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ホワイトバレンタイン

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「どうなったかなあ、眼鏡の人」
 コーヒーを注文し、オープンカフェの片隅で清泉 北都(いずみ・ほくと)はメイド服のまま、山葉に思いを馳せた。
 北都は女装をして眼鏡をかけて、名を名乗らずに、山葉にチョコをあげてみたのだ。
「さて、どうかな。後は彼にガッツリ関わってる人に任せるとすればいいだろう」
 同じくコーヒーを頼んだソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)が適当に返事をする。
 白銀 昶(しろがね・あきら)も北都が他の人にチョコをあげるという事態がうれしくないらしく、山葉のことは話題に乗せなかった。
「ま、いいかな。あ、そうだ、これを2人に」
 北都はソーマに『コウモリ型のチョコ』を、昶に『骨の形をしたクッキー』をプレゼントした。
「昶はあえてチョコじゃないものにしてみたよ」
「ありがとだー」
 無邪気な笑顔で昶が受け取り、耳と尻尾をパタパタ振って、にっこり笑顔を見せる。
「絶対『ほわいとでー』にお礼するからな」
「くすっ、お返しに期待してるよ」
 昶の甘えるような言い方がうれしいのか、動物に対して極端に警戒心が落ちる性格のせいか、北都が笑みを浮かべる。
「うん! ホワイトデーは倍返しが基本言うものねー」
 ニコッと笑った後、昶はうっすらとした笑みを見せた。
(倍返しか……ならたっぷりと悦ばせてやるぜ)
 ホワイトデーだし、北都を白く染めてみるのも悪くない……と心の中で算段しつつ、昶はソーマを見た。
(ああ、ソーマが邪魔だな、ちくしょう。せっかくのデートなのに)
 そんな昶を見て、時々、昶の雰囲気が変わることに首を傾げた北都だったが、その疑問を口にする前に、ソーマが声をかけてきた。
「まさかお前から貰えるとは思ってなかったぜ」
 その場で包みを開けて、ソーマがチョコを口に運ぶ。
 ソーマの好みに合わせて、ビターになっているのがうれしく、運ばれてきたコーヒーとも合っていたが……そのチョコと同じようなほろ苦さをソーマは感じていた。
(最近ずっと、北都はクナイのほうばかり見ているな……)
 そんなソーマの心をまったく気づかず、メイド服の北都がのんびりとコーヒーを飲んでいる。
 パートナーとして過ごした時間の差を埋められないのは分かっていても、ちょっとイラッとして、ソーマは意地悪と言ってみた。
「折角だから口移しで貰いたかったな」
「却下!」
 という声が即座に飛んでくるかと、ソーマは思って言った。
 しかし、北都はちょっと戸惑った表情を見せ、一度黙った。
 ずっと比較亜されて育ってきた北都は『パートナーは平等』に、という思いがあった。
 でも、恋愛はそれじゃいけないみたいだと最近気づいたのだ。
(迷う分だけ少しは期待していいのか?)
 ソーマはそんなことを思った。
 例え俺以外の誰かを選んでも、大切で守りたい対象であることには変わりないけどな、とソーマは思っていて。
 昶は、オレは出来れば手に入れたいが、別に誰かのモノでも構わないぜ? と思っていた。
 そんな微妙なバランスの上に、彼らの関係は成り立っていた。