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パラ実分校種もみ&若葉合同クリスマスパーティ!

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パラ実分校種もみ&若葉合同クリスマスパーティ!

リアクション

 お騒がせメンバーがいなくなり、百合園生が集まっていたテーブルが静かになった。
「月夜も来れれば良かったのだが」
 玉藻 前(たまもの・まえ)は、ぶどうジュースを楽しげな表情で飲んでいる。
 このぶどうジュースは、リナリエッタが頼んだものだ。
 なんだか面白いことになりそうだったので、自分が頼んだワインとこっそり交換してみたのだ。
「ま、これは普通のジュースだが――リーアとやらが作ったこのケーキは、より面白い味がする」
 一口食べただけで、それ以上は食べずに玉藻前は笑みを浮かべていた。
「ん? 口に合わなかった? 料理もケーキも色々あるからね。あなたは何が好きなのかな〜」
 何も食べようとしない玉藻前にそう声をかけてきたのは、パティシエとしてお菓子の提供をしているネージュだった。
「それなら、普通のケーキをいただこうか。あの苺のケーキを作ったのは誰だ?」
「あたしだよ! 種もみ入りだけれど、大丈夫かな?」
「ああ、普通の材料なら問題ない。その他、君が作ったお勧めの菓子をいただこう。土産用もお願いできるか?」
「うん、お勧めは〜」
 ネージュは、ケーキやお菓子を並べているテーブルから、イチゴのケーキとゼリーをいくつかトレイに乗せて、玉藻前の元に戻ってきた。
「はい、こっちは今食べる分で、こっちはお土産用。持ち帰り用の箱はある?」
 ネージュはケーキを一切れと、ゼリー1個ずつ、玉藻の前に渡した。
「その辺の空いた箱を貰うから大丈夫だ。ありがとう」
「うん、楽しんでいってね!」
 ネージュは笑顔で言ってぺこっと頭を下げると、次のお菓子を取りに塔の方へと戻っていった。
 玉藻前はフォークでケーキを刺して、一切れ口に運んだ。
「……なるほど、種もみ入りか。少々歯触りが違うがそれがまた面白い。味も悪くはないな」
 ケーキもゼリーもとても美味しくて、直ぐに食べ終えてしまう。
「メリークリスマス! まじかるサンタな葵ちゃんが料理に合う美味しい飲み物をプレゼントするよ♪」
「メリークリスマス、ですっ」
 ミニスカサンタ服を着た秋月 葵(あきづき・あおい)アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)が、飲み物を乗せたワゴン押して現れた。
「ワインはあるか? やはり、果汁だけではものたりなくてな」
 玉藻前はぶどうジュースが入ったグラスを揺らしてみせた。
「あるよ。失礼しまーす」
 葵が空のグラスをテーブルに置いた。
「こちらのシャンパンがお勧めです。私もちょっと試飲したんですよぉ」
 アレナがシャンパンを選んで、葵が用意したグラスに注いだ。
「食後には、珈琲や紅茶のサービスに来るね♪ 御用の際には、サンタのベルで呼んでください」
 葵はベルをテーブルに置くと、アレナと一緒に次のテーブルへと向かって行った。
「さて……」
 玉藻前は華やかな香りと、上品な味わいのシャンパンを楽しんでから、お土産分にちらりと目を向ける。
 これは来られなかった月夜……の分ではなく、もう一人の同居人への土産だ。
「月夜にはこっちだな。食べ過ぎない程度に」
 空いた箱の中に、玉藻前はリーアの料理を入れていく。
 周りを見て、料理の大体の効果はもう解っていた。
「ワインも少し貰っていくか。飲みたいだろうからな」
 最近、月夜は悩んでいるようだった。
 パートナーである樹月 刀真(きづき・とうま)が、風見瑠奈と付き合い始めてから、ずっとでもあるのだが、最近は更に。
 今日、月夜は白百合団の仕事を手伝い、百合園女学院で雑務を行っている。
 刀真や百合園から瑠奈が無事救出されたことや、議会で警察発足についての話し合いが行われるといった話は、百合園生である月夜も耳にしていた。
「今宵はパーティをしよう。このケーキと、ワインでな」
 ケーキを食べ、ワインを飲んで赤くなっていく月夜を思い浮かべ、玉藻前はにやりと笑う。
 少し前、飲みに誘われた時に聞いた話からすると、月夜はまた別の不安に駆られているようだった。
 瑠奈を助けに行く時、刀真は月夜の同行を求めなかった。
 そして、いつも通り彼は瑠奈を連れて帰ってきた。
 もしかしたら、刀真には、剣としての自分も必要ないのかもしれない。
 月夜はそんな風に悩んでいるようだった。
「全く悩むようなことではないのだがな」
 刀真にとって自分達が不要となることなどありえないのだから。
「慰めてやるのも良いが――もうすぐ、話をする機会も持てるだろうから」
 自分自身で、ちゃんと確かめられたらいいな、月夜――。
 そう思いながら、玉藻前はワインをまた一口飲んで、美味しい料理や、恋人達――薄着の男女の姿を堪能するのだった。

「アレナちゃん、ちょっと休憩しよっか」
 葵は隅のベンチにアレナを誘った。
「はい。葵さん、ツリーケーキ食べませんか? お勧めだそうですよぉ〜」
 アレナは若葉分校生に試飲としてお酒を飲まされていたため、いつもより少し陽気になっていた。
「それはちょっと仕掛けがあるみたいだから……あたしはネージュさんが作ったケーキが食べたいな♪ 飲み物は紅茶でいいかな?」
「はい、それではケーキ貰ってきますっ」
 アレナは自分と葵の分のケーキを貰いに行き、その間に葵はアレナと自分の分の、紅茶を用意した。
 そして、ベンチに並んで腰掛けて、小さなフルーツケーキと、温かな紅茶を飲んでほっと息をつく。
「色々大変な事もあったけど、みんな笑顔で楽しんでるよね。よかった〜♪」
「皆、とっても楽しそうです。私も楽しいです」
 アレナの頬はほんのり赤く染まっており、とても楽しそうだった。
「頑張り屋さんのアレナちゃんに、まじかるサンタさんからプレゼント♪」
 葵は持っていた白い袋の中から、ラッピングされた箱を取り出してアレナに渡す。
「ありがとうございます。開けていいですか?」
「どうぞどうぞ♪」
 リボンを解いて、箱を開けると。
 中には、雪の結晶の飾りがついたイアリングが入っていた。
「綺麗なアクセサリーです」
 アレナはさっそく片方自分の耳につけて、微笑んだ。
「うん、似合う、可愛いよアレナちゃん。一応、優子隊長とお揃いなんだよ。まぁ優子隊長の方にはまだ渡せてないけどね……あはは」
「……葵さん、今年も優子さんと会い辛い理由、あるんですか?」
「ある、かな? ない、かな。あはは」
 目を泳がせながら葵は苦笑のような笑みを浮かべた。
「ふふ、優子さんも葵さんからのプレゼント、嬉しいと思います」
 アレナはイヤリングを大切に箱の中にしまった。
 優子はアレナと一緒に来てはいないが、友人と顔を出すとは言っていた。
「んー、美味しかった♪ それじゃ、もう少し頑張っちゃおうか」
「はい、温かいお飲物のお届け、しましょう」
 ミニスカサンタな2人は、再びワゴンを押してテーブルを回り、パーティを楽しむ人々に温かなサービスをしていく。

 会場の一角に設けられた簡易ステージでは、女の子達がサンタの衣装を披露していた。
「地球のサンタさんとやらは、随分と可愛らしいんじゃのう〜」
「美羽ちゃん、瀬蓮ちゃん、くるっと回って後ろもみせてくれぇ〜」
 友人の高原 瀬蓮(たかはら・せれん)を誘って、種もみじいさん達を招き、ファッションショーをしていた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だが、いつの間にか周囲にはモヒカン、リーゼントのパラ実生男子も沢山集まっている。
「地球のサンタさんは、おじいちゃんなんだよ。でもね、なぜかここに可愛いサンタさんの衣装や、メイドさんの衣装が沢山あったから、瀬蓮ちゃんと着させてもらってるの〜」
 美羽はくるっと回って、後ろ姿を観客に見せる。
「こうですか〜?」
 瀬蓮も、くるりと回って恥ずかしそうな笑みを浮かべる。
「いいね、いいねー。最高だよ、2人とも〜!! さ、次はこれ、その次はこれ!!」
 ステージ脇には、沢山の衣装がかけられてるハンガーと共に、ブラヌ・ラスダーの姿があった。
「はい、こっち向いてー! おお、美羽ちゃんの明るい顔も、瀬蓮ちゃんの恥ずかしげな顔も、とってもいいぜェ! ヒャッハー!」
 言いながら、デジカメのシャッターを押して、2人のかわいらしい姿をカメラに収めていく。
(アレナの写真も沢山撮ってたよね)
 観客席では、種もみじいさん達とファッションショーを見ながらコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)がブラヌの動きにも注目していた。
(犯罪行為じゃないし、キマクやパラ実的には堅気の健全な仕事なのかもしれないけれど……)
 そう考えながら、コハクは携帯電話を開く。
 保存しておいた通販サイトに載っている写真の衣装と、ハンガーに掛けられている衣装を見比べて、ため息をついた。
「飲み物のお代わりはいかが?」
 ミニスカサンタ姿で、ウェイトレスをしている桜月 舞香(さくらづき・まいか)が、困り顔のコハクに声をかけた。
「ありがとう、オレンジジュースもらえるかな?」
「はい、ごゆっくりどうぞ」
 舞香はオレンジジュースをコハクに渡して、隣のテーブルへと向かう。
「ビールお代わり! 注いでくれんだろォ、オネーチャン。うひょー、良いカッコしてんなァ」
 酔っぱらったモヒカンが、舞香の腕を掴んだ。
「……お注ぎしますよー。あちらでねっ」
 舞香はモヒカンの腕を引っ張って、引き摺ると、会場の外へと蹴り飛ばした。
 ステージに上がろうとする客や、更衣室に忍び込もうとする変態、お触りをしようとする酔っ払いはこうして舞香が全て蹴り飛ばしていたため、ファッションショーは大きな混乱もなく、行われたのだった。

 ファッションショーが終わってから……。
「美羽、言いにくいんだけどブラヌの持ってるデジカメ、回収しておいた方がいいよ」
 コハクは通販サイトを見せながら、美羽にブラヌの目論見について話した。
「ん? 今日着た衣装が載ってるね。『アレナ・ミセファヌス、及び美少女着用済衣装、近日販売予定!!』だって?」
 覗き込んだ瀬蓮が不思議そうな顔をする。
「なるほどなるほど、それで沢山衣装があったんだね〜」
 にこにこ美羽は笑みを浮かべると。
「どうやらブラヌのクリスマスプレゼントは、キックがいいみたいだね」
「わかった。君達のは売らない。写真もアップしない、それでいいだろーーーーー!」
 言いながら、ブラヌは後ろ走りし、くるりと背を向ける。
「成敗!!」
「ぎゃーーーーーー!」
 逃げようとするブラヌに、美羽が強烈なミニスカサンタキックを決めた。
 デジタルカメラごと、空の彼方へと飛ばしたのだった。
「あー……でも、ちょっともったいなかったかな。可愛い服沢山あったし、美羽ちゃんと着てる写真、欲しかったかも」
 ブラヌが消えた夜空を見ながら、瀬蓮が言った。
「それなら、少ないけれど僕も撮ったから」
 コハクが携帯電話で撮った写真を、瀬蓮と美羽に見せる。
「あ、可愛い〜。このドレスのようなメイド服、瀬蓮ちゃんにとっても似合ってた」
「美羽ちゃんは、こっちのワンピースのミニスカサンタが似合ってたよぉ」
 美羽と瀬蓮は自分達の携帯電話に、コハクが撮った写真をコピーしてもらって、お互いへのクリスマスプレゼントの1つとしたのだった。
「メリークリスマス、可愛らしい姿をありがとう」
 勿論、コハクにとっても可愛い美羽の姿は大切なプレゼントだ。

「まったくもう……。パラ実の宴会だから、少しくらいは仕方ないのかもしれないけれど」
 女の子達にしつこく言い寄ったり、触ってくるモヒカンの多さに、舞香はうんざりしていた。
「しかも、主催者のブラヌ達、アレナや私達が着た服、売ろうとしてるみたいだし」
 ブラヌは会場から消えてはるか遠くに飛ばされてしまっていたが、それでも油断は出来ない。
「褌姿の男までいて、不快だわ……って、何でこんな寒いのに、皆薄着なの!?」
 給仕をしながら、舞香は会場が異常であることに気付いた。
 褌姿の男や、シャツ1枚になり、胸元を大きく開けた女の子達が沢山いるのだ。
「お酒の効果……だけじゃなさそうね。誰か、何か混ぜたわね!」
 舞香は会場を見回して、裸で女の子達に迫る男を蹴り飛ばし、シャツまで脱ごうとする女の子に、縛るようにジャケットを着せて回る。
 給仕の手伝いに来たはずなのに、舞香はサッカー選手のごとく走り回り、蹴りまわっていた。
「はあ、はあ……アレナ。間に合った」
 最後に、サンタ服から普段着に着替えたアレナのところに走り。
「脱いだ服、お洗濯しておくから渡してね。また来年も着れるだろうし……」
「あ、はい。それじゃ自分で洗濯……」
「ダメ。『アレナが洗濯した服』として売り出されるだけだから。預からせてもらうわッ!」
 不思議そうにしているアレナから、舞香は彼女が着た服を預かって厳重に管理しておくことにした。
 ……かくして、今回のブラヌの野望は完全に潰えたのである。