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黄金色の散歩道

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秋のピクニック


 紅葉を映すヴァイシャリー湖をゴンドラで少し遠出する。水の色は空の青さに、木々の原色を写し取り――ヴァイシャリー郊外は赤や黄色の鮮やかな色に染まっていた。
 岸に降りれば落ち葉が舞って空間を美しく彩っている。
 景色をゆっくり見るために徒歩で来たのは正解だったようだ。
 落ち葉の絨毯の上を、ドングリを抱えたリスがさっと走っていったかと思うと、木の幹を駆け登って首をきょろきょろと傾げて見ているのも可愛らしい。遠くの木立の奥では、鹿の親子が残り少なくなった緑の草を食んでいる。
「小夜子。あれは狸かしら?」
 泉 美緒(いずみ・みお)が右手の細い指で、茂みを指さした。
 左手は泉 小夜子(いずみ・さよこ)に繋がっている。小夜子は目をやるが、彼女が見た時には僅かに揺れる茂みがあるだけだった。
 左手に提げた重いバスケットの分だけ、反応が遅れたようだ。
「……あっ、隠れてしまいましたわ。……もう、残念ですわ」
 本当に残念そうに言う美緒に、小夜子は優しく微笑む。
「また見つけたら教えてくださいね」
「ええ。……小夜子、ほら、今度はあちらに綺麗な鳥が……」
 小動物との邂逅を楽しみながら、美緒は歩いていく。
 白いレースを沢山あしらった茶の秋色のワンピースに落ち葉色のカーディガン、足元にブーツ。丸みのある革のポシェットが腰の下で楽しげに揺れている。普段よりカジュアルだが、可愛らしい雰囲気だった。
 一方の小夜子も、普段の動きやすくて露出度の高い格好ではなく、美緒が見立てた、レースが装飾された清楚で可愛らしい白いワンピースを着ていた。茶色のブーツは美緒とお揃いのようで、パールのアクセサリーがアクセントになっている。
 着慣れないために最初は違和感があったが、新鮮だったし、美緒と並ぶとお揃いのようでそれも嬉しかった。
 美緒も小夜子が普段と違う、そして自分の好みの恰好をしているのが余程嬉しかったらしく、何度も可愛いですわ、似合ってますわ……と繰り返していた。
「本当に、ピクニックにいい気候で……天気に恵まれて嬉しいですわね」
 なだらかな傾斜が続く景色のよい山野を歩きながら、美緒はご機嫌だ。
「絵本に出てきそうな光景ですわね。そろそろ適当な木の下でご飯と行きましょうか。ちゃんと用意してきましたから」
「小夜子はどの木がいいですか? あの木はどうでしょう?」
 二人は葉っぱが適度に付いた見栄えの良い木を選ぶと、その下にピクニックシートを広げた。
 小夜子が持って来たバスケットを開くと、次々に美味しそうな昼食が姿を現した。ティセラブレンドティー入りの水筒、サンドイッチケースに入った、ハムや卵、キュウリやレタスのサンドイッチ。おやつのクッキー。
 小夜子は二人分のおしぼりを取り出すと、美緒に渡して、二人で綺麗にして。
 紅茶をコップに注ぐと、これも美緒に渡す。
「わたくしも少しですけれど、作ってきましたわ。さつまいもとかぼちゃのポタージュです。その……わたくしは、牛乳と混ぜただけですけれど」
 美緒はスープジャーから、湯気の立つポタージュをカップに注いだ。綺麗で優しい、秋らしい黄色だ。
「美味しいですか? 口に合えば良いですけど」
「ええ、とても美味しいですわ」
 愛する人の作ってくれたサンドイッチを口に運び、少しずつ小さな口でもぐもぐと食べる様が小動物のように愛らしくて、小夜子は座り直してぴったりと腰を寄せると、彼女に寄りかかった。
「もう、こぼれてしまいますわ」
 言いながら美緒も身体を預け返す。ぴったりとくっついたところが暖かくて気持ちよかった。
 一通り食べてしまうと、小夜子は殆どをバスケットに片付けてしまって、シートの上を開けて広々とさせると、美緒の胸元にむにゅっと寄りかかった
「美緒……幸せよ」
 甘えた声を出すと、美緒はくすぐったそうに身じろぎをしてから、何ですか小夜子、と言いながら優しく彼女の身体を抱いた。
 美緒の甘い香りが漂ってくる。小夜子はその香りが発せられるところ――胸元に顔を押し付けるようにそろそろと顔を上に動かすと、両手で美緒の背中を抱きつつ、唇に口付けた。
 長い口付けの後、唇を離す。いつでもまた口付けできる距離で、囁くように。
「……甘い味。お酒は飲んだことは無いけど酔うとこんな感じになるのかしら……美緒はどう?」
「小夜子はわたくしを甘いと言いますけれど、わたくしにとっても、小夜子は甘いのですよ……?」
「どんな、味がする?」
 少しだけ意地悪く聞きなおすと、美緒はますます頬をリンゴのように赤らめて、酔ったように甘い吐息で。
「……とても、……甘い……味がしますわ。チョコレートのリキュールを飲んだみたいに……溶けてしまいそう」
 恥じらう美緒の様子が可愛らしくて、そして色っぽくて、小夜子はご褒美に頭を撫でてあげる。
「ねえ美緒、また一緒に来ましょうね」
「ええ、小夜子」
 二人は落ち葉のベッドに抱かれながら、蕩けるようにもつれ合い……のんびりとした秋の日を楽しんだのだった。