。
「どうすればレオーナ様は他人様に迷惑をかけない常識的な人間になるのでしょう……」

 無理です。