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リアクション
第12章 彼女と出逢ったから、ここにいる。
2月に入って数日、空京の街は今日も平和だった。スーツ姿のビジネスマンに学校帰りの学生、お洒落な服を着て友人達と遊ぶ女の子達、デートを楽しむ恋人達。そんな人々の中を、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はシャンバラ教導団の制服姿で歩いていた。研修の一環である任務を終えた帰り道、ホテルに戻る前にのんびりとした気分で一息入れようと特に目的も無くうろついている。
「ねえセレアナ、ちょっとお茶でもしていかない?」
「ええ。この辺りで温まっていきましょう」
通りかかったカフェに入って、適当に目についた席に座る。甘めの飲み物を選んだのは、無意識的に癒しが欲しかったのかもしれない。何せ、超一流ホテルで年始を迎えてセレブな晴れ着での初詣をしたのも束の間、正月明けから研修や訓練が目白押しでまったくもって休まる暇が無かったのだ。昨年末に中尉に昇進して以降は、本当に忙しくなった。
それでも、やっと取れた休みがもうすぐ訪れるということで、それを励みに今日も今日とて任務に打ち込んだ。自然と、会話も次の休みをどう過ごそうかというものになる。
「久々にだらだらするのもいいけど、それじゃあ勿体ないわよね」
「……あ、セレン、それならさっき見たデパートに行ってみない? オープンセールと被ってたじゃない」
セレアナは、ここに来る途中に前を通ったオープン前のデパートを思い出して言った。確か、開店までそう間もない筈だ。『買えないものはない』と事前宣伝しているし、きっと満足するショッピングが出来るだろう――と。
結局、そのショッピングの最後では食事の代わりに変異兎のジビエを多く作ることになるのだが、結局任務時と大して変わらない時を過ごすことも、それで休み気分が吹っ飛ぶことも今のセレアナに分かるわけもない。
「そうね、ショッピングか……」
セレンフィリティはその話を聞きながら、何となく制服についた中尉の階級章を指の爪先でいじっていた。この階級章を見ていると、こうして軍人をしている自分を奇異に感じる。今でこそこのパラミタに居場所を得ているが、ほんの6年前、売春組織にいた頃はそんな未来を思い描くことすら出来なかった。
――最愛の人と、こうして共にあることさえも。
地球でセレアナと出逢ったのも、偶然だった。
意識不明で死を待つだけだったところを、パラミタから来た彼女に救われた。自暴自棄になって組織から逃げ出そうとして失敗し、見せしめだと輪姦とリンチの末に棄てられた。既に死体と見紛われる程だった自分の命を救う為、セレアナは契約してくれたのだ。
(あたしの行く道は……セレアナと契約した時点で決まってたのかもしれない)
今でこそ、彼女と出逢わなかった可能性など無かったような気がするが、勿論、それ以外の人生もあったのだろう。
だが、彼女と契約した。
その後、開けた未来に浮かんだ選択肢は当然のように教導団への入団だった。パラミタへ渡り、軍人になるという過酷な道を選び、歩んだ。
それは、幼く無力な、自分自身ではどうにもならなかった過去があったからだ。初めて自分の意志で人生を選ぶ以上、後悔はしたくなかった。
自分のように無力な人を救う為の手段として。
そして、好きな人――セレアナを守る術を得る為に、軍人を選んだ。
いい加減で気分屋で大雑把な自分だが、それだけは偽りのない思いであり、その選択を後悔もしていない。
時に戸惑い、躓き、傷ついたとしても。
(セレン……)
階級章を触る手を止め、窓の外に遠い目を向けているセレンフィリティに気付き、セレアナは彼女を見詰めた。セレンフィリティは、時折こんな表情をする。その横顔を見ていると、ふと彼女と出逢った時を思い出した。あの日は、束の間の自由が終わりを告げる、その矢先でもある日だった。
――下級ながら貴族令嬢に生まれた最初から、セレアナには人生の選択肢など本来は存在していなかった。決められた、有力な家系との政略結婚の為に自分を磨かされる日々が続くばかりで。
地球へ旅行に行ったのは、そんな折。
政略結婚が決まり、人生で最初で最後の自由な日々を送る為にセレアナはパラミタを離れた。その中で、セレンフィリティを見つけたのだ。
パラミタへ帰れば、そこから先に自分の人生はない。
けれど……道に迷い、うっかり入った路地裏でセレアナは運命の出会いを果たした。
自分の人生と最愛の人を選び取った日。
その日の事を、何故か恋人も思い出している気がして。
セレアナは少し不思議な気持ちになった。
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