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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 第2回/全4回

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横山ミツエの演義乙(ぜっと) 第2回/全4回

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金剛の戦い4


 金剛内ロッカールームに通じる通路では、メニエス・レイン(めにえす・れいん)の配下とアルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)フィーネ・クラヴィス(ふぃーね・くらびす)の二人が睨み合いをしていた。
 配下の一人が何かのリモコンを二人の前にちらつかせ、いやらしく笑う。
「俺達を攻撃してみろよ〜。こいつでロッカールームはドカーン、だ。ヒヒヒヒッ」
 ここは一度離れて、主のイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)に連絡を取ったほうがいいか、とアルゲオが思案した時、突然足元が大きく傾いた。
 体勢を崩しながらもフィーネは火術で男の持つリモコンを破壊した。
「行くぞアルゲオ」
「はい」
 フィーネの前にアルゲオが立ち、剣を抜く。
「たった二人だ、ぶっ潰しちまえ!」
 狭い通路で二対多数の戦いが始まった。


 この時収容所では、ティア・アーミルトリングス(てぃあ・あーみるとりんぐす)がこっそり開けた牢の出入り口がはずみで開いてしまっていた。
 ロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)が、何やってんだとティアに掴みかかろうとした目の端で数人が動く。
 あっ、と思った時はカーシュ・レイノグロス(かーしゅ・れいのぐろす)エリザベート・バートリー(えりざべーと・ばーとりー)が牢を抜け出して走り去っていた。カーシュがロザリアスのいない時に鍵をあけていたのだ。
 カーシュはこれから鷹山剛次をガツンとやりに、生徒会室へ行きたいのだが通路に案内板が出ているわけもなく、イライラと舌打ちをした。
 船体が揺れたことで収容所の様子を見に、生徒会配下達が集まってきている。
 武器のない今は囲まれたら不利だった。
「やっぱり脱獄してやがったか!」
 脇の通路からナイフを振り上げたパラ実生が迫ってきた。
 身構えたカーシュの前に優雅にエリザベートが立つ。
 そして。
「この方に道案内と人質になってもらいましょう」
 ヒロイックアサルト『鉄の処女』で半分ほど銜え込んだ。
 ギャアッ、という悲鳴に心地良さそうに目を細めるエリザベート。
 カーシュは彼へ言った。
「おい、体を半分にされたくなかったら鷹山剛次のところへ案内しろ」
「ケッ……誰が……グアッ」
「あらごめんなさい。ちょっと力が入ってしまいましたわ」
 男は殺されるのは勘弁だ、と泣く泣く生徒会室へ二人を案内するのだった。
 途中、あちこちに寄り道して電気系統を壊していくのも忘れなかった。
 カーシュが脱獄したすぐ後に、麻上 翼(まがみ・つばさ)が光条兵器のガトリング砲で牢の鍵を粉々にして、月島 悠(つきしま・ゆう)張 飛(ちょう・ひ)と共に飛び出した。
 ふと悠が隣の牢にいるはずの吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)の姿を探すと、すでにからっぽだった。
「ロッカールームへ急ぐぞ」
「先頭は俺に任せろ」
 悠の言葉に前に出る張飛。
 悠と翼で張飛を援護しながら三人は騒がしくなった通路を駆け出した。
 ロザリアスがメニエスに連絡しようとケータイをポケットから取り出そうとした時、姫宮 和希(ひめみや・かずき)が体当たりするようにして彼女をティアから突き飛ばした。怪我はほとんど良くなっている。
「ティア、一緒に行こう。ここにいちゃダメだ」
 和希はティアの手を引き強く呼びかけたが、ティアは弱々しく首を横に振るだけだった。
 どうして、と和希がもどかしく思い歯噛みした時、聞き覚えのある声が二人分近づいてきた。
「和希っ、無事か!?」
 必死の表情で駆けてくるのは泉 椿(いずみ・つばき)だった。その後ろに五条 武(ごじょう・たける)もついている。レロシャンの作戦や市井の誘導が成功したのだろう。
 和希を刺したとはいえ、椿はティアには同情していた。二人の様子からティアは逃げ出すことを拒んでいるのではと感じた椿は、ティアの前に膝をついて言った。
「おまえに刺されたってのに、和希はおまえを助けたいって言うんだよ。そういう奴なんだよ……だから、一緒に来てもらうぜ。あたしが守ってやる!」
「そいつは行かないよ。おねーちゃんに逆らえばどうなるか、よーくわかってるからね!」
「ティアが死んだらメニエスだってタダじゃすまねぇだろ。だいたい、パートナーって尊重しあうもんじゃねぇのかよ?」
 椿がロザリアスを睨むが、彼女はせせら笑った。
「ちゃんとやってるよ。おねーちゃんはティアを目覚めさせた恩人、ティアはそれに感謝して協力。ちっともおかしくないし、ティアを死なせたりなんかしないよ」
「じゃあ何でこんなに怪我して弱ってんだよっ。ティア、やっぱりあたし達と行ったほうがいい」
 椿がティアを見れば、うつむいたまま彼女は首を横に振った。
 椿も和希も武も、どうしてなのかわからなかった。
 ロザリアスが見せびらかすようにケータイを取り出して笑う。
「おねーちゃんに教えて、人質の首を刎ねてもらおうっと!」
「そうはさせるか!」
 武がロザリアスの手からケータイを弾き飛ばす。
 慌てて拾おうとした手元に新手の銃弾が撃ち込まれて、ロザリアスはギョッとして手を引いた。
 撃ったのはカカオ・カフェイン(かかお・かふぇいん)だった。
「誰だ!」
 殺気立った目で弾丸の飛んできたあたりを窺うが、そこには誰もいない。
 光学迷彩を疑い、ロザリアスは注意深く視線を動かした。
 ふと感じた鋭い気配に、体が反射的に動いて短刀で攻撃を防ぐ。
 何度か繰り返し、気づいたことがあった。
「狙ってるのはティアか?」
 近くにいたため自分に向けられているものと思っていたのだ。
 その呟きを聞いた和希は、
「やめろ、ティアを傷つけるな!」
 と、かばうように抱き寄せた。
 攻撃がピタリとやんだかと思うと、空中にするりと姿を見せた攻撃の主。
 何で止めるのかと言いたげなミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)だった。連絡が来なかったので、光学迷彩や超感覚、殺気看破などを駆使して危険を承知で侵入してきたのだ。
 大切な友達の登場に和希は目を丸くする。ペアのチョーカーは今も大切に身につけていて、怪我の痛みもこれを支えに乗り越えたのだ。
 その事情を知らなかったとはいえ、これから助けようというティアに攻撃をしたのは少しショックだった。
 だが、詳しく話している暇はない。
「ミュウ、こいつも連れて行きたいんだ。いい奴なんだ」
「……わかった」
 何も言わずにミューレリアは頷いた。
 けれど、和希の体はティアにそっと離された。
「……行けません……ごめんなさい」
 その時、奥から生徒会側のパラ実生が駆けつけてくる気配を感じた。
 椿は仕方なく煙幕ファンデーションで視界を撒き、和希を支えて逃げることにした。
 武が二人を守るように前を走りながら、退路確保のためにイビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)へ連絡を取った。
 ミューレリアは後ろを守り、カカオは時間を稼ごうと情報撹乱を試みたのだった。