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【5周年記念】【かんたんイラストシナリオ】あの日の思い出

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リアクション

 
 ■ 壊れた機晶姫・2 ■


 エミン・イェシルメン(えみん・いぇしるめん)のパートナー、機晶姫の金襴 かりん(きらん・かりん)には、生き別れた兄弟がいる。
 妹である機晶姫の暴走による製作者の死亡と、彼等が生活する研究所が大破したことではぐれてしまい、行方不明となったのは、約百年前。
 兄弟達の生死は不明だが、生きていると信じて、二人は彼等を探す旅を続けている。

 その旅の道中で立ち寄った、小さな町、とりあえず落ち着けたホテルの一室で、エミンは少ない荷物の中から、それを見つけて「あっ」と目を見張った。
「ああかりん、本当にすまない! 自分は君に謝らなくてはいけないことがあるんだ。
 君は春の風のように暖かく優しい人だけれど、こんなことをしてしまった自分を許してくれないかもしれないな……」
「な、なに、……どうした、の、とつぜん……」
 芝居がかったような言い回しはいつものことだが、かりんはぱちぱちと瞬いて、エミンをぽかんと見つめた。
 耳の不自由なかりんだが、唇の動きで相手の言葉を読み取る。
「これ、以前研究所の跡地に行ってみたことがあったろう?
 かりんに渡して欲しいと、見知らぬ老人に預かったんだ。
 ああ、本当にすまない! こんな大切なことを忘れるなんて、自分は本当に迂闊だよ!」
「……まったく、うっかりさん、だね」
 表情の乏しいかりんは、それでも微かに微笑む気配を見せ、渡されたシガレットケースに刻まれた名前を確認した。
「ヌィエ、さん」
 かりんは目を細める。知っている名だ。
「ヌィエ?」
「にこちゃん……が、執事として。つかえていた人 だよ」
 にこちゃん、とは、二号の意味で、かりんの妹のことだ。
 アンネ・アンネ一号、が、かりんの元の名で、二号、が妹の名。
「二号?」
 エミンは驚く。
 それは、百年前、暴走して兄弟達を、製作者を傷つけた者だと聞いていたからだ。
 シガレットケースをじっと見つめて、かりんは過去を思い出す。

 ヌィエとは、かりん達を作った製作者の友人の名だ。
 かりんは、父にあたる製作者が、彼に二号を譲ったことを喜んでいたことを憶えている。
 その人は、二号が引き起こした研究所の火災を、外に佇み、じっと見つめていたという。
「あの、事故のあと。
 わたしも ヌィエさんが、なにかしらないかと……ききに行っては、みたけど。
 家は、ひきはらった あとだった」
「そうか……ヌィエさんとやらも、辛かっただろうね。
 大事にしていた執事が……そんなことになってしまったのだから」
 エミンは優しく、かりんの肩に手を置く。
 彼が何を考えて、このケースを自分に――かりんに渡したのかは謎だが。
 会いたいとも、会いたくないとも、思っているのかもしれない。
 或いは、老いた自分がやがて死ぬ前に、二号への伝言を、このケースに込めて託したのかも、しれなかった。

「いつか……その人か、近しい人に会えたら。
 それを返すことができるかもしれないね」
 それまで大事にとっておこう、と。
「ああ、それよりも、二号と再会するのが先かもしれないな!」
 エミンはそう、努めて明るく笑った。
「……そう、だね」
「そうさ! そうしたら二号にこれを見せてあげよう。きっと喜ぶ!」
 かりんは頷いて、シガレットケースを大事に両手で包み込んだ。