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【5周年記念】【かんたんイラストシナリオ】あの日の思い出

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【5周年記念】【かんたんイラストシナリオ】あの日の思い出
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リアクション

 
 ■ 内なる者 ■


 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が何か書き物をしているのを、リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が見つけて歩み寄った。
「エース、何をしているの?」
「あ、ああ、これは……」
 少し慌てたような、戸惑ったような、困ったような、そんなエースの様子にリリアは首を傾げた。
「どうしたの、エース?」
 リリアはそのままエースの手元を覗き込み、『エースへ』と書かれた紙を手に取る。
「あ、それは」
「エースへ? 自分への手紙なの。
 本日起床後メシエと会話。内容は以下の通り、何これ、日記?」
「リリア……あまり人のプライベートに首を突っ込んではいけないよ」
 声に振り向けば、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が苦笑している。
「まあ、ちゃんと事情を説明していなかった我々も悪いのだが」
 メシエは、苦笑したままエースを見た。
「君も散々リリアに剣の手合わせなど相手をして貰っているし、そろそろ説明すべきではないかね」
「……うむ」
 と、歯切れの悪いエースに、リリアはきょとんとする。
「剣の手合わせの相手って、何を今更……」
「彼は、エースではないのだよ」
「え?」
「今我らの目の前に居るのは、エセルラキア。エースとは別の人物なのだ」

 エースは遠い過去、前世で、エセルラキアという人物だった。
 彼がエースの中に蘇った後、再び失われることをエースが拒否し、今の、エースの中に二人の人格が同時に存在している状態にある、と言う。
 主人格は勿論エースだが、こうして時々、エセルラキアが優位になることがある、らしい。
 エセルラキアという人格は、二人の“統合”を望んでいるが、エースはそれを拒んでいる、という。

「……えーと」
 リリアは、人差し指で額を押しながら、つまり、と言った。
「……それは所謂、【馬鹿には見えない友達】というやつなのかしら……」
「酷いね。妄想扱いなのかい?」
 メシエはくすくす笑う。
「確かに、荒唐無稽な話だが。
 解離性障害と考えれば、ただの精神疾患で説明も付くからね。
 それだと主人格のエースが、何かから自身を護るために、エセルの人格を必要としている、とも考えられる。
 それと、エセルが居なくなったら彼の居た世界が完全に失われると、エースは恐れているのではないかな。
 それでエセルという人格を手放したくないと」
「ふぅん……解ったような解らないような……」
 リリアは結局、難しい理屈を全てすっ飛ばして受け入れた。エースはエースだ。
「まあいいわ。とにかく、エースの中にはもう一人居るのね。
 もっと早く説明してくれてもよかったのに。家族なんだから」
 前世だろうが、二重人格だろうが、リリアの家族への思いが変わることは無い。
“統合”が必要だと彼等が思うなら、協力してあげてもいいわ、と思った。
「統合されたら、エースはどうなるの? 別人になっちゃうの」
「さあ、解らないが、今のエースが変わってしまうということでは無いと思っているよ」
 メシエの言葉に、エース――エセルラキアも頷く。
「ただ、『エセルラキア』にとって、この世界は自分の世界ではないし、存在するべきでない場所だ。
 だからエースの中に溶けてしまいたいと思っている。
 だがエースは、エセルを自分とは別の人物だと思っているから、受け入れ難いのだろうね。
 命の奪い合いになるような出来事を巧く精神的に処理出来ない。
 それを肩代わりして欲しいとエースは考えているのではないかな」
 それは、エースの感情面の問題で、周りがどうにかできることでもなく、理屈を言ってもエースを納得させることは難しいのだろう。
「確かに難しいわ。どうして皆そんなに難しく考えるの」
「まあ、暫くは、今の状態が続くだろうね」
「別に、日常生活に支障が出ないなら、このままでもいい気もするけど」
 説明されるまで全く気がつかなかったくらいだから、エセルラキアもそれなりに、今の状態に溶け込んでいるということなのだろう。
 リリアは、彼ににっこりと笑いかけた。
「ええと、エセル? 改めて、よろしくね」