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砂上楼閣 第一部(第1回/全4回)

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砂上楼閣 第一部(第1回/全4回)
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「何故あなたがいらっしゃるんですか?」
 空京に到着したルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)は、雪之丞の姿を見つけるなり、露骨に顔をしかめた。空京で外務大臣を出迎えるのは自分の仕事だったはずだ。雪之丞がいるとは聞いていない。
 ルドルフの当惑を面白がっているのだろうか。雪之丞は飄々とした様子で答えた。
「念のための事前準備ってヤツよ。すでに拘束された不審者もいるしね。飛空艇に乗り込む前に、外務大臣に何かあったらマズイじゃない?」
 そんなことは分かっている。だからこそ短時間で空京内の要所要所をチェックできるよう事前に下調べだってしておいたのだ。同行してきた薔薇学生にも、その辺りはよく言い含めている。
「それに今回は直もいないしね。さすがにアンタ一人では手に余るでしょ?」
「補佐役ならエリオがいますので」
 憮然とした表情で主張するが、内心はかなり落ち込んでいた。ジェイダスや雪之丞から見れば、自分はまだ半人前ということなのだろう。
「あの…お二人がそろった所でご相談したいことがあるのですが」
 そう言って、二人の会話に割り込んできたのは、雪之丞に従い空京へやってきていた神無月 勇(かんなづき・いさみ)と彼のパートナーのイブン ムハンマド(いぶん・むはまんど)だ。
 控えめな口調ながらも堂々と進言する勇に雪之丞は不審なものを感じた。人払いを命じると、雪之丞は勇に話を促した。
「それじゃぁ話を聞きましょうか」
 勇は自信満々な様子で頷く。
「薔薇学生の中にもスパイはいます。注意された方がよろしいのでは、と」
「地球人排斥派のスパイってこと?」
「いえ、違います。鏖殺寺院のです」
 一瞬、雪之丞とルドルフの視線が交差する。
「…気軽に言っちゃいけない名前を、臆面もなく口にする子だねぇ」
「先日、退学になった生徒が、鏖殺寺院のスパイだったというではないですか! なのに生徒の一斉調査なども行われていません。だから僕は校長が彼を匿っているのではないかと疑っています」
 勇が、先日、学舎内で問題を起こし退学していった、とある生徒のことを言っているのは間違いなかった。
 雪之丞は大きくため息を付くと、勇を諭すようにゆっくりと言葉を紡いだ。
「アイツは変態だけど馬鹿じゃないよ。それに一斉調査を行っていない、とアンタは言うけれど、そんなこと派手にやったら相手に警戒されるだけじゃないのさ。アンタも有りもしないことを妄想していないで、目の前の警備に集中しなさい」
 そう言うと雪之丞は退出するよう勇に告げた。
 今は薔薇学生が一丸となって事にかからなければならない時期である。なのに学舎の頂点にいるジェイダスを疑う者が出てくるとは。ジェイダスのつかみ所のない言動を思えば当然の結果とも言えるのだが。この件に関しては早急に手を打つ必要があった。
 口元に手を当て考え込む雪之丞の横では、ルドルフが無言で宙を睨んでいた。仮面を付けているため表情は分からなかったが、わずかに口元がこわばっていることからも彼の動揺が伝わってくる。
「ジェイダス様が鏖殺寺院とつながっている…?」
 信じたくないことだが、勇の指摘も尤もである。同じイエニチェリとは言えど、ジェイダスとは十年来の付き合いだという雪之丞やディヤーブと比べ、若輩者の自分が未熟に見えるのはしょうがない。しかし、それがただ単に信用されていないのだとしたら?!
 勇の提言は、これまで一身にジェイダスを信じていたルドルフの胸に、深い楔を打ち込んでだのだった。