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嘆きの邂逅~離宮編~(第1回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第1回/全6回)

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「続いて……キマクに設立した分校の所属者だ」
 優子が手を向けると波羅蜜多実業高等学校生であるヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)が先に立ち上がった。
「ヴェルチェ・クライウォルフよ。遺跡や古宮殿なんかの調査といったら、あたしみたいなローグの出番でしょ♪ 百合園には色々と世話になっている部分が多いので、協力は惜しまないわ。お宝は……神楽崎ちゃんがダメっていうなら、諦めようかな」
 明るく言いながら、優子に目を向けると優子も軽く笑みを浮かべた。
「宝はヴァイシャリー家のものだよ。解決後に一部を報酬として受け取ることが出来るかもしれないが、勝手にに持って帰るのはやめてくれ」
「分かったわ♪」
 にこっと微笑んでからヴェルチェは提案、主張を始める。
「古王国に関して直接的な専門知識はないけれど、調査の手助けならできる筈だわ。先遣隊の最優先事項は、全員生きて帰る事、よね」
 優子が無言で頷く。
「あたしに出来ることといったら、転送先の塔周辺に自衛の為の罠の設置や、トレジャーセンスで重要な物を感じ取ったり……。古王国の騎士さんも知らない隠し部屋なんかもあるかもね! イザとなったら、戦闘要員にもなれるわ」
「ないとは言いませんが、主目的をお忘れなく」
 ソフィアの言葉に、ヴェルチェは「わかってるわ」と笑顔で答える。
「注目している場所は、使用人居住区。ここには鏖殺寺院の手がかりがあるかもしれないわね。西以外の東、南、北の塔に関しては先ほども話題に出ていたけれど、西のように安全に転送可能なのしら?」
「封印が解ければ可能になります。転送先の状況は西の塔を含め分かりませんが、元々砦などの役割を持たない周辺の監視や照明のために建てられた監視台のような塔であり、封印後は敷地の外れにあることから特に利用価値はない場所となっていると思われます。稼動可能な人工生命体などが存在していたとしても、塔は占拠されてはいないでしょう」
 ソフィアの返答にヴェルチェは軽く眉を寄せる。
「うーん。他にも気になることが沢山あるけど、メンバーが決まってからの方がいいかしら?」
 ヴェルチェの言葉に優子が頷く。
「それじゃ、あたしはこれでおしまい」
 そう言って、ヴェルチェは椅子に腰掛けた。
「国頭武尊だ」
 続いて立ち上がったのは、パラ実の国頭 武尊(くにがみ・たける)であった。
「オレは偵察系に特化した身体能力、技能を有している。何より、本来調査に加われる筈のないパラ実生である自分がこうして会議に出席出来ている事を人員選抜の考慮に入れて欲しい」
 優子だけではなくラズィーヤ、生徒会役員を見回して武尊はそう言った後、ちらりと教導団員の方に目を向ける。
「荒事は教導やパラ実などが得意とする分野。白百合団や百合園の一般生徒はある程度の安全が確保されてから本格的に調査を行うべきだろう。だが、教導とは寝所で対立しており、個人は兎も角、組織としては信用できないのも事実。また、教導に限らず、各学校長からの推薦を受けて参加している者は、所謂「ひも付き」先遣隊として向わせるのであれば、どのような意図で先遣隊入りを志願するのか、その辺りを各自に確認すべきではないか?」
「意図の方は全員に確認を取るつもりではあるが、何とでも言えるからな。むしろ国頭自身はどうなのか、私には良く分からないのだが?」
 優子が軽く苦笑する。
「オレの意図は『分校生として神楽崎の為に働きたい」の一言に尽きる」
「パラ実生らしいパラ実生のキミは分校で分校生をまとめるために動いてくれても、とても助かるのだが」
「いや、オレはこっちに立候補する必要がある。先に話したように、技術的に向いているということと、選考に時間がかかったり、適した人物がいなかった場合、神楽崎本人が志願する可能性がある。神楽崎に何か有れば百合園にとっての大きな痛手であり、オレが分校生で居る理由も、百合園に肩入れする理由もなくなる。それはとても不幸な事だし、何としても避けねばならない。少しでも神楽崎の負担を少なくする為に、オレはこの場に居る。少なくとも、オレはそう思っている」
 ペンを止めて、優子は少しの間考え込む。
「……ありがたい話だが、その辺りが良く分からない。強さでいうのなら、キミ達パラ実生はドージェを崇めているんだろうし、自分が弱いとは思っていないが私は特殊能力も持ってはおらず、神がかり的な強さは有してはいない」
 優子がそう言うと、ラズィーヤは僅かな微笑みを浮かべながら。優子のパートナーのアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)は瞳を揺るがせて、視線を下に向けた。
「分校設立の時も、盗賊退治の時にも手段は兎も角として協力してくれたことに感謝してるんだが、キミの……キミ達生粋のパラ実生の内心がどうも理解できないところがある。……とまあ、この話は議題から逸れるんで、近いうちに個人的に話を聞かせてもらえると助かる」
「……わかった」
 と言って、武尊は席に腰掛けて腕を組む。
 優子のために働きたい、その気持ちは真実なのだが。
 分校が気に入ったから、神楽崎優子が気になりだしたわけではなく。
 嫉妬や追いつきたいというライバル心があったわけだが。
 この感情をどう説明すれば伝わるのか、武尊自身も良く分からなかった。
「私は国頭武尊さんを推しますわ」
 エレンがにっこり微笑んだ。
「そうか……」
 優子は少し訝しげな表情であった。
「次はイルミンスールだな」
「はい」
 返事をして立ち上がったのは、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)とパートナーのクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)だ。
「本郷涼介です。志願理由は先遣調査部隊の従軍医師としてです。なぜなら、今回赴くのが未開、未踏の遺跡。何が起こるかわからず、送り込める人間も限りがある。しかも一度転送した後に長期戦になる可能性もあるとか。その状態で部隊のメンバーに万が一のことがあった場合、現場で応急処置が出来る者がいた方がメンバーの生存率が上がるのではないでしょうか。私は医学の心得があり、回復系の魔法、技術も一通り扱えます」
「確かに隊1人は医療に優れた者がいてほしいが……」
「選考に漏れても、適材適所で役目を与えられたらその役目を全うします。任務の失敗は百合園だけではなく、イルミンスール魔法学校にも泥を塗るということを心得ており、慎重に行う所存です。どの場であっても、医療班として協力することになると思います」
 涼介の言葉に優子は頷いてメモをとっていく。
「クレア・ワイズマンです。私は戦う力もあまりなくて、出来ることといったら、ほんの少しの応急処置と人を守る術のスキルだけだけど……。でも、何があるか判らないところに赴くのだから、少しでも守りが出来る者がいるといいかと思い志願しました」
「クレア・ワイズマンは、塔での陣作りへの協力と考えていいか?」
「はいっ。少しでも皆さんのお役に立てるといいなと思います」
「うん。ありがとう」
 礼を言い、優子は軽く笑みを見せた。
 2人は顔を合わせて微笑みあい、着席する。
「カレン・クレスティアです!」
 続いて、はやる好奇心を抑えてカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が立ち上がる。
 少し声が大きくなってしまったので、分からない程度に軽く深呼吸をしてからカレンは語り始める。
「ここはヴァイシャリーであり、百合園に依頼された件だから、有形無形に限らず調査で得た物は全て提出、報告することをまず誓います。それから、あくまで先遣隊なので見るからに危険な物、素性のはっきりしない物は最低限の記録にとどめて、本隊の調査に委ねます」
 優子の頷きを確認して、カレンは言葉を続ける。
「魔法学校生として異常な魔力や魔法的な罠の感知、魔術で封印が施された場所の調査に役立ちたいと考えてます。魔術師の技能としてディテクトエビルがあるので、害意もある程度検知出来ます。先に話したように、こちらから先制して攻撃するような事はしませんが、何者かに襲撃される事も予想されるので隊を守るための攻撃魔法は一揃え用意します」
「そうだな。魔法面では本当にイルミンスール生を頼りにしてる」
「はい。そして一番大事な事ですが、白百合団の人達は勿論、各学校の推薦状を持って集ったみんなの事は、同じ目的を持つ「仲間」として信頼します」
 ぐるりと会場の皆を見回して、カレンは笑みを浮かべる。
「こちらに疑念があっては、自分も信用されないからね」
「しばらくの間、寝食も共にする仲間達だ。信頼し合って欲しい」
 優子も微笑んでそう言い、カレンは深く頷いて席に着いた。