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リアクション
■ 壊れた機晶姫・3 ■
ニケ・ファインタック(にけ・ふぁいんたっく)は、空京の薄暗い裏通りを歩き、廃ビルを望む一角で足を止めた。
「……此処、ですね」
どの窓にも光の気配の無い、静かなビルだが、此処を活動の場にする犯罪組織があることを、ニケは突き止めていた。
そこに、探す人物、パートナーの機晶姫、メアリー・ノイジー(めありー・のいじー)がいることも。
今日此処で、組織の者達が集まるという情報を、ニケは得ていた。
(張り込んでいればきっと、メアリーに会うことが出来る……)
かつてのメアリーを知るニケにとっては、彼女が犯罪組織に与するなど信じられないことだったが、今、メアリーは、メアリーではない。
幼い少女の外見を持つ機晶姫は今、別の人格に支配されているのだ。
百年も昔に、創造主や兄弟達を殺戮した後、メアリーの内に封印されたという、残忍な誰か。
(とにかく……何とかとっ捕まえて、憑き物を祓わないと。
体格では有利だし、不意を突ければ捕まえることが出来るはず)
だが、メアリーらしき人物は、中々現れない。
物陰から、建物内に入って行く人影を目で追っていたニケは、ふと小柄な影を見つけた。
ビルから出て来る、執事服を纏った幼女。
あれは、と思った時、人影がこちらを向き、笑った。
(!?)
はっとした時既に、そこにその人影は無い。
直後、ニケは背後から首を掴まれた。
「!?」
強く締められて、ニケの表情が苦痛に歪む。
「おっ嬢さん、誰かお探しですかぁ?」
身長差をレビテートで補い、少女はニケを壁に押し付けて締め上げる。
「っぐ、メ、アリ……っ!」
潜む自分に気づいていたのか。
目線で問うニケに、メアリーは――その中に在る男は、にたりと笑った。
「お前みたいなガキがうろちょろしてんのに、気付かねえとでも思ってたのかよ?」
「メアリ……っ、を、返せっ……!」
ギリギリと締める手を必死に振り解こうとしながら、ニケは叫ぶ。しかしその手は、びくとも動かなかった。
「誰だよ、その女? 知らねぇなあ」
メアリーは残酷に言い放ち、更にニケの首を絞める。
(メアリー……!)
ニケの目尻に涙が滲む。
再会できたのに、こんなに近くにいるのに、助けられない。
取り戻すと、誓ったのに。
ニケの意識が途切れたところで、メアリーはニケを放り捨てた。息はある。
「俺さぁ、今機嫌いいんだわ。
だからお前は殺さないでおいてやるよ。またせーぜー俺を探すんだな」
動かないニケに、いかにも楽しそうに言い捨てると、メアリーは踵を返した。
「ま、もうと会うことはないだろうが。
最後に出血大サービスだ。
俺の名はグレゴリー。聞こえてないだろうがな」
楽しげに笑いながら、メアリーはその場を去って行く。
後にはただ、意識を失ったニケと、メアリーが――グレゴリーが出て来た廃ビルの中で、彼の裏切りの末に殺された、夥しい数の血塗れの死体が転がっているだけだった。