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サバゲー×ゴスロリ×お茶会


 『サバゲショップ・シャウラ』。
 蠍座の名を持つ店……ではなく、蠍座の十二星華パッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)、そして配偶者円・シャウラ(まどか・しゃうら)の姓を持つ自宅兼店である。
 店部分はサバゲーショップでありながらも二人の趣味全開で――つまり、出てきた二人も私服のゴスロリ服の上にピンクのエプロンという姿で、側をペンギンがペタペタ歩き……連れてこられた桜井 静香(さくらい・しずか)は目を丸くしていた。
「ロザリンだ、おーい。静香さんもこんにちはー」
「円さんおじゃましまーす。あ、ペンギンさんも頑張ってますねー。
 ……静香さん、こちらですよ」
 恋人のロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな) が驚いたでしょう、とでもいうように微笑む。
 ……うん、ちょっと驚いた、というように静香は目で返すと、店員の二人に向き直る。
 校長と生徒、少々微妙なところだけど元教え子と言っていいならその独立後、初めての訪問。
「開店おめでとう。開店祝いには遅くなったけど、これ僕から」
 静香は円に、フラワーアレンジメントのバスケットを差し出した。爽やかで可愛らしい色遣いはサバゲーショップに合うだろうかと思ったが、
「ありがとーございます。……さ、二人とも入って入って!」
 円が受け取って中へ招き入れる。花は円にもゴスロリ服にも似合っていたし、店の中でも違和感がなかった。
 入ったところ、一階は各種銃器――勿論モデルガン――が並んでいたが、ところどころ可愛らしい雰囲気がある。
「サバゲーっていうから厳つくて難しそうなイメージだったけど、何だか二人らしいね。制服も可愛いし」
「この制服はサバゲ店長的名ユニフォームだよ!」
 円が足取りも軽く腕を振って張り切っているのは、パッフェルに頑張ってるところとかかっこいいところを見せたいからだった。
 パッフェルは過去の経緯から、今でもロイヤルガードとしての仕事が主で、この店の店員は休日だけ。サバゲーショップをしたいと言い出したのはパッフェルの方だったが、円が実質切り盛りしていた。


 ――開店前、円はパッフェルの目の前で毎日の成果を披露していた。
「パッフェル見てみて、凄くカスタムやメンテの腕上がったよ! 凄いでしょ。めっちゃ早く分解出来るよ!」
 カッコいいところを見せて、ちょっと褒めて欲しくて。
 ワーキングデスクの上で新作モデルガンの分解と組み立てをやって見せる円の笑顔。
 パッフェルにはそれが子犬のように見えて、優しく微笑むと、両手を伸ばして円の頭をぎゅうっと抱きしめた。
「パ、パッフェル……胸が……あったかい」
「……円、ありがとう。いつもひとりで、仕事、頑張ってる」
「あのさ、パッフェル……も、ロイヤルガードの仕事が終わったら、二人でお店を……」
 言いかけて上を向くと、パッフェルは微笑みを消して躊躇いがちに口を開いた。
「……ロイヤルガードだけど……」
「大丈夫だよ、店は悲しいけど大繁盛……っていうわけじゃないしね! 一人でも、時々手伝ってくれれば!」
 パッフェルはそんな円の頭を愛おしそうに撫でると、
「実は、ね……西シャンバラの代王が……少しずつ、任務減らして、くれてる、の」
「そういえばお休み増えてるかも……?」
「そのうち……有事の際の出動、くらいに、なる、かも」
 嬉しい内容のはずなのに、そう円に話しているのに、パッフェルはどこか複雑そうではあった。
「パッフェル……?」
「……今は、円といっしょに、いる、から」
 そのまま二人はしばらくぎゅーっとくっついていたが、円はパッフェルの暖かさに負けそうになって目を伏せて……それから、携帯のアラームが鳴って約束の時間を示したのに気付いたのだった。


 そんな時間も守る立派な社会人として歩んでいる円は、お客さんの二人をテキパキ案内する。
 本当なら今日はパッフェルと一緒に休んでも良かったけれど、二人が来ると聞いて臨時開店することにしたのだった。……他のお客さんがいたら、お喋りもできない。
「あっ、エアガンが見たいの? んーとね、そこら銃に飾ってる展示品はどれも今すぐ使えるし使っていいよ」
「使うって、どこでですか?」
「射撃場は地下にあるよ、そこの階段からいけるー」
 ロザリンドはハンドガンやサブマシンガンとか、ガスガンとエアガン、BB弾や充填用のガスなどの違いを説明を受けながら、楽しそうかつ真剣に見ている。
 それから静香をちょっと見て、モデルガンを物珍しげに持ち上げたり触ったりしている仕草に目を惹かれる。
(静香さんにも練習と言いますか、ちょっと慣れてたら、男らしくなったりするのかなー)
 静香はほとんど、戦闘するということをしないけれど。
(男の人ならこういった物喜んだりするかな。やってみたら意外と銃の才能があったとか……)
「行ってみましょうか静香さん?」
「そうだね、せっかくだから見せてもらおうかな」
 ロザリンドはにっこり笑うと、
「さあ行きましょう」
「この前と違って景品とかはないけどね……あ、こ、今度はぶれないから! ちゃんと修行してるし!」
 七夕のテキ屋で本気になったロザリンドを思いだし、円は慌てて付け加えた。
 ロザリンドはスイッチが入ったようにさっと練習用の服に着替えて張り切って銃を試し撃ちし、静香も後に続いた。


 円は次々にロザリンドと静香を案内していく。パッフェルは最後尾でお客様に危険がないか、そっと注意しながら、円の店員っぷりを嬉しそうに見ていた。
「二階は、サバゲ用のコスと……」
 階段を上がると、一層可愛らしい店内になる。サバゲー用のコスチューム――迷彩服にベスト、ゴーグル、帽子やグローブ、シューズの他、迷彩柄などミリタリー趣味の衣装の他に、ゴスロリをはじめとした可愛い服に、二人の趣味で仕入れた物――ペンギンの置物やぬいぐるみ、可愛いグッズなどが並んでいた。クロスやフリルなどがあちこち覗いている。
「これ、なんか可愛いね。人形を運ぶみたい……?」
 静香が可愛く装飾された黒や白のスーツケースを開けると、中には奇妙な形に……つまり銃の形にへこみが付いていた。
「それガンケース、こんなのもあるよ」
 と、円はバイオリンケース風のものやブックケース型などを見せる。
「この先が自宅になってて……」
 一通り案内して回った後、最後に円は店の外に出た。
 静香は来るときにも気になっていたのだが、そこはオープンカフェのようにテーブルと椅子が用意され――要するにお茶会ができるようになっていた。
「さ、二人とも座って座って。……パッフェルー?」
 中々店から出てこないパッフェルに声を投げると、少し遅れて出てきた彼女は両手のトレイにお茶とお菓子を載せて持ってきた。
「手作り? ありがとうパッフェル」
 円に褒められて、パッフェルはうっすらと頬を染める。
 静香は勧められるままロザリンドの隣に腰を下ろすと、感心したように頷いていた。
「ありがとうパッフェルさん。それにしても、本当にお茶会するスペースだったんだね」
 パッフェルの手からお茶が全員に行き渡り、四人で座ってから、円はおもむろに言い出した。
「校長ー、ほら、授業で、サバゲとかやんないですかね」
「え?」
「銃の基本とか学べるからさ、教材として家から購入するならお安くするよ」
「……早速商人の顔になってるね」
 静香は楽しそうに笑った。
「そういえば、百合園にバイト募集の張り紙があったね」
「そうなんですよ」
「うーん……危険だったりしない?」
「あくまでサバゲーはスポーツだからねぇ、でも、対人の雰囲気は学べると思うし、お勧めかな。止まった的だけだと、実戦で危なそうだし何より、楽しいからね。ねっ、パッフェル」
「円の、言う通り」
 こくり、とパッフェルは頷く。
 ロザリンドも乗り気なのか、身を乗り出して静香に語り掛ける。
「今度リアルに再現しているモデルガンとか発注して、それを百合園女学院の生徒が実習で扱ってみるとか。そうやって自衛の道具に少しずつ慣れていくとかどうでしょう? か弱い乙女に自衛の手段が増えていくのはいいと思います。
 校長だけでなく百合園女学院強化計画ですね」
「ぼ……僕も強化するの? うーん……そうだね、平和になったって言っても、相変わらず事件は起きてるし……」
 地球のお嬢様学校には違和感があるが、ここはパラミタ。
 契約者や非契約者がバラバラに学ぶよりも、学校でまとめて教えた方がいいのかもしれない……と、静香は思った。
「実践の練習、心構えとかの練習になるかもね。――あ、でもちゃんと入札……っていうか、購入するのは検討してからね?」
「しっかりしてきたなぁ。……じゃあ、そういう方向で、商売の話は後でね!」
 何やらメモを取ってポケットに仕舞った円に、ロザリンドは話を振る。
「円さんとパッフェルさん最近はどうですか?」
「こんな感じ。お店は順調だよ。ねぇ、ロザリンはどうするの?」
「こちらは女官の採用試験に受かるよう勉強中ですよ」
「女官かぁ、大変そうだなぁ、がんばれー」
「それと一緒にお料理の特訓もやっていますので」
 ロザリンドは、にっこり。
 円は、どっきり。
「――ということで、お二人には差し入れのクッキーを。これからもよろしくお願いしますね」
 ロザリンドは可愛らしくラッピングしたクッキーの包みをパッフェルの用意したお菓子の間に広げた。
「ク、クッキーかぁ。い、いただきます」
 円の口元は若干引きつっていた。これが他の人の手料理なら素直に喜ぶところだが、数々のロザリンドの失敗さ……手料理を食べてきた円の手つきは恐る恐る、おっかなびっくりだ。
 そのことは他の二人も知っており、何故か円を見守っていた。
「あれっ、少しは普通になってる?」
 見た目は、普通だ。その中から一番普通そうなクッキーを一口齧った円は、意外そうな顔をする。……が、二口目を口にしたら、手をわたわたさせた。
「あっ、でもジャリっていった! パ、パッフェルお菓子頂戴!」
「これもお菓子ですよー……」
「それに確かにジャリって言うけど、お砂糖だよ。食べられない材料とかクッキーに使わない材料とか入ってないよ!」
 悲しげで恨めしそうな恋人を庇う静香が、逆に物悲しいロザリンドだった。
 更に、焦げて苦くなったところとか率先して口に放り込む静香を阻止しようと、ロザリンドは鍛えた指先で掴み取ると自分の口に放り込んだ。ちょっと苦い……でも人間の食べ物になってる。これからだ。頑張ろう私。
 しかし自分を慰めていたロザリンドは、パッフェルのお菓子でお口直しをして復活した円の突然の質問に、今度はまた自分がむせかける羽目になった。
「あっ、ロザリンと、静香さん式は何時あげるんです?」
 かあっと一気に頬を真っ赤にして、円の背中をバシバシ叩くロザリンド。
「円さんおませさんなのだからー」
「おませさんって、ボクのが年下だけどちょっとだけだよ、ボク既婚者だよ!」
 一方静香はもじもじしつつ、
「……うん、互いの生活が落ち着いたら、かなぁ……」
 静香はロザリンドと顔を見合わせる。
「僕の方は校長としての勉強をもっと頑張って、ってことだけど、ロザリンドさんも女官のお仕事に慣れることが大事かな、って……。
 あの『式』の方はってことだからね。そろそろ……指輪を見に行こうかなって思うんだけど。サプライズでプレゼントっていうのも考えたんだけど、やっぱり好きなデザインのがいいかなって……嵌めて貰って似合う方がいいなって」
 のろけになっていることは全く気付かない静香。頬を染めて幸せそうに見つめているロザリンド。
 円はパッフェルに痛む背中を撫でて貰いつつ、
「ねぇ、ボクたちもこんな感じに見えたのかな?」
「……今も、見えると、いい」
 ――やっぱり、どちらもラブラブなのだった。