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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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「なーんだ。カヤノしかいねーのかぁ……」
 ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)カヤノレライアがいつもいる場所を訪ね、カヤノしかいないのを見て、そうぼやいた。
「レライアたんがいねーんなら仕方ないな、お前にやるよ」
 ウィルネストは持っていた箱をポイッと投げつけ、それが軽くカヤノの頭に当たった。
「いたっ」
「そんな声を上げるほど、痛くはねーだろうが」
「投げておいてその言葉!?」
 カヤノは文句を言いながら、投げられた箱を見た。
 ピンクのストライプの包装紙にこげ茶のリボン。
「あ、このハートのチャーム可愛い」
 リボンについたチャームに気づき、カヤノはそれを見て、手を止めた。
 チャームにはマジックで大きく「ぎり」と書かれていたからだ。
「……誤解すんなよ? それ、ギリだからな?」
「言われなくてもしっかり書いてある」
 カヤノが「ぎり」の字を見せ付けると、ウィルネストはからからと笑った。
「パラミタじゃ日本式のバレンタインが流行ってるみたいだけど、他の国じゃ性別に関係なく色々交換するからな、やるよ」
「もらっても、交換にあげるものないよ」
「そんなものあるとも思ってもないし、ホワイトデーなんかも期待してねーよ!」
「期待してないなら言わなきゃいいのに」
「……レライアたんはあんなに可愛いのにどーしてそうお前はかわいくねーかなぁ……」
 はぁ、っと溜息をつかれ、カヤノはうっと詰まった。
 ウィルネストのこれが義理なのはカヤノも良く分かっている。
 今、ウィルネストはざんすかに片思い中だからだ。
 しかし、もらった以上、お礼をと思い、カヤノは口を開いた。
「ありがと」
「ふむ、素直でよろしい」
 カヤノの額をウィルネストがつんとこづく。

 2人の関係はいつもこんな感じだった。
 会えば何かと言い争いになる割りに、やるときは一緒にやる。
「だから待てっての、ホントお前はバカだな」
「何よ、バカって言う方がバカなのよ!」
「まあ見てなって、ここは俺がビシっと解決してやんよ」
 そうウィルネストが言っておいてしばらくして……。
「おいカヤノ、一緒にあいつらノしてやろうぜ!」
「あんたねえ……ま、いいけど!」
 と文句を言いたげな顔をしながら、カヤノがウィルネストに協力して戦うと言う、いわば腐れ縁とでも言うような関係なのだ。

 カヤノのお礼を聞き、ウィルネストはうーんと背伸びした。
「あー、なんか甘いモンでも食いたいなぁ。……ちょっとつきあわねぇ?」
「おごってくれる?」
「デザートひとつくらいだったら奢ってやるよ、俺が誘ったんだし。あ、2個はダメ。俺が許しても俺の財布が許さんから、ダメ」
「今度から何かあったら、ウィルじゃなくて、ウィルのお財布と相談しよう」
「……俺の人権は?」
 ウィルネストのツッコミを無視して、カヤノが歩き出す。
「どこに行くの、それで」
「イルミンのカフェ『宿り木に果実』だよ」
「何食べるの?」
「俺はチョコパフェかな。……って、あ、これって自分で自分にチョコ買ったって事になるのか? バレンタインなのにむなしいな」
「それじゃ、こっちもチョコパフェ頼むよ。それで交換しよう」
「……それってチョコ交換したことになるのか」
 2人はそんな風にあれこれ言い合いながら、『宿り木に果実』に向かったのだった。