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リアクション
第4章 黒き旋風
幸い、襲撃がないまま、『光龍』の製造に見通しがついた明花が、巨大人型機械を分解するために技術科の生徒たちを引き連れて《工場》にやって来る日を迎えることができた。
人型兵器の周囲に足場を組み、詳細に記録を取りながら解体していくため、解体には数日をかけることになる。
「うう……もったいないです……。教官、本当に分解してしまうんですか?」
目をうるませて巨大人型機械を見上げていた夏野 夢見(なつの・ゆめみ)は、解体作業の準備を指揮している明花を振り返った。
「このままじゃ運べないんですもの、仕方がないでしょう」
未練たらたらの夢見とは対照的に、明花はさばさばしたものだ。
「このままここに置いておいても起動させることは出来ないし、何の役にも立たないわ。それより、解体してでも本校へ運んで、調査分析した方がよほど有益よ」
「あのっ、じゃあ、いつか、これと同じようなものを作ることが出来るようになりますか?」
夢見は胸の前で両手を握り合わせ、すがるように明花を見た。
「さあ、それは今の段階では何とも言えないわね。解体してみたら、我々の技術では再現できないものだった、という可能性もあるもの。それに、人型のこういう機械を作る必要性も検討しなくてはいけないし」
「う……」
夢見は不満そうに押し黙ったが、
「最期に、あれに触ってもいいですか?」
と、ぽつりと言った。
「いいわよ。ただ、もう足場をかけ始めているから、邪魔にならないように、怪我をしないようにね」
明花はうなずいた。夢見は人型機械に駆け寄ると、黒い金属で出来たボディにそっと手を伸ばした。
「……止めることが出来なくて、ごめんね」
囁いて、ボディに触れていた手をぎゅっと握り締める。
「ありがとうございました。不審者が近付くことがないよう、警備に立ちます!」
明花に向かって頭を下げながら叫ぶと、夢見は駆け出した。
それから一週間後。解体作業は無事に終わり、輸送部隊が本校に向けて出発する日が来た。
出発に先立ち、《工場》に残る林を交えて、輸送部隊の警備に関する打ち合わせが行われた。ちなみに、明花は今度は本校側で受け入れ作業があるため、輸送部隊より先に本校に戻っている。
「一目見て義勇隊だと判る者がついている輸送車両は、重要なものが乗っていないと敵が判断するかも知れない。だから、全員が同じ、教導団の服装をした方がいいんじゃないですか? 他校生かどうかは、腕章をつければ判りますし」
薔薇の学舎のクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)はそう提案したが、これには比島 真紀(ひしま・まき)が異を唱えた。
「相変わらず、他校生の中には要注意とされる生徒が居ます。腕章だと簡単に外すことが出来ますし……。他校生を一まとめにせず、パートナー同士も距離を置いて配置するくらいでも良いのではないでしょうか」
「そうだな……」
林はしばらく考え込んでいたが、
「義勇隊のうち、虎部隊の生徒は集団にして、偵察として輸送車両より先行させる。龍部隊の生徒に関しては、教導団の生徒と混成部隊とし、輸送車両に付かせよう。ぶっちゃけた話、義勇隊全員に着せる制服が揃いそうにない。本校から取り寄せている時間はもうないしな」
全部均一に混ぜてしまえば、別にどこが狙い目ということはなくなるだろう、と、クライスと真紀を見た。
「まあ、それはそうですね……」
「《工場》から発見されたものに執心している他校生が本校に押しかけたという噂を聞いて、義勇隊に紛れて運搬中に奪取を試みるのではないかと心配していたのですが……偵察として先行させるなら、危険は減りますね」
クライスと真紀はうなずいた。
「ところで林教官、ヒポグリフ部隊の方はどうなっているんですか? 敵が航空戦力を出してきた以上、上空からの哨戒も必要になると思いますが」
真紀のパートナー、ドラゴニュートのサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が林に尋ねた。
「そろそろ乗って飛べそうだ、という連絡は来ているが、運用はまだだな」
林は眉間に皺を寄せる。
「セスナやオートジャイロを出してもらうよう要請は出来ませんか」
サイモンは言った。だが、林はかぶりを振った。
「別の方面で使っていて、機体に空きがないらしい。警戒だけなら、空を飛べる者もいるし、『超感覚』や『殺気看破』を使って察知することも可能だから、それで代用するしかあるまい」
「そうですか……」
真紀とサイモンは、少し不安そうに顔を見合わせた。
輸送の警備には、『光龍』に乗った林田 樹(はやしだ・いつき)とパートナーの機晶姫ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)、英霊緒方 章(おがた・あきら)も参加していた。
「ウサギ娘はヘンな音が聞こえると言ってたそうですが、何にも聞こえませんよぅ?」
ジーナが首を傾げているのは、ネージュの『耳鳴り』の話を聞いたからだ。ジーナは同じ機晶姫である自分にもその耳鳴りが聞こえるのではないかと思っていたのだが、待てど暮らせどそれらしきものは聞こえない。
「……衛生科のウサギ耳の機晶姫はどこに居るか知らないですかぁ? ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
これは本人に話を聞こうと、ネージュと同じ衛生科の朝霧 垂(あさぎり・しづり)に尋ねてみたが、
「ネージュのことか? なんか調子が悪いとか言って、本校に戻ってるぞ」
と言われてしまった。
「うーん……。機晶姫関係の遺跡だから、何か機晶姫にしか聞こえない毒電波でも垂れ流しているのかと思ったのですが、違ったですか……?」
ジーナは呟きながら首をひねる。
「ジーナ、何やってるんだ? そろそろ出発するぞ」
そこへ、ジーナを探して樹がやって来た。
「樹ちゃんに迷惑かけるんじゃないよ、からくり娘」
樹と一緒に来た章がジーナを睨む。
「林田様をお膝に抱っこできる!役得!とかヨコシマなことを考えてたあんころ餅に、そんなことは言われたくないですぅ!」
ジーナは腰に手をやり、ぷうと頬をふくらませて章をにらみ返した。ぐ、と章が言葉につまる。
「……何があったんだ?」
「いや、試作機のテストの時に、ちっちゃいのを膝に抱いて乗ってたろう? あれを見て洪庵が、どちらかがどちらかを膝の上に抱かないといけないものだと勘違いしたらしくて」
こそこそと尋ねる垂に、樹は苦笑して答えた。実際にはちゃんと並んで座れるように作られているわけで、ぬか喜びになってしまったのだが、ジーナとしては、章がそんなことを考えただけで許しがたかったらしい。
「あれは、ライゼが膝に乗るのがいいと言ったからだったんだけどな。どこかがくっついてればいいって話だったから、本当にどこでもいいのか試したかったし」
理由を聞いて、垂も苦笑する。
「私も、どのペアもパートナーを膝の上に乗せるだなんて、何かの間違いだろうとは思ったんだが……」
樹はやれやれとため息をついて、ジーナと章の間に割って入った。
「ほら、もう出発だから!」
「……樹も大変だなあ……」
垂は呟くと、自分が乗る『光龍』試作機改め壱号機の方へ向かった。ほどなく、輸送車両や馬車の列が《工場》の中から現れる。護衛の生徒たちがその左右に並び、輸送隊は本校に向けて出発した。
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