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ホワイトバレンタイン

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君に逢いたい

「ついに……ついに、こんな日が来るとは!」
 エル・ウィンド(える・うぃんど)感無量とでもいわんばかりに、青の瞳を輝かせた。
 ホイップちゃんに会ったのが去年の夏。
 それからホイップちゃんに声をかけ続け、デートに誘い続け……やっとこの日が来た!
「夢じゃないよな、夢じゃ……」
「う、うん。夢じゃないよ?」
 ホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)が横から覗き、そう答える。
 ホイップもちょっと緊張気味だった。
 それに気づき、エルは明るい笑顔をホイップに向けた。
「それじゃ空京のデパートに行こうか、ホイップちゃん! あそこにはブティックがいっぱい入ってるから」
 おしゃれが好きなホイップのため、エルはお買い物デートを企画していた。
「うん!」
 エルの明るい雰囲気に少し緊張を解き、ホイップは歩き出そうとした。
 ところが、エルはピタッと止まり、辺りを窺った。
「エ、エルさん?」
 何かを警戒するようなエルにホイップは一瞬戸惑ったが、エルはすぐに普通に戻り、にかっと笑顔を見せた。
「いや、大丈夫。異常なし。さあ、行こう!」
 友人知人の多いエルとホイップは常に注目の的で、デバガメの数もどんどん増えていっていた。
 なので、今日もデバガメがいるのでは……とエルは警戒したのだが、今日はバレンタインのためか、蒼空の眼鏡のおかげか、2人に付いて来ている人はいないようだった。
 エルは安心して、ホイップとのデートを楽しむことにした。

「キンピカの服を着るホイップちゃん。んー……悪くはないが」
 考え込むエルのそばで、ホイップはきょろきょろといろんな服を見ていた。
 かさんでいく借金を抱えたホイップだが、それでもやっぱりおしゃれはしたいし、服を見るのは楽しい。
 特に今のシーズンは春物が出たところで、色とりどりの華やかな服は、年頃の女の子ならば誰もが見るだけでも楽しいものだった。
「ホイップちゃん、ホイップちゃん」
「はい?」
「これ、ホイップちゃんに似合うんじゃないかな」
 エルが取り出したのは金色ではなく、オフホワイトに近い黄色みがかったシフォンワンピースだった。
 さすがに自分とホイップのセンスが違うのは、エルもわきまえている。
「ホイップちゃん、瞳も髪も緑だからより春らしくなるかなって」
「あ、ええと……」
「せっかくだから着るだけ着てみようよ、ね!」
 戸惑うホイップの背を押し、エルが店員さんを呼ぶ。
 そんな感じで服を見たり、着てみたりをして、2人は夕方まで仲良く楽しんだ。
 
 デパートから出ると、エルはそわそわし始めた。
(ホイップちゃん、チョコレート持っていたりするのかな……)
 実は会った時から……いや、誘いをOKしてくれたときから、エルはそわそわと期待していたのだ。
 もちろん、物が欲しいわけではない。
 ホイップの笑顔を見ることが出来たら、エルはそれだけで幸せなのだ。
(彼女の笑顔を見るために、笑顔を護るためなら、ボクに出来ることであれば何だってしてあげたいな)
 エルはそう思っていたのだ。
「どうかしましたか、エルさん?」
 ホイップの問いにエルは頭の後ろに手を当てて笑った。
「ああ、ううん。今日はホイップちゃんの笑顔がいっぱい見られて良かったなーって」
「え、笑顔って、それだけで?」
「うん、だって幸せそうなホイップちゃんの笑顔が、今日はボクだけのものだったんだもん。これ以上にうれしいことはないよ!」
 エルの言葉にホイップはちょっと視線を背ける。
 ホイップの頬が少し赤いようにも見えたが、それは夕日のせいなのか、ホイップが照れているからなのか、エルからは分からなかった。
「あ、そ……その……エルさん、これ」
 しばしの沈黙が流れた後、ホイップはエルにチョコを差し出した。
「ボクに!?」
 チョコレートがもらえたらいいなあと思っていたエルだが、実際に目の前に差し出されると、感動を覚えた。
「あ、開けていい?」
「う、うん」
 エルはドキドキしながら、箱を開けた。
 箱の中には、シナモンパウダーとココアパウダーのかかった生チョコが入っていた。
 そして、生チョコと包装を見て、エルはあることに気づいた。
「これ、もしかして、手作り……?」
「そ、そうだよ」
 ちょっと頬を染めてホイップが頷く。
 その言葉を聞いて、エルの感動が増した。
「ありがとう、ありがとう、ホイップちゃん!」
 義理か本命かは分からないけれど、でも、ホイップから手作りチョコがもらえたことが、エルには何よりもうれしかったのだった。