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「映画、面白かったわね。最後の結婚式のシーンでは涙が出そうになったわ。2人共とても綺麗で、幸せそうで」
 そう微笑む雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)を見て、四谷 大助(しや・だいすけ)の心の中に幸せな感情が広がっていく。
 雅羅の方がずっと綺麗だー。
 そう叫びたくなるが、ここは話を合わせておくべきだと、大助は心を落ち着かせながら、映画の感想を語り合った。
「……っと、お昼はあそこのレストランでどう?」
 大助が指差したのは高級レストランだ。
「ん、でも。総合公園を散歩するって聞いてたから」
 雅羅は鞄の中から、バスケットを取り出した。
「お弁当を作ってきたわ」
「う……お、オレの分も?」
「ええ」
 ヤバイ……。
 大助は幸せで眩暈を感じて。
 思わず片手で頭を押さえた。
「どうしたの? 頭痛がするの?」
 心配そうな目を向ける彼女に、全力で首を左右に振って。
「全くそんなことない! それじゃ、総合公園行こうか」
 て、手をつなぎたい。
 そんな気持ちにもなるけれど。
 今日は、初めてのデートだ。
 大助にそこまでの勇気はまだなかった。

 総合公園の花壇は、春の花で満開だった。
 桜の木も各所に植えられている。
 大助が彼女とのデートに選んだこの場所は、街中から少し離れていることもあり、事件や災難に縁遠く、人も少なくて静かだった。
 空は澄み渡っていて、降り注ぐ光は穏やかで。
 春の暖かさが感じられる。
 2人、並んでベンチに腰かけて。
「どうぞ。凝ったものは何もないけれどね」
 雅羅が弁当を広げていく。
 卵に野菜にチーズのサンドイッチ。
 から揚げにウィンナーに卵焼き。
 別のパックには果物が入っていた。
「ありがとう! ありがとう!」
 感動を言葉と、表情で強く表しながら、大助は雅羅が作ってきてくれた弁当を美味しそうに食べた。
 優しい春の香りがする空間で、暖かな光を浴びながら、大好きな人と2人きりで、大助はとても幸せな時間を過ごした。

 それから、2人で桜並木を歩く。
「すごい……綺麗」
 さわさわと風が吹いて、舞飛んだ桜に雅羅は手を伸ばした。
 掴むのではなく、ただ、軽く浴びただけ。
「すてき、ね……」
 映画を見た後と同じような感動を、彼女は露にしていく。
「ありがとう」
 桜並木の終着点で、雅羅は大助に笑みを向けた。
「映画も奢ってもらったし、素敵な場所教えてもらったし。私からも何かお礼をしたいところだけど」
「お礼かぁ……」
 少し考えてから、大助はこう雅羅に言った。
「なら、オレの名前を呼んでよ。『だいすけ』って」
「名前?」
 こう? と首を傾げながら、雅羅は大助の名を呼ぶ。
 そのたびに、大助は『もう1回』『もう1度!』『もう1声っ!』と、何度も何度もリクエストする。
 雅羅は何なのよ、とちょっと呆れながら、彼の名を呼ぶ。
「もう1回! オレのこと好き?」
 リクエストと同時に、最後につけられた言葉に、雅羅は戸惑いながら。
 彼の名前を呼んだ――。

○     ○     ○


「暖かくて気持ちがいいなー。お昼寝日和だ」
「そうですね。動物たちも気持ちが良さそうです」
 神崎 輝(かんざき・ひかる)は、パートナーの一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)を誘って、近くの公園に来ていた。
 輝には恋人がいて、瑞樹に対しては恋愛感情はないけれど、彼女はとってとても大切な人だ。
 綺麗な花が咲いている花壇を眺めたり。
 桜の木を見上げたり。
 野良動物や鳥が集まる場所、池の魚を眺めたりしながら、公園内を一緒に歩いて。
 それからちょっと、ベンチに腰かけて休憩をする。
 最近、色々な出来事があった。
 忙しくしていたせいで、こういう時間を取ることが出来ずにいた。
 だから、一緒に今日はただひたすらのんびり過ごす……。
「あの、さ。瑞樹」
 輝は隣に座る瑞樹に、身体を向けた。
「何ですか?」
 輝を見た瑞樹は、はにかみのような笑みを浮かべていた。
 本当に久しぶりの2人きりのお出かけだから。
 瑞樹は照れくささと緊張で、ドキドキしていた。
「瑞樹には、本当に世話になりっぱなしだよな……。えっと……ありがとう」
「えっ……私こそ、まだまだ未熟なところがあって、マスターや皆に迷惑かけっぱなしです」
 輝の言葉に、瑞樹はそう答えた。
「いや、そんなことない。ホントに、瑞樹に……感謝してるんだ。多分、ずっと世話になるから」
 少し照れながら、輝は言葉を続ける。
「これからもよろしく」
「は、はい……!」
 瑞樹は笑顔を浮かべて頷いた。
「お世話になりっぱなしじゃなく、ボクももっと強くならないといけないですが」
 輝は軽く苦笑する。
 瑞樹は首をちょっと左右に振って。
「マスター、いえ、輝さん…え、えっと…うまく言えないけど…いつもありがとうございます!
 私も、もっと頑張りますから…これからもずっと、よろしくお願いします!」

 大好きなマスターに、ずっと一緒にいたいという思いを伝えた。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
 お礼を言い合って、暖かな春の日差しと同じ、暖かい笑みを互いに向ける。
 互いの心に、癒しの風が吹いていく。
 ふう、と息をつき。
 肩の力を抜いて、楽な姿勢で。
 可愛らしい小鳥の鳴き声や、春の香りをゆるりと楽しんでいく。

○     ○     ○


「お話ししておきたいことがあります」
 イルミンスールの外れ。
 魔女のリーア・エルレン宅を訪れた神代 明日香(かみしろ・あすか)は、神妙な顔で各地のニュースを、テーブルに広げた。
 そこには、エイプリルフールに起きた、不可解な事件について書かれている。
 有名人の声で語られた数々の嘘。
 それに翻弄された人々。
 その中には、軍隊の出動まで行われそうになった嘘まであった。
「講義などではお世話になっていますので、こんな事を言うのも気が引けるのですが〜」
 部屋には明日香の他に、魔法薬や占いを求めて訪れた客人が沢山いる。
 明日香は真剣な顔つきで、彼らに丁寧に礼をした後で。
 彼らに背を向けて、リーアだけに顔を見せながら言うのだった。
「悪戯する時は羽目を外さないように、今後監視さていただきますからねぇ。次に何かする時も必ず連絡してくださいね(心の声)
「仕方ないわね……。貴女には適わないわ。ええ、必ず連絡するわ」
 リーアは目を光らせて、明日香に答えた。
「それでは、失礼します。あ、これ私の連絡先です〜」
 明日香はリーアに連絡先を書いた紙を渡して。
「いただいておくわ。是非また来て頂戴。私が羽目を外しすぎたりしない為に!」
「ええ、必ず」
 何故か2人は固く握手を交わすと、明日香は客人達に頭を下げて、リーアの家を後にした。

 客人達は普通に用事を済ませて、普通にリーアの家を後にする。
 魔女リーアの家は、普通に平和だった……♪