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嘆きの邂逅~闇組織編~(第3回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第3回/全6回)
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 その少し前。
「そんなにはなれたらあぶないよ。みんなのとこもどろ!」
 真希が森の中に飛んでいこうとするハーフフェアリーの少女の足を掴んだ。
「ミルミおねぇちゃんどっかいっちゃったし、さがさないと……くしゅん」
 少女、ライナはくしゃみをして鼻を擦る。
「火のそばでいいこにしてたら、すぐもどるよ、ぜったい!」
 真希はそう言って、ライナの手を引いて焚き木の方へと連れて行く。
「真希様……」
 真希の後方を歩き、警戒をしていたパートナーのユズが鋭く声を上げた。
 次の瞬間。
「皆さん、急いで集まって下さい! 池の方に!」
 殺気看破で警戒をしていた小夜子の声が飛んだ。
「守りを固めて下さい。一般の百合園生は中央に!」
 同じく、殺気看破で警戒に務めていたも白百合団員、そして百合園生達に指示を出していく。
 百合園生達が驚きながら、集まろうとした直後に、カラスの鳴き声が響き――銃撃音が響き渡る。
「ログハウスが」
 連れていた白馬から、真希は剣と盾を取る。
「行かなきゃ!」
 攻撃を受けている魔女の家に真希は駆けつけようとする。しかし瞬時にユズが真希の腕を掴む。
「そちらにも白百合団、他校生の方がいらっしゃいますから大丈夫です」
「でもっ」
 すさまじい強襲に、真希は青ざめながらも、勇気を奮い起こして助けに行こうとする。
「それよりもこの混乱に乗じて悪さをする者がいないとも限りません。皆様をお守りするのに専念いたしましょう」
 ユズはそれを許さず、真希をこの場に留めようとする。
「護ろう、真希ちゃん」
 プレナもぎゅっと真希のもう一方の腕を掴んだ。側で一緒に皆を守ろうと。
「きゃーっ、いやっ」
「ふえーん」
 百合園生や子供達の中には叫び声を上げたり、泣き出す子もいた。
「みんな……プレナちゃん」
 そんな百合園の友人達の姿を見て、真希はユズとプレナの言葉に従うことにした。
「だいじょうぶだから、はなれてようね」
「集まってようね」
 真希とプレナは一般の百合園生、子供達を池の方へと誘導する。
「ボクたちは百合園のかがいじゅぎょうできてるんです。なにかごようですか?」
 近づいてくる柄の悪い男達の前に出たのは、先ほどまで遊んでいたヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)だった。
「大人しくしててくれりゃ、それでいい」
 男達が銃をヴァーナーに向ける。
「白百合団としてボクがまもるですよ!」
 怯むことなく、ヴァーナーも武器と盾を構えた。
「はあっ!」
 加速ブースターでシーマが接近し、男の1人を忘却の槍で打ち倒す。
「誰でもいい、討ちたい気分だ」
 シーマはそのまま男達に槍を向ける。
「場合によっては相手するが?」
 続いて超感覚で男達の接近に気付き、側面から回り込んだ毒島大佐(ぶすじま・たいさ)が、制服に仕込んでいた短刀を男の首に突きつける。
「な、に!」
 男が銃を大佐に向けるより早く、大佐は短刀で男の腕を大きく裂く。落ちた銃を横へ蹴り飛ばす。
「人数的にはこっちが勝っているようだね」
 言いながら、大佐は後方に跳んで男達に鋭い目を向ける。
「く……っ」
 男達は銃を向けているだけで攻撃を仕掛けてはこない。
「どうしてこんなこと……」
「だいじょうぶ、だよ。ラビが守るからね」
エルシーラビは百合園生達と池の方へ避難し、手を繋ぎあっていた。
「池を背にして身を屈めていてください。森側からも気配は何も感じません」
 ルミは2人を背に庇いながら、武器を手に男達の動きを見守る。
「やっぱり……甘いよね」
 突然の襲撃にヨルは歯噛みする。室内にいる人が武装しているかどうかなんてわからないのに。一般人もいるのに。
 ヨルは身を屈めながら携帯電話を取り出して、封印解除に向った者達に電話をかける。……が、電波の届かないところにいるようで繋がらなかった。やむなく、メールを送り状況を伝えておく。
 静香のように戦闘能力がほぼなく護衛対象な人物が駆けつけても、逆に状況が悪化する可能性がある。それより救援を呼んでもらった方が助かるはず。
 そんな内容のメールを送った後、パートナーと皆の守りにつく。
(やはり……ここは、戦ってでもお嬢様達をお護りすべきでは……)
 池の側に避難したミルフィが武器を手に立ち上がる。
 無言で有栖は彼女の手をとって、首を左右に振った。
「大丈夫です」
 淡く微笑んだ後、有栖は子守唄のような穏やかな歌を唄いだす――。
 ミンストレルの彼女が紡ぐ優しい音色が、百合園生と子供達の心を静めていった。
 
「ダメだ、家が持たない――!」
 ログハウスの中で、百合園生達を奥へと避難させていた呼雪だが、激しい襲撃に家が持たないと判断し、外へ誘導を始める。
 友人の黎明とメールのやりとりをしており、リーアに関する良くない噂がやたらパラ実で流れているということは耳にしており、自分自身も、護衛についている者達にも警戒を促してはあった。
 敵の接近に気付くことは遅くなかったが。
 ここまで激しい襲撃を受けることなど、誰が予想できただろうか。
「一般人を巻き込むな」
 そう声を上げて、呼雪は百合園生とパートナー達を連れて裏口から飛び出す。
「武装していない無抵抗な女は傷つけるな」
 そう命令を下したのはトミーガンを構えたサルヴァトーレだ。
 柄の悪い男達は呼雪を撃ってはくるが、女性には攻撃を加えてこない。
「皆が集まっているところへ」
 白百合団員達にそう言い、呼雪はその場に残り敵の注意を引きつけようとする。
 サルヴァトーレが呼雪に弾丸を浴びせていく。
 呼雪は試作型星槍を振るい、極力直撃を避ける。
 しかし、全ての敵の銃弾を呼雪1人でひきつけることは不可能だ。
 ヴィトが裏口から白百合団員に守られて出てきたリーアをシャープシューターで狙い撃ちしていく。
「っ……うは、狙いはリーアさんみたいだね」
 テレサがリーアの代わりに銃弾を受けながら、言った。盾を持っているが全て盾で受けきれはしない。
 彼女が出てきた途端、男達の銃口の殆どがリーアに向けられた。
「早く、逃げよう……」
 そうは言うものの、どこに避難すればいいのだろう。
 とにかく、テレサは彼女の盾になることしかできなかった。
 見捨てれば、自分も百合園生達もこれ以上攻撃を受けることはないかもしれないけれど……。
 難しいことは解らない。だけれど、そんなことはパートナーロザリンドは決してしないだろうし、白百合団員としても間違っていると思う。多分。
 とにかくテレサは痛みに耐えて、急所は出来るだけ避けて彼女を守ろうとしていた。
「……死んだらダメよ」
 強い言葉で、突如リーアがそう言ったかと思うと、テレサを突き飛ばした。
 強い衝撃を受けて、テレサは後方に吹っ飛ぶ。
 そこに、ヴィトの銃弾が飛び込み――リーアの胸を貫いた。
「どけぇぇぇ!」
 続いて、バイク音と怒声が響き、スパイクバイクが突っ込んでくる。
 バイクは倒れかかるリーアの横に走りこみ、布で顔を隠した男が彼女の身体を強引に引っ張り抱え込む。
 銃弾がバイクとリーアを狙う。仲間、ではないようだ……。
 バイクに乗った男は負傷するも、ターンしてシャープシューター、スプレーショットを使った銃撃を行いながら男達の間をすり抜けて走り去っていく。
「退くぞ」
 サルヴァトーレが言い、男達も駆け抜けていく。
 ヴィトが殿をつとめ、呼雪へと銃を撃ちながら去る。
「深追いはしないで下さい。警戒は解かずに怪我をされた方の治療を!」
 白百合団班長のロザリンドがテレサの元に駆け寄って、気を失っている彼女の治療を始める。
 花畑の方では、シーマが打ち倒した男が1人倒れている。外にいた者達の中で怪我をした者はいなかった。
 あくまで、敵の狙いはリーア1人だったようだ。
 百合園生には攻撃を加えないよう指示が出ていたようでもあった。
 それでも、テレサを始め、怪我をした白百合団員もいる。
「葵さん、大丈夫ですか」
 ニーナが負傷したの元に駆け寄った。
「うん、かすり傷、大丈夫」
 言いながらも、ちょっと涙目だった。
「百合園の皆は無事、でもリーアさん守れなかった……」

「畜生、修理にださねぇと、これ以上は無理だな」
 スパイクバイクが火を噴出す。
 布で顔を隠した男――久多 隆光(くた・たかみつ)が、木陰にバイクをとめて、リーアの容態を確認する。
 胸を撃たれたように見えたが、自分で治療を施したようであり、血は止まっていた。
 ただ、青ざめた表情で今は意識を失っている。
 これからどうするか。
 隆光はまだ決めていなかった。
 情報を掴むことを目的に、組織と繋がりを持ったのだが、このままでは単に協力しているだけになってしまう。
 組織から入ったリーア殺害の依頼。
 その時期に合わせたかのように、リーアの悪い評判がキマクで流れ出した。
 隆光は依頼を聞いた時に、捕縛してはどうかと意見を出した。
『呪術で人を殺せるなら、そちらの方が利用価値があるのではないか』と。
 それに対し、御せない厄介者は殺してしまった方がいいと組織の者から返答を受けていた。
 他の賞金首以上に、組織は彼女の抹殺を急いでいる。
「う……」
 小さな声をあげて、リーアが目を覚ました。
「大丈夫か?」
 隆光の声に、リーアは力のない笑みを見せた。
「もしかして、助けてくれた? それとも誰かに……引き渡すつもり? 私には、もう、価値はないよ。力も……皆に、託した、しね……」
 それだけ言うと、また彼女は意識を失った。
 負傷したせいというより、力を使い果たして酷く疲労しているようであった。