First Previous |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
19 |
Next Last
リアクション
金剛の戦い6
ミツエとドージェの関係に関する噂は乙軍にも広がっていた。
これは利用しなくては、とすかさずイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)とヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)がそれぞれの場所で叫んだ。
「パラ実総長ドージェ・カイラスはミツエを支持している! これの意味するところは何か! ミツエこそが正統なるパラ実である! 生徒会はドージェに牙をむく輩である!」
イリーナのこれはかなり大げさであるが、乙軍の士気を上げるには充分だった。
また、
「こっちにゃドージェがついてんだ! それでもまだやるっていう気!?」
ハッタリで飛ばすつもりだった言葉が本当になりそうなヴェルチェも勢いづいた。
そして、これに怒り狂ったのがバズラ・キマクだった。
「あたしの聖域であるドージェ様を汚すか、ミツエ!」
バズラはドージェとニマのことは知っている。だから、それは諦めていた。それ故に、押し込めた思いが全て敵意となってミツエに向いた。
「なぶり殺しにしてやる!」
周囲の制止を振り切りバズラは飛び出した。
その頃金剛では、五条 武(ごじょう・たける)から脱出の連絡を受けたイビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)が、仲間達から預かっていた配下を集めて新たな指示を出した。
「もうじき捕虜を連れた武達と合流します。私達は退路を作るのです」
これまでさんざん内部破壊に努めていた彼らは、来た道を戻り始めた。
牢を出るなりロッカールームへ向かっていた吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)は途中でアイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)と合流を果たした。
アインは光学迷彩を使い、突入組の後にこっそりついてきていたのだ。
お金のことしか頭にないアインが、少しは腹の足しになるかとくれたミカンが印象に残った竜司。
後から月島 悠(つきしま・ゆう)達三人も追いついてきた。
五人でロッカールームへ向かえば、アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)とフィーネ・クラヴィス(ふぃーね・くらびす)が多勢に無勢ながら奮闘している。
「俺も行くぜ! 漢(おとこ)はな、体そのものが武器なんだぜ!」
いつも以上に闘争心を燃やし、アルゲオとフィーネの加勢に走る張 飛(ちょう・ひ)。
アインは姿を消すとシャープシューターで命中率を上げて、三人の援護に回った。
アルゲオの剣術が立ちふさがる生徒会側パラ実生を斬り伏せ、張飛の豪腕で数人を一度に殴り飛ばす。
フィーネの火術で服に火をつけられた敵兵に、周りの者がいっせいに叩いて消そうとする。
そうしているうちに、どこから飛んできたかわからない銃弾に足をやられる。
じわじわと前進し、あと少しとなったところで悠が光条兵器を構えた。
「全員伏せろー!」
反射的にアルゲオとフィーネ、張飛が伏せた直後、ガトリング砲の銃撃音に包まれた。
前列が盾となり運良く立っていられた最後の一人を気絶させ、張飛がロッカールームのドアを蹴り開けた。
そこには捕虜全員分の装備とケータイが保管されてあった。
アルゲオがロッカールームを制圧したことをイーオンに知らせた。
装備を取り戻した竜司と悠達はすぐに金剛から出ることにした。
倒れている警備兵達を飛び越えるようにして通路を抜けると、
「竜司先輩!」
と、呼び止める声がした。
突入後、配下を派手に暴れさせて自身は隠れ身を駆使してロッカールームを目指していた百々目鬼 迅(どどめき・じん)だった。竜司がここにいることは、彼らが自分の装備を取り戻している間にアインがメールで知らせていたのだ。
「俺が退路を確保するっす! 先輩は先に行ってくれ!」
「言うようになったじゃねぇか」
ニヤリとする竜司。
しかし彼は舎弟を置いて自分だけ逃げるような男ではなかった。
竜司は何度か深呼吸をして咳払いをすると、唐突に歌い始めた。
それはどこかヴォルフガング・モーツァルト(う゛ぉるふがんぐ・もーつぁると)の大演奏会に似ている……。
「先輩、それからあんた達! しっかりついてこいよ!」
今なら百人でも相手にできるような高揚感に包まれ、迅は竜司達を連れて走り出した。
ところで、優斗に通路を火で塞がれたために収容所に取り残された者達だが。
優斗が去ってしばらくすると、彼が残していった配下がいっせいに消火を始めた。
そのうち一人が説明をする。
「もうすぐ乙軍が突入してくるから、合流して逃げるように言われてたんだよ」
より安全に逃げられるように、との配慮だったようだ。
ただ、優斗自身がそれを説明している時間がなかっただけで。
確かに、通路の向こうが騒がしいし小さく爆発音も聞こえてくる。
しかしそれは予想外の人物に邪魔されることになった。
「ここにいたか貴様ら……」
ミツエに味方するという条件で開放されたはずの残虐憲兵青木だった。
どうやら最初からそんな気はなく、ルカルカ達を狙っていたようだ。
どう見ても狂気に染まった青木の目は、ルカルカを倒しただけで静まるとは思えない。
「みんなは先に行って! ダリルと夏侯淵は護衛について」
ダリルと夏侯淵は戸惑ったが、ルカルカがもう一度「早く行って」と言うと、心配そうにしながらも仲間達を連れてロッカールームへ向かうことにした。
青木の脇を通り抜ける時、笑いながら彼は言った。
「武器を取り戻したとしても外に出られるかねぇ。今頃、メロンかんなちゃんが出入り口を全部封鎖してるぜェ。ヒャハハハハ!」
振り向きそうになるのをこらえ、夏侯淵はダリル達の背を押した。
向き合ったルカルカに青木は挑発的な言葉を投げる。
「前は四人がかり、今度は二人がかり……クッ」
挑発とわかっていても負けず嫌いのルカルカはそれに乗ってしまった。
残ったカルキノスが開きかけた口を手で制する。
「ルカルカだけでやる」
青木は血走った目をギラつかせ試作型星槍を構えた。
ドラゴンアーツを乗せて繰り出したルカルカの拳を槍の柄でいなし、流れのままに刃で腕を切り落とそうとする。
ルカルカは身を捩って刃先をかわすと、一回転して間を取った。
カルキノスはその攻防を厳しい表情で見つめる。
あまり時間をかけては、自分達が脱出の機会を失ってしまうだろう。
いざとなれば、ルカルカが何と言おうとも加勢するつもりでいた。
船体が揺れた時、ギルガメシュ・ウルク(ぎるがめしゅ・うるく)はとっさにミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)の手を払いのけて自由を取り戻し、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)はテーブルをひっくり返してメニエス・レイン(めにえす・れいん)から逃れた。
そして部屋を飛び出した二人は、金剛から脱出するための出入り口を探すのだが、広い船内を闇雲に走ってもかえって迷うだけだった。
いったいどっちへ向かったらいいのかと焦り始めた時、ギルガメシュは懐かしい金色を目にした。
そして、その色の持ち主の頬にパッと赤みがさしたのを見た瞬間、ギルガメシュはどれだけ心配をかけていたかを思い知った。
ダリルと夏侯淵を先頭にロッカールームを目指す。
ラルクとギルガメシュがいたところから、それほど離れてはいなかった。
「出入り口はメロンかんなちゃんが封鎖したらしい」
ダリルからの情報にエル・ウィンド(える・うぃんど)が、
「ボクが相手しよう。出入り口を全て開けさせてやる」
と、強く言った。
汚名返上というわけだ。
ダリルと夏侯淵でロッカールームを見張っている間に手早く自分達の装備を見つけて整えると、出入り口のある下へ降りた。
そこではすでに戦闘が始まっていた。
外から再度開けられないようにするためと、脱獄囚と侵入者を外へ出さないようにするためだ。
「メロンかんなちゃん+蒼空学園の校長の名前なんてダブルパロディのテロリズムは、天が許してもこのキャンティちゃんが許しませんわ〜」
一瞬見えたメロンのゆる族にショットガンを打ち込むキャンティ・シャノワール(きゃんてぃ・しゃのわーる)。
が、すぐに顔をしかめたところからすると、手応えはなかったようだ。
その傍ではキャンティの戦いを邪魔させないように、周りの生徒会軍を相手取っている聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)。
エルがその中へ飛び込んだ。
「ボクもメロンかんなちゃんには用があってね。手伝おう」
「キャンティとメロンかんなちゃんのサシの勝負ですぅ」
「すでに横槍だらけじゃないか」
エルが聖のほうを見て言った。聖がいなければキャンティはメロンかんなちゃんと戦うどころではなかっただろう。
遅れてギルガメシュも二人の生徒会軍兵を薙ぎ払ってエルの横に立った。
「その横槍相手は任せてください」
「ボクがとらえるからキミはとどめを」
「しょうがないですねぇ!」
フン、とキャンティが鼻を鳴らすのを見て小さく笑う聖。
エルはなかなか姿を見せないメロンかんなちゃんの、わずかな気配や殺気も逃すまいと神経を研ぎ澄ました。
ハッと気づいたのはキャンティの真後ろ。
気づくと同時にキャンティを横に押すと、エルの脇腹を鋭いものがかすめ、一瞬で熱さに似た痛みに変わる。
歯を食いしばって出そうになる声をこらえ、エルは『禁じられた言葉』で強化しておいた魔力で氷術を叩き込んだ。
中途半端に何かが凍りついた形が浮き上がる。
エルに押されて床に倒れこんだキャンティだが、ショットガンは手放すことなく、また宙に浮き出た半端な氷漬けも見逃さなかった。
すぐにヒビが入った氷の塊が崩れ落ちる前に、狙いを定めてトリガーを引く。
何かが壁にぶつかった音がしたと思うと、倒れたメロンのゆる族の姿が浮き上がった。
「メロンかんなちゃんに天誅をくだしましたですぅ!」
キャンティの勝利宣言に生徒会軍にどよめきが走った。
「よし、一気に片付けて脱出するぜ」
ラルクが指をならして生徒会軍を威嚇した時、少し前まで気まずいお茶会をしていた相手が追いついた。
First Previous |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
19 |
Next Last