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砂上楼閣 第一部(第1回/全4回)

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砂上楼閣 第一部(第1回/全4回)
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 空京に降り立った雪之丞一行を待ちかまえていたのは、シャンバラ教導団から派遣されてきた護衛軍のメンバー達だった。警備計画を練りだした当初は薔薇学生だけで行う予定であった。タシガンの問題に他校が過度に介入することを避けたかったからだ。しかし、空京、飛空艇、タシガンの3カ所を警備するには、薔薇学生だけで少なすぎる。そこで、万全の警備体制を敷くために、教導団に応援を要請したのだ。
 完全武装に身を包んだ教導団の一軍から一人の女性将校が進み出た。
「中村雪之丞様ですね。教導団から参りましたルカルカ・ルー(るかるか・るー)と申します」
「えぇ、今日はよろしく」
 雪之丞は短く応えると、ずらりと整列した教導団の面々に視線を向けた。比島 真紀(ひしま・まき)サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)など、ジェイダス杯で見知った顔もある。彼らがよく訓練された兵士であることは雪之丞も知っている。彼らなら安心して警備を任せることができるだろう。
「まさかイスラエルの外務大臣が来訪するとはね。焦臭い話だが、パラミタの治安維持のためにも教導団員として見逃せねぇな」
 隊列の後方で呟いたのは、アサルトカービンにコンバットアーマーで武装した昴 コウジ(すばる・こうじ)だ。
 すかさずドラゴニュートのカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が苦々しそうにコウジを睨み付けた。
「俺達ドラゴニュートにとっては、どこの国の人間が来ようと同じだがな」
 中東からの要人来訪となれば自爆テロの恐れもある。地球人であるコウジ達が神経過敏になってしまうのも当然だろう。しかし、ここパラミタで生まれ育った者達からすれば、すべて「地球人」という母体集団でくくれてしまう。強引に分別するとすれば、「自分たちにとって都合の良いこともある地球人」と「厄介な地球人」くらいか。どちらにしても自分たちの生活を激変させた「招かざる客」だ。少なくともカルキノスはそう考えていた。
 カルキノスは折りたたんでいた翼を広げると、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に告げる。
「俺は先に行っている。物珍しげに見られるのも嫌だしな」
 初めてパラミタを訪れる地球人達は皆、ドラゴニュートに奇異の視線を向ける。守護天使や有羽ヴァルキリーなど、地球人にはない翼を持つ種族もいるが、彼らは翼の有無を除けば地球人との差異はほとんどない。驚くのも最初だけだ。
 しかし、明らかに別種族であるドラゴニュートはそうはいかなかった。巨大なトカゲを見るような目でドラゴニュートを見る人達は後を絶たない。
「やっぱり見た目のこと、気にしてるのかな〜」
 ふわりと空へと舞い上がったカルキノスを見送りながら、彼の契約者であるルカルカが呟く。
「私はドラゴニュートってすごくカッコイイと思うんだけど」
「いや、アイツはドラゴニュートであることを誇りに思っているよ。ただ、少なくともパラミタ人と契約を結んでいない地球人とは相容れないと考えている。そういうことだろう」
 ダリルの注釈にルカルカは曖昧な表情で頷いた。



 その頃、雪之丞とともにタシガンに降り立った薔薇学生達は、空港内の見回りをしていた。
「いい? ポポガ。今回のお仕事はすっごく大切なものなんだよ。大臣さんにもしものことがあったら、パラミタと地球で戦争が起こる可能性だってあるんだ」
 空港内の見取り図を手にしたリア・ヴェリー(りあ・べりー)は抜け目なく周囲に視線を向けながら、同行するアリス・リリポポガ・バビ(ぽぽが・ばび)に話しかけた。アリス・リリとは言っても、ボボガは隆々とした筋肉を誇る大男だ。中背のリアと並んでも大人と子供くらいの違いがあるが、その表情は幼くあどけない。
 身体を小さくして、リアの顔を覗き込みながら、真剣な表情で話を聞いている。
「国、違う。でも、生きる、一緒。なぜ、仲良く、しない? ポポガ、戦い、悲しい」
「もちろん、みんな仲良く暮らせるのが一番いいんだよ。そのためにも僕らが頑張らなくちゃいけないんだ。分かるね、ポポガ?」
 リアは子供に言い聞かせるように、優しく、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ポポガ、頑張る!」
 それは、ポポガが大きく頷いたときだった。
 突然、物陰から蒼空学園の制服を着た少年と少女がリアに話しかけてきた。
「ねぇ、君。薔薇学の生徒さんですよね?」
 友好的な表情を浮かべて近づいてきたのは、蒼空学園の赤月 速人(あかつき・はやと)カミュ・フローライト(かみゅ・ふろーらいと)だ。
「はい、そうですけど。何か?」
「今日、ここにイスラエルの外務大臣が来るんですよね? 俺、外務大臣と親しくなりたいんですけど、警備の一人に混ざらせてもらえませんか? もちろん仕事は誠心誠意頑張らせてもらいますから!」
 突然の申し出に、リアの表情は強張る。あまりの唐突さに、一瞬、相手が何を言っているかすら分からなかった。
「あの…僕にはそんな権限はありませんから」
「だったら、とりあえず護衛のトップの人に会わせてくれませんか。その人を通して外務大臣に直接お願いしますので」
「いや、無理ですよ、そんなこと」
 常識で考えても、何処の馬の骨かも分からない少年を外務大臣に会わせることなどできるわけがない。仮に警備責任者である雪之丞に会わせた所で、彼の負担を増やすのが関の山。結果は変わらないだろう。
 どうしたものかと考えていると、それまで黙っていたポポガが首を傾げるようにしてリアに問いかけてきた。
「リア、これ、不審?」
「うん、すっごい不審!」
 これ幸いとばかりにリアは速攻で頷いた。こうして不審な二人組は巨漢のポポガによって空京外に摘み出されたのだった。