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砂上楼閣 第一部(第4回/全4回)

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砂上楼閣 第一部(第4回/全4回)
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リアクション

 雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、空港からほど近い丘の上に陣取ったタシガンの民に混じり込んでいた。
 いつ激発するか分からない人々の中にいるのは少々不安だったが、パートナーであるベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)ミア・マハ(みあ・まは)チムチム・リー(ちむちむ・りー)も一緒である。
 仲間と一緒という揺るぎない事実は、彼女たちに勇気を与えてくれる。
 彼女たちが身につけているのは、無地のトレーナーにレギンスという普段着だった。
 オシャレという観点からすれば少女たちの美意識に反するが、これならばこの地に住む人々の中にいても目立たない。
 集まった群衆の前に一人の少女が進み出る。
 「外務大臣が来たことで、パラミタ側と地球人の間で問題が生じた。彼のような地球の国家の意向を受けた『大人』は帰ってもらうべきだ」
 西園寺 沙希(さいおんじ・さき)は、言葉を続ける。
 「今こそ薔薇学の生徒たちの目を覚まさせてやらなくてはならない。
  彼等は自分たちが地球の大人の手先にされている事実に気が付いていないのだから!」
 西園寺は丘の麓にある空港を指さした。
 「行きましょう! 薔薇学の生徒たちの目を覚まし、タシガンの平和を再び手に入れるために!」

 「ちょ、なんのつもりなの!?」
 リナリエッタはそれを見て言う。
 西園寺は、百合園では制服ではなく黒い学ランを着ており、校内では目立つ存在だ。
 百合園生がタシガン住民を扇動したとあっては、「百合の名を汚してしまう」とリナリエッタは慌てる。
 「魔法で足止めをしたいところじゃが、相手は『テロ』を発生させているわけではないからのお」
 (どこの世界でも問題児はいるものじゃな……わざわざ他の地へ行ってまで問題を起こそうとするとは嘆かわしいのぉ)
 ミアはそう思う。
 「まったく、この街の吸血鬼はあんな小娘の言うことに従うとは……家畜を襲う度胸のない狼どころか、小汚い犬……じゃ犬に失礼ですよね」
 人間は勿論自分以外の吸血鬼も見下しているベファーナが、扇動されてついていくタシガンの住人を揶揄する。
 「とにかく、今は様子を見守るしかないよ」
 レキはそう言い、光学迷彩で姿を消しているチムチムのいるであろう方向に視線を送る。
 (了解アル)
 自分の存在を感付かれないため、チムチムは姿を消したままでレキにうなずく。

 こうして、タシガン住民が扇動され、空港に向かうかと思われたときであった。
 「ふむ、では、君たちは自分が『純真無垢な子ども』であると主張しているのかね」
 突然、ジェイダスが現れた。
 ルイスも共にいる。
 ルイスは、ナラカの蜘蛛糸をいつでも使えるよう準備しておく。
 西園寺は驚く。
 レキとリナリエッタは顔を見合わせたが、この機会を逃すまいと西園寺に向かって言う。
 「大体ねー、地球人がパラミタに住み着く事に反対しているなら、何故キミはここにいるの?
  契約者は別だとでも?
  契約者の数で言えば薔薇学よりも他の学校の方が人数多いし、それだけ多くの地球人を受け入れているわけでしょ。
  なのに他校生が横からギャーギャー言うのは変じゃないかな。
  まあ、ボクは子どもだし難しい事は判らないけどさ。薔薇学ばかり叩くのは納得いかないよ」
 「私はイケメンさんの味方よ。あなた、薔薇学の生徒をバカにしすぎだよ。
  あなた自身が、『大人』に踊らされてないってどうして断言できるの」
 「戯言を!」
 西園寺が吼える。
 「外務大臣が君らと懇意にするのは、パラミタへの足がかりに君らを利用するためだ!」
 「これからの会談は、意味のほとんどない会談だ!重要と思ってるから薔薇学の生徒を混ぜるのではない!
  大事に扱ってると思わせ手先にするための『大人』の策略だ!」
 「外務大臣は薔薇学の生徒に剣を振るわせ、『武力手段に出たのは薔薇学の生徒です』と罪をなすりつけようとしているのだ。踊らされるな!」
  西園寺はジェイダスに驚きつつも激しい抗議をする。
 しかし、ジェイダスは静かに「ならば君も会議に同席するといい」と告げる。
  そうこうするうちに大臣が乗った専用艇が空港に到着する。
 明智 珠輝(あけち・たまき)リア・ヴェリー(りあ・べりー)ポポガ・バビ(ぽぽが・ばび)
 酒杜 陽一(さかもり・よういち)フリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)の先導で、大臣はホテルへと移動する。
 「目的は明確です。自分の住みかを奪われないようにすること。
  ……そして、記憶を捨てようとしていた私を拾ってくださった、愛するジェイダス校長に笑みをもたらすこと……!!
  そのためならば、私の剣も振るいましょう。迷いなぞ、ありません」
 珠輝は、髪で隠していない左目で、周囲に鋭い視線を送る。
 「ポポガ。今、ここで僕らが頑張らないと僕らの日常を奪われてしまうんだ」
 「今のポポガ、騎士。だから、護る。薔薇の、学校。大好きな、皆」
 リアの言葉に、ポポガが大きくうなずく。
 「ヒトラーは、『大衆は理性でなく感性に訴えろ』と言った。
  ジェイダス校長が『いつものあの姿』で現れたことは大きな衝撃になるはずだ」
 陽一は言う。
 (しかし、一触即発の雰囲気になったら、
  彼らの前に正座し、衆人環視の中、自分の掌をナイフで刺して地面に縫い付けて見せ、
  説得するつもりだったが……そういうことにならなくてよかった)
 「ん、陽一、何を考えている?」
 「いや、なんでもない」
 「どうせ、また、貧血になりそうなことだろう」
 フリーレは言う。
 (それはそうと地球の魔女狩りの黒幕が鏖殺寺院とは。パラミタの地球浸食は想像以上だった。
  地球側の『侵略』ばかり拡大され、異世界人による侵略行為批判が殆ど聴かれぬ図式は、
  イスラエルの悪事に厳しい顔をする一方で、パレスチナの悪事に甘い顔して黙認する国際世論に通じる。
  偏った色眼鏡に捉われず、短所は批判して直し、長所は評価してより伸ばす。地球人でも、そういう考えの者は圧倒的少数だ)
 フリーレは考える。
 「終わったら、皆で、プリン」
 「ああ、そうしよう」
 ポポガにリアがうなずいたとき、珠輝が言う。
 「そう! プリンプリンのムチムチプリンです! くふふはははは!」
 「この状況でその発言かっ!」
 珠輝に蹴りを入れるリアであったが、ハイサム外務大臣は言う。
 「君たちのような勇敢な若者がいるということがとても心強いよ。ありがとう」

 タシガン住民は空港からホテルの道で暴動を起すこともなく、無事、ハイサム外務大臣の護衛は成功したのであった。