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嘆きの邂逅~闇組織編~(第4回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第4回/全6回)
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リアクション

 パン
 廊下に向けられていた監視カメラが破壊されて床へと落ちる。
 毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)は、壊れた監視カメラの側を通り抜けて、奥へと進んだ。
 百合園生達の元を離れて、極力人に見つからないよう移動しているのだが、行っていることは過激だった。
 人と目が合った時には、迷った振りして近づいて化粧室に連れ込んで、尋問をする。
 その後は、簡単に縛り上げて猿轡をかませ、奥の個室に放置だ。
 そうして情報を集めていき、所長室と重要な研究室の場所。それから一般の研究員は立ち入ることが出来ない地下室があるという話を聞きだした。
 所長室は流石にヤバかもと思い、キメラの研究をしているという人物の研究室に突入してみることにした。
 ドアにかけられていたプレートには『ギヌラ・ベルベット』と名前が書かれていた――。
「なんだ?」
 中にいたのは、30代半ばくらいの男性だった。
 古代エジプトの服のような派手な服の上に、白衣を纏っている。
「ギヌラ・ベルベット?」
「そうだが」
 言いながら、男――ギヌラは後退りする。
「とりあえず、この研究所の研究内容について教えてもらおうか」
 ギヌラが非常用ボタンを押す寸前、大佐は自分のことは一切語らず、一気に近づいて刀を首に押し当てた。
「み、見ての通りだ。キメラを作っている。化学に関する研究を行っている研究所だ」
 ギヌラは手を上げて、そう答えた。
「誰に頼まれてこの研究をやっている?」
 その部屋には、合成獣がずらりと並んでいた。殆どが培養液で満たされた水槽の中に入っている。
「趣味だ。命令されているわけではない」
「大元の組織とかあるんじゃない?」
「あるが、詳しいことは知らん。僕はキメラさえ作れればそれでいいからな。研究途中のキメラは奪わせんぞ……!」
 その言葉に、大佐は刃を少し首に食い込ませる。
 ギヌラは「ぎゃっ」と、小さな声をあげる。
 首から血が一筋流れ落ちた。
「キメラに弱点とかは?」
「弱点などない。素晴らしい傑作ばかりなのだからな」
「ふーん、ま、こんなもんか。もう用済みだ」
 大佐が右手1本で刀を振り上げる。
 逃げようとするギヌラに刀――ではなく、左拳を叩き込んだ。
「ごふっ」
 腹に受けたギヌラがその場に倒れる。
「さて、次は地下だな」
 大佐は廊下に気配がないことを確かめると、部屋から退出した。

 次第に、研究所内が騒がしくなってくる。
 鍵のかけられた部屋への潜入、カメラの破壊、研究員への脅迫行為が次々と知られていく。
「そろそろね……。門はどうにかなりそうだけれど、正面の扉は無理そうよね。なら脇かな」
 頃合を見て、トイレに篭っていたニニが鮪に電話をかけた。

「ヒャッハァー! 大事な預かり物は返して貰うぜ」
 スパイクバイクを走らせて、長身の男が門を破壊し研究所に突っ込んでくる。
 頭に生えた立派なモヒカンから、パラ実生であることが一目瞭然だった。
 即座に警備兵達が飛び出し、南 鮪(みなみ・まぐろ)に銃を向ける。
「ヒャッハー! ここにいることは分かってんだよ!」
 鮪は敷地内を走り、内部に突入できそうな場所を探していく。
 大抵の窓には鉄格子が嵌められており、強引な突入は無理そうだった。
 ニニは兎も角。
 中に預かり物のイリィがいなければ、すぐにでも燃やしてしまいたいところだが。間違えてイリィまで燃やしてしまったら、それはもう楽しいお仕置きどころでは済まされない。マジでコ ロ サ レ ル。
 百合園生達からの袋叩きにはなんだかそそられるものもあったりしないでもない鮪だが、とりあえず、イリィは無事に取り戻さなければならない。

「今だ……っ」
 鮪が突っ込み、破壊された門からブラックコートを纏い、黒いスカーフで顔を隠した人物――レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)が研究所の敷地内に突入を果たす。
 研究所の窓から覗く銃口はほぼ鮪に、飛び出した警備兵達はレイディスに飛び掛ってくる。
 剣で容赦なく警備兵達を斬り倒しながら、レイディスは正面入り口から、
「よっしゃー、ここから行くぜ!」
 鮪は側面の搬入口から内部へと突入を果たす。
「ひっ」
 慌てて銃を取り出した白衣の男を、レイディスは階段の方へと引っ張り、銃を叩き落として剣を向ける。
「この施設はどんな目的で使われている? トップは誰だ」
「生活に役立つ薬やペットの製造がメインだ」
「ペットの『製造』とはどういう意味だ」
「自然生物以外の獣、合成獣の製造だ。薬もペットもパラ実を初めとする有力者から依頼や注文を沢山受けている」
「動物の、合成……」
 レイディスの目がキラリと光る。
 レイディスもパラ実所属ではあるが――。
「そっか……それじゃ、俺が個人的に許さねぇ」
 研究員を突き飛ばし、迫り来る警備兵達を斬り倒し、レイディスは銃撃を受けながら階段を飛び下りていく。

 バタン
 実験室のドアが閉められる。実験室の中には見学中の百合園生が集まっていた。
「パラ実生の襲撃のようです。すぐに済むと思いますので、ここから動かぬよう」
 ヒグザが鋭い目でそう言った。
「私達を閉じ込めているようにも見えますわ。彼らの狙いは私達ではないようですし、外へ避難させていただいた方が嬉しいのですけれど?」
 鈴子はヒグザに微笑みを向ける。
 鈴子の前に立ち、護衛をしている小夜子が服の中の短刀に手を伸ばす。
「やはり、こうなりますのね」
 後ろを護るエノンがそう言い身構える。
「皆、集まって」
 鈴子の右隣まで歩き、葵が生徒達に声をかける。ゆっくりと百合園生達は鈴子の周りに集まっていく。
 やや後方では、アレナは戸惑いながら自分の服をぎゅっと掴んでいる。
「無理はするな」
 そんなアレナに呼雪がそう声をかけた。
「今はかつてのように、人の命や運命が好き勝手にされるような時代じゃない。当時どんな生まれ方をしたとしても……今は自由で良い筈だ」
 呼雪の言葉に、アレナはゆっくりと頷いて、小さな言葉を発する。
「優子さんに、話しましたから……大丈夫、です。白百合団の、アレナ・ミセファヌスとして……必要な時がきたら、迷いません……」
「はい。アレナ様なら、きっと大丈夫です。私はあの日の言葉と、今の言葉を、信じておりますから」
 ユニコルノはアレナにそう言った後、呼雪と共にゆっくりと後方へ下がっていく。
「どうやら、社会科見学ごっこは終わりのようだな」
 ヒグザが薄い笑みを浮かべた。
 警備兵達が百合園生に武器を向けていく。
「帰らせていただきますわね」
 鈴子がそう言った途端、呼雪が動いた。
 後方の入り口に向って、ドラゴンアーツを放つ。
 警備兵達が飛び退き、襲い掛かってくる。
 避難経路については、先に確認しメモを鈴子に渡してあった。
 入り口に向って走る、呼雪、ユニコルノに警備兵達が押し寄せる。だが、こちらは囮だ。
 鈴子は団員に目配せをして、ライナを抱えた状態で前方の出入り口に向って走り出す。
「いくよー」
 メリッサが星輝銃で警備兵達の足を狙って撃っていく。
「少しでも隙を作るからアレナお姉さんよろしくねー」
「はい。皆さん、急いで逃げて下さい」
 メリッサに返事をした後、アレナは百合園生達に呼びかけていく。
「守ります。優子さんの分も……!」
 光条兵器を取り出して、アレナは百合園生達を背に庇っていく。
「早く避難しましょう。パラ実生達も私達を襲ってはこないでしょうから」
 マリルは呼雪の後に続いて、後方の入り口に走る。
 百合園生からの申し入れを研究所が拒否しなかった理由として、自分達ハーフフェアリーについて彼ら側も探りを入れたかったからではないか、とも考えられる。
 自分以外のハーフフェアリーは幼い子供だから、所員の注意は自分の方に向けさせなければならない。
「廊下の奥に非常口がある、そこから出るぞ」
 マリルと共に、芳樹も走り出す。
「廊下は大丈夫そうよ、仕掛けは見当たらなかった」
「とはいえ、こりゃ困りましたのう」
 アメリアは、監視カメラやセキュリティシステムについて記したノートを白百合団員に預けると、玉兎と共に芳樹達の後を追った。
「手はずどおりに動け」
 ヒグザの命令はそれだけだった。元々こういった事態が訪れた際の指示は出してあったようだ。
 警備兵達の多くは、後方の入り口の方に集まっていく。
 ヒグザ自身は前方の入り口から廊下へと出て行く。
「追う必要はありません。私達は脱出だけを考えます。……先に離脱した方々を信じて」
 鈴子が周りの百合園生にそう指示を出す。
 まず、小夜子が動いた。黒檀の砂時計を使って素早さを上げて、さざれ石の短刀を抜き、前方の入り口に立ちこちらを狙っている警備兵に、飛び掛る。銃弾を紙一重で交わして、短刀を警備兵の肩に突き刺した。
 警備兵の体が石に変わっていく。
「無意味なことはやめてください」
 エノンは小夜子の代わって鈴子の前に、警備兵との間に立つ。
「あらあら、そんな武器を向けられたらこわいですわ」
 武器を向ける警備兵に言った途端、セツカはブリザードを放った。
「はっ!」
 防御に動く警備兵の腕を、小夜子が短刀で切り裂き武器を落とさせる。
「葵ちゃん! これを使ってください!」
 エレンディラは、スカートの中に隠し持っていたライトブレードを葵に渡す。
「ありがとエレン」
 葵は庇護者、女王の楯、護国の聖域を使用し皆を庇い前に出る。
「絶対、皆を守るって決めたんだから!」
 もう誰も傷つけさせたくはなかった。
 剣を振って、警備兵の接近を阻んでいく。
 その身に攻撃を受けながらも葵は絶対に下がらない。
「葵ちゃん……」
 葵を案じながら、エレンディラは警備兵に氷術を放って動きを止めていく。
「ライナちゃんはボクもまもるです!」
 ヴァーナーはパワーブレスを使い、ライトブレードを構えライナを抱える鈴子と共に走る。
「お姉ちゃん……っ」
 ライナは鈴子に抱きついて泣き出しそうになっていた。
「大丈夫ですよ。お歌うたいましょう」
 サリスはライナを励ましながら、後ろから魔法の歌で援護をしていく。
「ん……っ。まもる、です」
 警備兵が放った銃弾が、ヴァーナーの足を掠めるが、ぐっと耐えて、ヴァーナーは剣を振り回して警備兵達を牽制していく。
「野蛮な方々ですわ」
 ヴァーナーとサリスを案じながら、セツカは再びブリザードを放ち敵を下がらせる。
「団長と共に、駆け抜けてください」
 ロザリンドが琥珀の盾を構えて、百合園生を背に庇いながら指示を出す。
 手薄なのは前衛。小夜子は団長の前を護っているが、それより先を先導する者が必要だった。
「道を空けてください!」
 ロザリンドはブライトスピア、琥珀の盾をに、皆の盾になりながら先陣を切る。
「させません」
 小夜子が鈴子の方向に銃を向けた相手に斬り込む。
「子供を抱えた女性を狙うなんて!」
 更に別方向から鈴子を狙う研究員に、エノンが飛び込んでツインスラッシュで、切り払っていく。
 白百合団員達がロザリンドに続き、その後に皆に護られた鈴子が続いていく。
「長居は無用です。とにかく早く脱出すべきです」
 カルロが眉間に皺を寄せてそう言った。
「何か感じましたか〜?」
 明日香の問いに頷きながら彼女を引き寄せて庇うように走る。
「強い生命力を無数に感じます。先ほどまではさほど感じなかったのですが……感知を妨害する技術をもこの研究所にはあるようです」
「カルロ、皆、こっち!」
 テレサがディフェンスシフトで守りながら、ランスバレスを近づく敵に打ち込んだ。
「我が力! 今、此処に」
 ニーナは光条兵器を体内から取り出す。巨大な突撃槍だ。
 壁は切らずに敵警備兵のみ、打ち払う。
「カルロ様、明日香さん今です」
「ありがとうございます〜」
「ニーナさんも急いで」
 カルロと明日香は庇いあうようにテレサとニーナが開けた空間を通り出入り口へ走る。
 テレサは忘却の槍をニーナは光条兵器の槍を振るいながら後に続く。
「エルシー様、さ、早く!」
 ルミがエルシーとラビの背を押す。
「は、はい……ラビちゃん、表に出ますよ」
「うん、帰ろう」
 エルシーは状況をきちんと理解はしていなかったけれど、ラビの手を引いて皆についていく。
 ラビはちょっと飽きてきたのでそろそろ帰りたいと思っていたところだ。
 先日につづいて、なんでこんなことが起きるのかよく分からないけれど、皆本気みたいなので、急いで逃げた方がいいということだけは解っていた。
「お2人共、余所見はしないで、前だけ見て進んでください」
 ルミはエルシー達を覆うように両腕を広げながら、入り口へと駆け抜ける。
「真希様、真希様ー!」
 ユズは姿の見えない真希の名を呼ぶ。
「ユズ、こっち!」
 真希の声は廊下の方から聞こえた。
 急いで、外へと飛び出すと、下級生達を庇い応戦している真希の姿があった。
「ユズ……奥の部屋に、可愛い動物、とか、めちゃめちゃに……合成してる部屋があったの」
 応戦しながら言う真希は悲しげであった。
 真希に守られている下級生達も皆青ざめていた。
「やはり必要になりましたね」
 ユズはライトブレードを真希に渡す。
「もう、帰らせてっ」
 真希は武器を受け取ると、警備兵に向って振り下ろして倒す。
「早く帰ろう!」
 そして、下級生達の手を引いて皆の元へと走る。
「全員出ました!」
 アレナが声を上げて、廊下へ飛び出す。
「近づかないでねー」
 メリッサが銃をパンパンと撃ち、アレナの援護をしつつ百合園生達に続く。