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砂上楼閣 第一部(第2回/全4回)

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砂上楼閣 第一部(第2回/全4回)
砂上楼閣 第一部(第2回/全4回) 砂上楼閣 第一部(第2回/全4回)

リアクション

 その頃、大河達は遺跡の通路を歩いていた。列の先頭を角の先端に炎を灯したブルーノ・ベリュゲングリューン(ぶるーの・べりゅげんぐりゅーん)が歩き、チビドラゴニュートのファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)、大河、変熊 仮面(へんくま・かめん)と続き、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)らが殿を勤めている。
 長い石造りの通路は急な下り坂になっていた。遺跡に入ってから一時間は経っただろうか? 螺旋を描くようにカーブを繰り返す薄暗い一本道は、時間の感覚を狂わせる。延々とこの道が続くのか…とさえ思えてくる。
「まだかな〜タイガを待っている人って」
 ファルが、欠伸を噛み殺しながら呟いた。
「気を抜くな、ファル。いつ何が起きるか分からないぞ」
 松明を手にした呼雪が、ファルを諭したときだった。
「うわぁ〜!!!」
 突然、大河の叫び声が響いたと思いきや。
 苔生した石畳に足を滑らせた大河が大きく体勢を崩した。
「大河!」
 大河のすぐ後ろを歩いていた変熊 仮面(へんくま・かめん)が慌てて彼の腕をつかんだが、彼もまたヌルリとした苔に足を取られてしまう。
 スッテンコロリン。
 まさにそんな擬音がしっくりとくる体勢で床に尻餅を付いた大河と変熊は、まるで滑り台を降りるように、坂道を滑り落ちていく。
 慌ててスレヴィや呼雪が彼らの服をつかもうとするが、勢いは止まらず彼らもまた同様に苔に装飾された天然の滑り台を滑走する羽目に陥った。
「バッ、馬鹿! お前ら何やってんだ!」
 振り返ったブルーノが両手を広げ、彼らを受け止めようと踏ん張るが、如何せん滑り落ちた人数が多すぎた。
 ブルーノを下敷きにした面々は橇(そり)で雪道を滑り降りるが如く、斜面を滑り降りていく。
「すごぉい、冒険映画みたいだ!」
 無邪気なファルが歓声を上げるが、7人もの人間に下敷きにされているブルーノはたまったものではない。背中に摩擦から生まれる薄い煙を上げたブルーノが怒鳴る。
「うわっ、熱ッ! てか、お前ら重ッ!」
 彼らの滑走はいきなり終わりを告げた。
 突然、空中に放り出されたかと思うと、目の前が開ける。
 ドッという音を立てて、彼らは地面に着地した。
 もちろんブルーノを下敷きにしたままでだ。
「痛…」
「…さっさと降りやがれ」
 ブルーノの抗議を受け、一同は腰を抑えながらのろのろと立ち上がる。ブルーノの分厚い肉体がクッションになったお陰で、被害は彼が着ていた服の背中が焦げただけだ。全員ケガもない。
「ったく、俺様は乗り物じゃねぇぞ」
 悪態を付くブルーノの横で、スレヴィが素早く松明に炎を灯した。
 そこは石造りのホールを彷彿とさせる空間だった。
 壁には大理石のような滑らかな石が張り巡らされ、中央には同じく石造りの棺らしきものが3体並べられている。
「…俺を呼んだのはアンタ…か…?」
 大河は夢遊病者のような足取りで、その一つに近づくと棺に手を添える。
 瞬間、重い石造りの蓋が、ガタリと落ちた。
 その場にいたすべての者達が息を飲み見守る中、棺の中に眠っていた男がゆっくりと身体を起こす。
 白銀の髪に彩られた秀麗な顔立ち。中でも血のように紅い瞳が印象的な男だった。
 男は大河と正対すると、静かに口を開いた。
「…絶世の美女なお姫さんが起こしにくるのを期待してたっつうのに、小汚ぇガキかよ。マジ寝起き最悪…」
 貴族的でもある外見からは想像も付かないような、蓮っ葉な物言いだ。大河を見下ろすように睨み付ける様は、貧民街にたむろする小悪党のようでもあった。
「なんだよっ。アンタが俺を呼んだんだろ!」
 大河が食ってかかったのも無理はないだろう。
「お前みたいなガキ、お呼びじゃねぇんだよ」
 男は胸元で両手を組むと、フンッとそっぽを向いた。
「なんだとっ! 勝手なこと言ってんじゃねぇよ!」
 大河は男に詰め寄ると、その襟元をガシリとつかんだ。
「お…おい、お前ら…」
 顔を合わせるなり拒絶し合う二人に、一同は呆れ返る。
「状況から推測するに梶原が、この遺跡に眠っていた剣の花嫁を起こした…と考えるべきなんだろうが…」
「契約を結ぶ…という雰囲気ではない、な」
 スレヴィと呼雪が顔を見合わせたそのとき、薄暗かったホールが突然、眩い光に満たされた。
「だったら、あたしがいただくわ」
 密かに大河たちの後を付けてきた天魔衆が一人メニエス・レイン(めにえす・れいん)と、そのパートナー吸血鬼のミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)とアリス・リリロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)が強襲をかけてきたのだ。
 大河達が光に目を眩ませた隙をつき、ロザリアスがハンドガンを連射する。
 ヒ首を構えたミストラルは一気に大河達の横を駆け抜け、男の背後に飛びつく。吸精幻夜で男の意志を奪おうとミストラルは男の首筋に牙を立てた。
「わたくし達と一緒に付いてきていただきます。よろしいですね?」
 ミストラルが男にそう問いかけたそのとき、だった。
「させるかっ!」
 イエニチェリもどきのマントを身につけた変熊が、ミストラスに飛びかかる。変熊はルドルフを真似た仮面を付けていたため、メニエスの光を遮ることができたのだ。
「男に飢えた女共よ、俺様の麗しき肉体に酔いしれるがいい!」
 ミストラルを押しのけた変熊はまとっていたマントを高らかに翻す。
 変熊の鍛え上げられた肉体のすべてが、襲撃者達の目の前で露わになった。呼雪達の忠告に従い、一度は服を着た変熊だったが、やはり嫌でたまらなかったのだろう。マントと仮面以外、こっそりと脱ぎ捨ててしまっていたのだ。
 呆気にとられたミストラルは、手にしたヒ首をポトリと落とした。
「ハァ〜ハッハッハッ! 薔裸族の力、思い知ったかね?」
「お姫さん達の前に、汚ぇもん晒してんじゃねぇよ!」
 高らかに笑う変熊に回し蹴りを喰らわしてきたのは、他でもない助けられた本人だった。
「な…何をするんだ…せっかく俺が助けてやったというのに」
 顔面から床に激突した変熊は、手で鼻を押さえながら立ち上がった。
 男に抗議をする変熊の顔には明らかに不満の色が見て取れたが、男は故意に無視した。やっと視力を取り戻した様子の大河達に向き直ると、頭をかきながら面倒くさそうに問いかける。
「で、俺はどちらに味方すりゃいいわけ?」
「俺達に決まっているだろ!」
「あ、そ。じゃぁ、これを使え」
 両手を当てた瞬間、男の胸が淡い光を放ち始める。
 光の中に現れたのは、宮廷に集う着飾った貴婦人が持っていそうな羽扇だった。
 男は「ほら」と大河に羽扇を投げ渡した。
 思わず両手で受け止めた大河だったが、その顔は疑問にあふれている。
「…なんだよ、これ?」
 大河の問いかけに男は首を傾げながら答えた。
「光条兵器…のはずだ、たぶん」