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リアクション
第6章 最先と最果(いやさきといやはて)
本校の近くに敵が出現したことは、本校でも把握していた。
一番最初の発見者は、本校舎に隣接した演習場でヒポグリフの厩舎の警備にあたっていたルイス・マーティン(るいす・まーてぃん)だった。もしかすると《工場》側の厩舎のように、本校側の厩舎も襲撃されるのではないかと考えていたルイスは、黒い機影を発見して思わず身構えた。だが、機影は演習場に近付くことなく、別の方向に飛んで言ってしまったのだ。
「あれって、ひょっとして……」
ルイスは慌てて携帯を取り出し、学校に報告を入れた。
教導団本校に、突如としてサイレンの音が鳴り響いた。
「な、何だ何だ!?」
技術科研究棟の屋根に登って周囲を警戒していた守護天使エルザルド・マーマン(えるざるど・まーまん)は、慌てて周囲を見回した。危険を察知するために……と、パートナーの土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)に『禁猟区』の護符を持たされて、何かあったら携帯で連絡するようにと言い含められたのだが、
「何かあってから携帯出したんじゃ遅いでしょ?」
と屋根に上がって早々通話を始め、延々他愛もない話を続けている最中の出来事だった。
「おーいっ、何か感じた?」
携帯に向かって言うと、なぜか雲雀は慌てた様子で、
『ちょっと待てよ、今校内放送が……』
とか何とか言って、通話を切ってしまった。
「だから、何だって言うんだよー」
電話の向こうが何やら騒がしかったのが気になり、屋根から降りて、中の様子を見て来ようかと立ち上がったその時、携帯が鳴った。雲雀からだ。
「はいはいー」
『本校の近くで、《工場》からの輸送部隊が鏖殺寺院の襲撃を受けてる! 手があいている者で救援部隊を組織して、出撃するってさ!』
「うわ、やっぱり来たか。で、俺はどうすればいいのかな?」
『そのままに決まってんだろ! 本校にも来ないって保障はどこにもないぞ!』
怒鳴られた次の瞬間、通話は再び一方的に切れた。
「……まったく」
エルザルドのいる屋根の下、技術科研究棟の中にいた雲雀は、通話を切った後の携帯を睨みつけてため息をついた。
「……あ、楊教官、あまり窓に近付くのはよろしくないであります」
明花が窓の側にいるのに気付いて、声をかける。
「うむ。敵が近付いておりますからな」
撮影という名目で相変わらず明花にくっついて回っているミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)もうなずく。
「ああ、大丈夫よ、機銃掃射や手榴弾くらいじゃ破れないから、これ」
明花は鉄格子のはまった窓をコツコツと叩いてみせた。
「そうなんでありますか?」
雲雀は目を丸くした。
「さすがに、対戦車ロケット砲あたりを至近距離で発射されたら無事じゃ済まないでしょうけど、機銃掃射程度でいちいち割れてたら、月に一度はガラス交換しなくちゃいけないもの」
明花はさらりと答えたが、雲雀とミヒャエルは思わず目をむいて窓を凝視した。
(技術科、恐るべし……)
「義勇隊は、輸送部隊の救援に当たるように!」
そう指示されて、本校の塀のすぐ内側で警戒に当たっていたイルミンスール魔法学校のエリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)は表情を改めた。
「なるほど、他校生を校内に入れておくよりは外へ出すか」
「行くの? 《冠》を鏖殺寺院に渡さないために、本校の守備を選んだんでしょ?」
パートナーの剣の花嫁クローディア・アンダーソン(くろーでぃあ・あんだーそん)が尋ねる。
「輸送部隊にも『光龍』が参加していたはずだ。それに、ここで輸送部隊を救えば、教導団に対して恩を売ることも出来るからな」
「強い敵に当たれるのならば、我輩に否やはない」
もう一人のパートナー、英霊アロンソ・キハーナ(あろんそ・きはーな)がうなずく。
「わかったわ。行きましょう」
クローディアは『天使の救急箱』を手に取った。
こうして、急遽編成された救援部隊が、高速飛空艇と交戦しながら山道を登って来る輸送部隊の元へ向かった。
「うわあっ、あれが噂の高速飛空艇!?」
義勇隊に加入した蒼空学園の朝野 未沙(あさの・みさ)は、高速飛空艇を見て少々不謹慎な歓声を上げた。
「そうそう。凄いだろう?」
未沙たちを義勇隊に誘った月島 悠(つきしま・ゆう)は、内心冷や汗をかきながら、にっこり笑ってうなずいた。悠は査問委員でも「お世話役」でもないが、美沙と、パートナーの機晶姫朝野 未羅(あさの・みら)、魔女朝野 未那(あさの・みな)の興味を高速飛空艇に向けるべく、彼女たちと行動を共にしている。
(これで、朝野姉妹の興味が《工場》から逸れてくれれば……。高速飛空艇を鹵獲しろという命令は出てないんだし、いっそのこと、あれを彼女たちに渡してしまっても、矛先が逸れればそれでいい、よな?)
「でも、あれじゃ搭乗者を操縦席から殴り落とすのは無理だよね……。あたしたちが持ってる、普通の小型飛空艇のただスピードの早いやつかと思ってたけど、あれはどっちかって言うと『超小型の飛行機』じゃない」
そんなことを悠が考えているとは知らない未沙は、手にしたハルバードをじっと見て考え込んだ。おそらく、ハルバードで風防は破れないだろうし、そもそも届く場所まで敵が降りて来るとは考えにくい。
「あの、あれ、魔法は効かないですぅ?」
「雷は無効。飛行機に雷が落ちても、飛行にほとんど影響がないのと同じ理屈なんだって。他の魔法も、速度が速すぎて、かけようと思った時にはもう届かないってことがかなり起きてるみたいだ」
未那の問いに、悠は答えた。
「ええぇ、ど、どうしましょう……雷で操縦してる人を痺れさせれば、壊さないで捕まえられると思ったんですけどぉ……」
未那はおろおろと、美沙を見る。
「だいじょーぶっ! 私が頑張って捕まえるの!」
体のあちこちにオプションパーツをつけた未羅が、元気に手を挙げて、空に舞い上がる。
「未羅ちゃん! ……姉さん、未羅ちゃん大丈夫かしら……」
未那は心配そうに美沙に言った。
「う……確かに、予想とはかなり違ってたみたいだけど……。とにかく、援護しましょ」
いつでも魔法を使えるように、美沙は身構える。
そんな朝野三姉妹を、グロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)とパートナーの機晶姫レイラ・リンジー(れいら・りんじー)はじっと監視していた。
「やはり、個人的な興味や利益のために、義勇隊に加入したとしか思えませんね。……鏖殺寺院とは関係はないようですが」
グロリアは、高速飛空艇を見て歓声を上げた美沙を見て眉を寄せた。美沙としては、他の作戦で教導団と関わっており、本校が危険だとそちらにも影響が出るかも知れない、という気持ちもなくはなかったのだが、態度に出たのは「高速飛空艇欲しい!」だったようだ。
そんな風に監視されているとは知らない未羅は、未那に『パワーブレス』をかけてもらい、六連ミサイルポッドと機晶キャノンを撃ちながら、高速飛空艇に接近しようとした。
「援護射撃するねっ!」
月島 悠(つきしま・ゆう)のパートナー麻上 翼(まがみ・つばさ)も、小型ガトリング砲型光条兵器を空に向ける。美沙も、せめて目くらましになればと光術を放った。だが、
「あーん、敵が早すぎるの!」
攻撃を避けてひらひらと飛び回る高速飛空艇と、つけられるだけ装備をつけた未羅との速度や旋回性能の差は大きかった。のたのたと高速飛空艇を追いかけているうちに、滞空時間が切れてしまう。しかも、一人だけ飛んでいるので、敵の格好の標的になってしまった。こうなると、高速飛空艇を追いかけて捕まえるどころではない。逃げるのは未羅の方だ。
「未羅ちゃん、頑張って!」
美沙は未羅を励ましながら、必死で氷術や光術を使って支援する。
「……今のうち、か」
高速飛空艇の注意が未羅に向いたと見て、エリオットは輸送部隊の生徒たちに向かって叫んだ。
「彼女たちが敵の注意を引いているうちに、早く校内へ!」
「しんがりは、我輩が引き受けよう!」
アロンソが盾をかざして、輸送部隊の最後尾についた。機銃掃射を盾で防ぎつつ、馬車を急かす。エリオットも火術や光術で、高速飛空艇の接近を阻む。
やがて、輸送部隊は本校の迎撃部隊の射程内に入った。
「本校からの射撃が来る! あきらめて降りろ!」
美沙の援護を受けて機銃掃射をどうにかかわしつつ、まだ高速飛空艇を捕まえようとしていた未羅に、悠は叫んだ。
「悔しいけど、しょうがないの……」
未羅はしぶしぶ、地上に降りる。それと同時に、本校からの援護射撃が始まった。高速飛空艇は高度を取り、輸送部隊から離れる。その隙に、輸送部隊は本校の正門前までたどりついた。
「早くっ!」
レイラは輸送部隊を本校の中に招き入れると、分厚く高い塀についている扉を締めた。だが、高速飛空艇は、そのまま本校の上空へ突入して来た。
「ああもう、けが人の手当てをしてる暇もないじゃない!」
クローディアが文句を言いながら、怪我をした生徒を手近な建物の中に誘導する。
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