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嘆きの邂逅~闇組織編~(第4回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第4回/全6回)
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「体調はどうですか〜?」
「随分、いいですよ」
 百合園の制服を着た神代 明日香(かみしろ・あすか)の問いに、隣を歩く男性――悲恋の騎士カルロと呼ばれていた青年は、微笑みを見せた。
「何か、感じることありますか?」
 小声でそう尋ねると、カルロは僅かに真剣な目を見せた。
「そうですね、色々と……出来れば皆さんを連れて、引き返したいくらいです」
「何もなければいいのですけど……」
 明日香はカルロの護衛に専念するつもりだった。
 彼はそれなりの力を有しているようだけれど、感知能力があるらしく、調査に力を注がなければならないから。
 それに、目覚めたてで体調も万全ではないらしい。記憶もかなり曖昧なようだ。
「カルロ様、お久しぶりです」
 緊張した面持ちの少女がひとり、近づいてきた。目には涙を浮かべている。
「再びお会いできるとは思っていませんでした。貴方の部下だったニーナです」
 現在は百合園に通っているニーナ・ノイマン(にーな・のいまん)は、シャンバラ古王国時代、6騎士と共に離宮を守っていたことがある。
 ニーナは上司であったカルロを密かに慕っていたのだ。
 カルロはニーナの姿に軽い驚きを見せた後、柔らかな笑みを見せた。
「お久しぶりです。ニーナさん。こうして時を経てもまた貴女にお会いできた奇跡に感謝します」
「はい」
 溢れそうになった涙を拭ってニーナも微笑む。
 それからカルロの今のパートナーである明日香に会釈をすると、少し距離をとってカルロを護衛することにした。
 パートナーのニーナのそんな姿に、秋月 葵(あきづき・あおい)は、少しだけ笑みを浮かべた後、ニーナと頷き合って、表情を真剣に戻す。
「今日は絶対……っ」
 先日の課外授業でリーアを守りきれなかったことを葵はとても悔やんでいた。
 その後、厳しい鍛錬を真面目に繰り返して、今日この場にいる。
「葵ちゃん、頑張りましょうね。でも、無茶しすぎないで下さいね」
 エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)は少し心配気に葵に付き添っていた。
 葵は強く首を縦に振る。
「鈴子団長。私、何が起っても絶対に皆を守ってみます」
 言いながら、団長の鈴子に続いていく。
「あまり無茶はしないで下さい。でもどうかよろしくお願いします」
 鈴子は振り向いて葵にそう答えた。

「行こう」
 執事見習いとして訪れた高月 芳樹(たかつき・よしき)が、パートナー達に声をかける。
「……興味深い施設ね」
 周囲を見回しながらそう答えたのは新任教師に扮して訪れたマリル・システルース(まりる・しすてるーす)だ。
 ここにイリィが連れてこられたという話を耳にしていたため、怒りや心配でつい落ち着きがなくなってしまう。
 ハーフフェアリー、しかも大人である自分は相当目を引く存在であることは解っているのだけれど。
「珍しい羽根ですね」
 研究員の1人が、マリルに声をかけてきた。
「同じような羽根の子供達も何人かいますが、ご家族ですか?」
「いいえ、同郷の者ですが、家族ではありません」
「そうですか」
 研究員はそれ以上尋ねず、マリルも会釈をすると芳樹の方へ歩いていく。
「このお薬は美容に効くのね。皆喜びそう。あとで取引をお願いするかもしれないわね……」
 百合園でメイド見習いとして学んでいる振りをしているアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)が、ノートに記録していく。
 言葉とは違い、アメリアは館内のセキュリティ状況についてこまめに記録をしていた。
「こっちの部屋はちょっとツーンとした匂いがするな」
 百合園生に続いて、隣の部屋に入った芳樹が鼻を擦った。
 マリルとアメリアが芳樹に続いて部屋に入り、中を見回していく。
 塗料が作られている部屋だった。
 換気はされているが、薬品の匂いが強かった。
「薬品はきちんと厳重に管理されているのね」
 アメリアはそんなことを言いながら、部屋の中を見回してメモをしていく。
 監視カメラなどは設けられてはいない。……魔法的な仕掛けがないとは言えないが。
 警備員もさほど多くはない。
 ただ、キマクにある施設にしては、頑丈すぎる造りに見えた。
 殺気看破を使ってみるが、現在のところ殺気は感じられない。
「専門外じゃから教師として生徒達に説明してやることはできんが、興味深いものよのう」
 着任したばかりの国語教師として訪れた伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)も、研究所で作られている品々を珍しそうに眺めていく。
「して、この塗料と、先ほどの美容薬を混ぜたら、ファンデーションが出来ぬかの?」
「いえ、材料的にそれは無理かと」
 研究員が玉兎の問いに苦笑する。
「実際に試してみるべきじゃなかろうか! ちょうど良い、ここは実験室じゃからのー」
「あ、ちょっと」
「いえ、無理ですって……」
 肌色の塗料を持ち上げた玉兎を研究員達が止めに入る。
 ……そんな風に、玉兎が研究員達の目をひきつけている隙に、何人かの百合園生がその場から離れていた。

「ご心配なの分かりますけど、わ、わたわたしらには無茶ですえっ」
 清良川 エリス(きよらかわ・えりす)は、わたわたしながら、廊下を歩いていた。
 桜井静香に旬のアンズをジャムにして挟み込んだお菓子などをプレゼントしようと意気込んでいたというのに、エリスは邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)に強引にここに連れてこられてしまったのだ。
「無茶は承知です。それでも勇気を持って踏み出さないといけない事もあると知りなさい。わたくしは何もせずにいては気がすみません!」
 先を歩く壱与が、厳しい言葉を発する。
 先日の課外授業で、壱与はリーアを占い、とても良いとはいえない結果を見ていた。
 そして、あの襲撃があり、彼女は行方不明となってしまった。
 身を案じていたけれど、手掛かりは一切つかめなかった。この研究所の話を聞き、少しでも彼女の情報が得られればと調査に志願したのだった。 
「他にも攫われた子供もいると聞きます。かような振る舞い許していては立派な為政者になどなれないのでございますよ?」
「為政者……? 無茶言わんでおくんなまし、そないなのなるつもりあらしまへんえっ!」
「友となった者を救うのに無理や無茶だなんて言葉は必要ありません!」
 ぴしゃりと壱与は言い放つ。
 エリスはあわあわしながら周囲を見回している。
 研究室と思われる部屋へ続くドアが5箇所くらいにある。そのうち2箇所は見学済みだが、プレートが掲げられた個人が管理する研究室のような部屋は見学ルートに入っていない。
 また、入り口付近には階段もあった。そっと見てみたところ、2階のほかに、地下もあるようだった。
「はぁ〜」
 そんな2人の様子にため息をつきながら、ティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)はとりあえず、手近な部屋のドアを開けてみた。
 鍵はかかっておらず……その代わり中には人がいた。
 白衣の男が振り向く。
「いい事考えましたわ」
 くるりとティアが振り向く。
「エリスがあの殿方の研究員に色仕掛けをして話しを聞き出しなさいな。腕に組み付いて胸を擦り付ければ一発ですわよ」
「そ、そないなん年考えてもティアの方がお似合いどすぅ」
 エリスは勿論後退りする。
「そんなこと言わずに」
 ぐいっと手を引っ張られたエリスは、無我夢中でドアに手をかける。
「すすすす、すんまへん。トイレと間違えました」
 そして、バタンとドアを閉める。
「更にいい事考えましたわ」
 またまたエリスの腕をぐいっとティアが引っ張る。
「エリスがあの方々を色仕掛けをして気を引いている間に、わたくし達が先に進んで調べますわ」
 ティアが指す先には、階段の方からやてくる2人の研究員の姿があった。
「こうして胸元緩めて上目遣いで『持病の癪で苦しいから撫でて下さい』と迫れば完璧ですわよ」
「無理ですぇーーー!」
 ティアの腕を振りほどいて、エリスは廊下の奥へと走っていく。
「自ら奥へ向われるとは。ようやく、その気になってくれましたのね」
 壱与は急いでエリスの後を追い、ティアは妖艶な笑みを浮かべつつ、2人の後からついていく。

 鈴子はライナを気にしている以外は、見学生全体を見回したり、皆を集合させたりすることはなかった。
 ごく自然に振舞いながら、護衛の白百合団員と共に研究所を見学していく。
 だけれどやはり気になるようで、時折瞳だけちらりと入り口方面に向けてしまったりすることがあった。
「私ねぇ、いつも思うんですよぉ」
 そんな鈴子に、普段とは違う少し真剣な表情で雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が小声で話しかける。
「泥を被るのは私みたいなちょっとお嬢様じゃないキャラの役割なんじゃないかって」
 そう言ったリナリエッタを軽く眉を潜めて、鈴子が見る。
「……まあ団長、白百合団の名前に傷が付くのは嫌なのよ」
「あなたは、団員ではないのに?」
 軽く笑みを浮かべて、リナリエッタは頷いた。そして、一歩前にでて鈴子に耳打ちする。
「私、ちょっと潜ってみますわ。出来たら騒ぎを起こして、混乱させます。その隙に捜索、脱出、破壊活動、お好きにどうぞ」
「リナさん……」
 少し離れて、リナリエッタはいつものニヤニヤとした笑顔を浮かべる。
「ですからぁ、私が捕まったら思いっきり私の頬を叩くなり足蹴にしてくださいましてぇ? 『こんな下品な小娘が百合の生徒なわけないでしょう』って演技付なら最高ねぇ」
 言って、ウインクを一つする。
「何を……」
 とがめるような目をした鈴子に、手を振ってリナリエッタは離れていく。
「まったく、もう。戻ってきたらお仕置きです」
 そんなことを呟きながら、鈴子は腰に手を当てて……淡く、微笑んでいた。

「美味しいー。サルヴィン川の川の水かのー」
 喉が渇いた。我慢が出来ないと言い出して、 ミア・マハ(みあ・まは)は研究所の食堂の場所を教えてもらい、冷水を貰っていた。
「まったく、しょうがないな」
 付き添って食堂を訪れたレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)はそう言った後、食堂の所員達に礼を言って、水を飲み終えたミアと共に廊下へと出て行く。
 食堂の場所を教えてくれた研究員の姿はもう廊下にはない。
 食堂は1階にあり、皆が見学をしている場所からは遠くはないため、合流は簡単なのだが……。
 すぐに戻るつもりはなかった。
 ミアと頷き合った後、レキは光学迷彩を使って、廊下を移動していく。
 ミアは身を屈めて、廊下に向けられている監視カメラに映らぬよう注意をしながら、レキの後に続いた。
「レキよ、姿を見えにくくする技術があるからといって油断するでないわ。匂いで察知されぬよう気をつけるのじゃぞ」
 ミアがそう声をかける。
 レキは頷いて、トレジャーセンスで、一番重要そうな場所に目星をつけて、ドアに近づく。
 中からは声も物音もしない。
 ピッキングでドアを開けて、すっと中に入り込んだ。
「倉庫?」
 宝物庫というわけではなく、その部屋は書類や掃除用具、備品などが置かれている倉庫だった。
「監視カメラなど、ないようじゃな」
 注意しながら、ミアが入り込む。
 書類が置かれた棚に近づいて、確認してみると、研究資料やデータなどであった。
「これ全部持って帰るとしたら、馬車に積み込むだけで日が暮れるね。とはいえ、どれを持っていけばいいのやら」
 中を見ても、ちんぷんかんぷんだ。
 とりあえず、携帯電話で倉庫の中の写真を撮っておく。
「イラスト入りのこれなんか、気になるね。……イラストじゃなくて、まさか写真?」
 翼を生やしたヒョウとライオンの頭を持つ奇妙な生物が描かれている。
 そのファイルに綴じられた書類には、皆そのような奇妙な生物の写真が載っていた。
 レキはそのファイルを持って帰ることにする。