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嘆きの邂逅~闇組織編~(第4回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第4回/全6回)
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第3章 占い師とバイク男

「あった、バイク……!」
 関谷 未憂(せきや・みゆう)は思わず声を上げた。
 轍や血痕を探してリン・リーファ(りん・りーふぁ)と共に長い時間歩き回り、ようやく乗り捨てられた一台のバイクを発見した。
 バイクには血痕と、弾痕、焦げた跡がある。
 周囲には誰もいない。通常バイクが通るような場所でもなく、仲間と合流して乗り物で逃げたわけではなさそうだと未憂は判断した。
「ディテクトエビル、使ってみるね」
 リンは、ディテクトエビルで辺りを探ってみるが、特に反応はなかった。
「街も民家もここからじゃ遠いよね……大丈夫かな……」
 未憂はリーアを案じながら、くまなく探して、僅かな足跡を発見し向った方角にめぼしをつけていく。
 小型飛空艇に乗り込んで空から辺りを見回し、また地上におりて、足跡を探し。
 地道に、根気よく行方を追うのだった。

「あなた、一体なんなの……? もしかして、私のこと、助けようとしてる?」
 背負っていた少女が、そんな疑問投げかけてきた。
「何だといわれても、答えようがないな。ただ、俺は――お前を見捨てない」
 久多 隆光(くた・たかみつ)は静かにそう言う。
「必ず護るから信じて欲しい」
 そう言葉を続けると、リーアは僅かに体を起こしてこう尋ねてきた。
「もしかして……私を拉致しようとしたんじゃなくて、助けてくれたの?」
「あまり喋るな。体に響く」
 隆光がそう答えるとリーアは「わかった」とだけ言って、隆光の肩に回していた手に、少し力を入れて、より凭れ掛かった。体を全て、預けるかのように。
 隆光は彼女が何千年もの時を生きてきた魔女であることが分かっていたけれど、自分の半分くらいしかない体重、小さな体。苦しげな息、境遇に――彼女をなんとしてでも救いたいという強い感情が芽生えていた。
(私には価値が無いだの言いやがって。絶対に助けてやる。無事に笑う事が出来るような生活を与えてやる)
 彼女は隆光の知る闇の組織に命を狙われている。
 彼女の言葉が本当なら、力を失った彼女は組織にとって価値がない――殺す理由もない相手なのかもしれない。
 だが、組織は彼女が力を失ったことを知らず、それを証明することもできない。
 ただ、彼女の体を救っただけでは、安全な場所に連れて行っただけでは、普通の生活が出来るようになりはしない。
(今はただ、急ぐだけだ)
 隆光は神楽崎分校を目指していた。
「交代しよう」
 合流をした童元 洪忠(どうげん・こうちゅう)が隆光にそう言うが、隆光は首を左右に振る。
 リーアの状態はかなり悪いようであり、動かすこともなるべく避けたかった。
 傷口はふさがっているのだが、出血多量状態なのかもしれない。
 即死してもおかしくはないと思われるほどの怪我を負い、きちんとした治療も出来ない状態だ。
 とにかく、早く早く目的地にたどり着かなければならない。
 木々のある場所では、なるべく隠れて移動をした。
 だが、分校までは川沿いの見通しの良い場所を通っていくのが最短距離であり、そのルートでも徒歩では数時間程度でたどり着けはしない。
「寒いか……?」
 洪忠は、上着を脱いで、リーアにかけた。
 寒さを防ぐだけではなく、彼女を隠すためにも。
 特にリーアと接点のなかった洪忠だが、隆光が護ることに強い意志を見せている相手だ。
 必ず、護らねばと洪忠も思うのだった。
「ワン、ワン、ワン!」
 犬の鳴き声が響く。
 素早く隆光達は木陰に身を隠すが、犬は隆光達の側まで近づいて吠え続け、続いて別方向から2匹犬が迫ってくる。
 隆光は身構え、洪忠はヒロイックアサルトを発動して事態に備える。
「リーアさんね」
 響いた女性の声に、隆光と洪忠が体を向ける。リーアは軽く顔を上げて声の主に目を向けた。
 女性――は、背負われている少女が店の掲示板に貼られていた似顔絵の人物と同一人物だと確信すると、一切の質問はせず、ハンドガンで隆光の足を狙う。
 リーアを背負っており、木々が立ち並ぶ中で犬に囲まれているため、隆光は攻撃を避けることが出来なかった。
 足を負傷した隆光の前に、洪忠が飛び出し、彼とリーアを背に庇いながら、遠当てを放つ。
 ベルフラマントを纏い、禁猟区に殺気看破で十分警戒を払ってきた明は瞬時に木陰へと隠れ、攻撃をやり過ごす。
「離れろ!」
 隆光はアーミーショットガンで、吠え続ける犬達の足元を撃っていく。
「下ろして……大丈夫、だから」
「大人しくしていろ」
 リーアが隆光の背中から下りようとするが、隆光が片手で強く抑えてそれを防ぐ。
「あなたが私を庇う理由なんてない」
 強引に、力を振り絞ってリーアが隆光の背から下りる。
「庇いたいと思ったからそうしている。理由ならあとで幾らでも並べてやる。今は下がれ」
 ガードラインでリーアを守りつつ、隆光はチェインマストで犬達を蹴散らしていく。
「キャン、キャン」
 足を撃たれた犬達は、隆光の下から走り去っていく。洪忠は明が隠れている木を遠当てで攻撃をしながら、銃を撃つ隆光と一緒に後退していく。
 隆光はリーアを抱きかかえて、荒野に向って走り出す。
 洪忠も遠距離攻撃で牽制しながら、木々の間を抜けて荒地へと出た。
「走り抜けて下さい!」
 頭上から声が響く。その直後、眩しい光が放たれる。
 目を細めながら、リーアを抱えた隆光と洪忠は走りぬける。
 明は木の陰から様子を伺う。
 どうも様子がおかしい――。
「誘拐されたんじゃないのかな?」
 隆光はリーアを必死に庇おうとしていた。
「誘拐犯から救出したって可能性もあるわね」
 事情はよく分からないが、これ以上の攻撃は無意味と感じて、明は犬達の手当てに移ることにした。

「神楽崎分校の関谷未憂です。回復だけでもさせていただけないでしょうか」
 光術を放った援護した未憂は、小型飛空艇で近づいて、銃を向ける隆光に武器を持っていないことを示す。
「また誰かが襲ってきたら、魔法で援護するよ。あたし達はその人を守りたいの。あなたもそうなの?」
 空飛ぶ箒に乗った リンも近づく。
 隆光と洪忠がリーアを庇って戦っていることが見て取れたから。
 拉致した人物だったとしても、リーアに害意はないのだと未憂もリンも判断していた。
「神楽崎分校に向いたいとは思ってる。だが、悪いが信用はできない」
 隆光はリーアを守るために、警戒を解くことは出来なかった。
「それなら、この空飛艇を使って下さい。近づきませんから、回復魔法かけてもいいですか?」
 未憂の言葉に、隆光は慎重に頷き、未憂はリーア、それから怪我をしている隆光にもヒールをかけたのだった。
「すまない」
 礼を言って、隆光はぐったりしているリーアを飛空艇に乗せて自分も乗り込んだ。
「連絡を入れる方法がありませんし、私たちも分校に向いますけれど、大丈夫ですか?」
 洪忠に、未憂が尋ねる。
「私は大丈夫だ。追おうとする者を発見した場合は、食い止めよう」
 洪忠はそう答える。
「お願いします」
 言って、未憂はリンの方に走る。
「それじゃ、行くよ」
 リンは未憂を空飛ぶ箒の後ろに乗せると、隆光とリーアを導き分校へと向っていく。

「本当にここで待っているべきなのでしょうか……」
 橘 舞(たちばな・まい)は、パートナーのブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)金 仙姫(きむ・そに)と一緒に、神楽崎分校の喫茶店で待機しながら、不安を感じていた。
 ここには医療設備が何もないのだ。治安も良いとはいえない。リーアが攫われた場所からも離れている。携帯電話も通じない。
 それでもブリジットに闇雲に探すより、ここで連絡を待っていた方が効率的だといわれて、待機しているのだけれど……。
「マリルさんも心配していると思いますし、早く安心させてあげたいです」
「そうねー」
 ブリジットは気のない返事をする。
 ブリジットとしては、舞には危険なことに首を突っ込んで欲しくはない。
 彼女には戦闘能力はないから。
 下手に嗅ぎ回って危険な目に合うくらいなら、分校にいた方がマシ。
 そんな理由で、舞をこっちに向わせたのだ。
 あとは、大怪我をしたという魔女を連れてヴァイシャリーに入ったら目立つだろうし、イルミンスールの森の中をバイクで移動できるとは思えない。
 逃走経路として、こちら方面を選ぶ可能性が高いという考えも少しはあった。
「攫われた魔女の救出と人攫いの退治か。どうやら、金剛山の女仙たるわらわの神通力は見せる時がきたようじゃな」
 仙姫はそう陽気に言うも、舞をちらりと見て考えを巡らす。
(とはいえ、舞の見ている前であまり乱暴なことはしたくもないしのぉ)
「心配です……」
 ティーカップを置いて、舞が不安気に言ったその時。
「リーアさん、お連れしました!」
 遠くから未憂の声が響いてきて、空飛ぶ箒と、空飛艇が近づいてきた。
 3人は即座に立ち上がって、喫茶店の外へと出る。
「あ、バイク男!」
 飛空艇から降りてきた男が、分校で拉致騒ぎを起こし更にリーアを攫っていったバイクに乗った男だと、ブリジットにはひと目で分かった。
「この娘を頼む」
 隆光はリーアの小さな体をだきあげて、分校へと歩く。
「舞」
「はい、こちらです。奥の従業員用の休憩室お借りしましょう」
 急いで駆け寄って、舞はリーアに肩を貸す。
「……まあ、とりあえず話を聞こうか。でもその前に」
 ゴスッ
 ブリジットが拳を隆光の顎に叩き込んだ。
「いろいろと、よくもやってくれたわね。人として最低だよ、あんた」
「……ああ、気の済むまで殴ってくれて構わない。だが、彼女のことを頼む」
 切れた唇から流れた血を拭いながら、隆光はそう言った。
「ほほう……格好つけてんじゃないわよー!」
「やめて……っ」
 ボコボコにして、簀巻きにして川にでも流してしまおうかと思ったブリジットだが、小さな声に思いとどまる。
「彼は命の恩人だから。殴るなら私を」
 弱弱しくもはっきりとそう言ったのはリーアだった。
「あんたは殴られることなんて、何もしてないだろ」
 隆光のその言葉に、リーアは弱い笑みを浮かべる。
「ダメです、ブリジット。理由も聞かずに手を出すなんて……。叱るのはちゃんと理由を聞いてからです。どんな悪人でも、悪事を働く理由があるはずです。正当な理由がある可能性もゼロではありません。話を聞かずに手を出す行為もまた最低です」
「はいはい。それじゃ、話を聞いてくだらない理由だったら……覚悟してよね」
 ブリジットは拳に息を吹きかけてみせる。
「わらわの出番はなさそうじゃのう。治療だけさせて逃げる可能性もあるからのぉ。マイクのチェックでもしつつ、見張っておくとするかの」
 仙姫が隆光の側へと歩み寄った。
 隆光は軽く目を逸らす。
 理由――この分校で行った行為、彼女をかっさらって逃げたこと――その理由は何だったのだろうか、それは正当なのだろうか。
 少なくとも、リーアを救いたいという気持ちだけは真実だった。