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【ろくりんピック】ムシバトル2020

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【ろくりんピック】ムシバトル2020

リアクション


会場整備中の甘〜い罠
 各会場の予選が終了し、以降の準備のため、会場では清掃と警備が行われていた。
 会場に、よからぬやつがいないかどうか目を光らせるために紛れ込んでいたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、注意深く周囲を見渡して言った。
「こういう、みんなが油断している時こそ、注意しなければならないのよね」
 その言葉に、シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)は、静かにうなずいた。
「いや〜白熱の予選でしたっス! このあとも楽しみっスね!」
 ただ一人、アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)だけは、純粋に試合を楽しんでいたようだが……。
「ちょっと飲み物でも買って来ようかな……」
 シルフィスティが立ち上がった。
 飲み物というのは口実で、会場内を見回るのが目的だろう。
「オレも一緒に行きましょう」
 狐樹廊もすっと立ち上がった。
「座りっぱなしじゃ疲れちゃうものね」
 リカインも、服をぱんぱんっと叩いて立ち上がる。
 座席は指定席なので、少しくらい離れていても問題はない。
「あ、僕も〜」
 三人にとって予定外だったのは、席に残ると思っていたアレックスもついてきてしまったことだった。
 とりあえず四人で、ジュースを売っていそうな場所を探す。適当なところでアレックスをリリースして、三人で警備をするつもりだった。
「……なんだか、あっちから甘い香りがするね」
 だが、異変に最初に気がついたのは、他ならぬアレックスだった。
 確かに、どこからか異様に甘い香りが漂ってくる。
 そして、その方向からガサゴソとたくさんの足音と、人間の声がする。
「これは……?」
 リカイン、シルフィスティ、狐樹廊は目で合図しあった。
 よからぬ者たちが、東西の要人が集まっているこの機会を狙って、暴動を起こそうとしているのではないか……。
 急いで、そちらの方向に向かった。
 近付けば近付くほど、がさごそという音と人の声、甘い香りが強くなってく。
(この甘い香り……吸っても大丈夫なのかな……)
 毒物の可能性も考え始めたその時、ひときわ大きな人の声が聞こえてきた。
「さあ、今年もやって参りました。パラミタ3分クッキング! 虫を捕まえられなくて参加できなかった貴方! ムシバトル2021に参加しようと考えている貴女! そんな皆さんに特製蜜の作り方をお教えしましょう」
 ノリのいい音楽と、軽快なMC。
 リカインたちがそっとのぞき込むと、葉月 ショウ(はづき・しょう)葉月 フェル(はづき・ふぇる)が人だかりの中心にいる。
 まるでクッキング番組ように、ショウがMC、言われたとおりにフェルが材料を混ぜている。
 まだ調理途中のようだが、既に甘い香りが漏れて、普通サイズの虫たちがどんどん集まってきている。虫収集用の蜜を作っているのだ。
「……うん。これで完成にゃ!」
 どうやら調理が終わったようだ。
「あとはこの完成した蜜を……ああ!」
 ばっしゃーーーーん!
 大鍋に入っていた蜜を、フェルは豪快にひっくり返した。
 あたりには、今まで以上に甘い香りが立ちこめる。
 そして……。
「う、うわああああ」
「キャアーー」
 今まではわずかな香りに惹かれた普通サイズの虫が集まっていたのだが、鍋ごと蜜をぶちまけたため、強い香りに巨大サイズの虫がどんどん集まってくる!
 中には……選手登録済みのタグがついている虫もいる。
「こ、これはちょっとまずいんじゃ……」
 少し目的は違うのだが、とにかくこのトラブルをおさめなくては。
 リカインたちは、奇妙なクッキングが行われていた会場に飛び込んだ!
「あの、これ、まずくない?」
 フェルの首根っこを捕まえて、リカインが問いただす。
「え〜〜〜〜と……」
 にゃはは、とごまかし笑いをするフェル。
「森の中の……屋外で、しかも虫が集まっているこの日に蜜クッキングだなんて」
 ショウを捕まえたシルフィスティが、半ばあきれて言った。
「いやーーー、今日だからこそいっぱい捕れるかな、って」
 ショウも、とりあえず笑うしかなかったようだ。
 そうこうしている間にも、選手も非選手も、普通も巨大も、どんどん虫が集まってきている。
「か、片付けましょうかにゃ〜」
 さすがにこの状況はやばいと思ったのか、フェルが遠慮がちに言った。
「当然です」
 狐樹廊はきっぱりと言い放った。
「アレックスは実行委員会のところに行って。まずは選手を戻さないと。クッキングのお二人は、蜜を片付けて。あとの人たちは、一般の人を安全なところに誘導しましょう」
 てきぱきと指示を出すリカイン。
 もともとトラブル対応をする心構えができていたため、落ち着いて行動することができている。

 そして……。
 全てが片付く頃には、木々の間から見える空はオレンジ色になっていた。
 遠くから「いよいよ次は決勝戦です!」というアナウンスが聞こえる。
「ああ〜〜〜。試合ほとんど見逃したぁ……」
 アレックスはがっくりと膝をついた。
「いろいろと大変だったけど……」
「こういうトラブルだけで済んだってことは、平和だってことね」
 リカイン、シルフィスティ、狐樹廊の三人は、くすりと笑い合った。
「今度何か作って食べさせるからさ」
 落ち込むアレックスを、ショウとフェルが慰めている。そもそも君たちが原因なのだが。
「ああ、あと……よかったらこれ」
 ショウが、クッキングBGMを流すために持ってきていた、少しクラシックなデザインのラジカセ。
 アンテナをのばしてラジオボタンを操作すると、ガサガサという音の向こうから、放送が聞こえてきた。

『それでは決勝の前に、準決勝までの試合のダイジェストをお届けします!』

 このムシバトル大会のための特別番組だ。
「ここでダイジェストを聴けるから、これ聴いて、みんなで決勝を見に行こう」
 6人は肩を寄せ合い、ラジオから流れてくるダイジェストに耳を傾けた。


○ダイジェスト放送○

 それでは、ここまでに行われた試合の結果をダイジェストでお届けします!

 第二試合
 パラミタオオカブトムシのシズカVSパラミタサルヴィンダンゴムシのリンクフィルド。
 途中までは拮抗した試合だったけど、先ほど「切れたゴキブリ」を見た静香校長が帰ってしまったと聞いたシズカサイドが突然意気消沈。場外でリンクフィルドが勝ち進みました。

 パラミタコーカサスの剛力丸VSパラミタクロアリの黒金。
 力と力のぶつかり合い、削りあいの試合は、最後差し違えるかたちで両方が倒れ、テンカウント内に立ち上がることができた剛力丸が勝利。いやー、名勝負でした。

 パラミタオオカブトムシのライデンJrVSパラミタミヤマクワガタのステキ自然。
 力でごり押ししたステキ自然が、ライデンJrを場外に押し出して勝利。三回戦へと駒を進めました。

 パラミタヤマシログモのアララちゃんVSパラミタスズメバチのシャトル。
 よく動く素早いシャトルの攻撃を、堅いボディで全て守り抜いたアララちゃんのカウンターアタックが炸裂! アララちゃんが勝利しました。

 イルミンオオクワガタのテイカーVSパラミタオオクワガタのデロクワ。
 うーん、デローン丼という謎餌の力もここまでだったのでしょうか。最後はデロクワが力尽きるかたちでテイカーの勝利。なお、まだデローン丼の成分は判明しておりません。

 ジャタヨロイダンゴムシのダンちゃんVSクロカミキリムシのスパーキング。
 ダンちゃんは作戦通りしっかり守備を固めたのだけど、スパーキングにひっくり返され、そのまま場外へ。スパーキングが勝利しましたが、最後のダンちゃんのかわいい落ちっぷりに、運営にはダンちゃんのグッズを希望する問い合わせが殺到しております。

 パラミタオオタマオシコガネのライアー・ゴールドVSパラミタオオカブトムシのガチタン。
 堅い、堅い! どちらも堅い! 鉄をたたき合うような削りあいは、わずかな差でガチタンの勝利。強きメスのライアー・ゴールドと、その美しいセコンドチームに、また来年もという声が多数寄せられました。

 パラミタジュウシチネンゼミのオネェチャンVSパラミタオオカブトムシの阿蘇。
 途中までオネェチャンの攻撃を全て見事に防いでいた阿蘇ですが、様子を見すぎたのでしょう、反撃の機会を逃し、削られすぎて力尽きた格好で、オネェチャンが勝利しました。最後は阿蘇のセコンドがタオルを投入しました。阿蘇は愛されている虫のようですね。

 次は注目のカードでした。イルミンヒメスズメバチのエリザベートVSチリガミモンシロチョウのエリエールン。
 エリエールンは、西シャンバラチームに応援メンバーとして参加していた山葉涼司選手がエントリーした虫です!
 チリガミモンシロチョウという、一見バトルに不向きな虫でのエントリーで、会場は一時寒い空気に包まれましたが、ひらひらと舞うエリエールンにエリザベートの攻撃がなかなか当たらず、思いの外健闘を見せてくれました。
 最後は風圧で飛ばされたエリエールンが行方不明になってしまい、実行委員会が捜索に出るという事態になり、エリザベートが勝利しました。
 なお、エリエールンは無事に確保された、とのことです。

 パラミタ怪虫モフラのももろうVS葦原オニヤンマの疾風。
 速い疾風に対し、ももろうの攻撃機会はとても少ないものでした。ですが幸運なことに、その少ない攻撃機会に放った攻撃が見事にヒット! 下馬評を覆して、ももろうが第三試合へと駒を進めました。負けはしましたが、疾風の戦いのかっこよさに、オニヤンマ人気が急上昇しているとのことです。

 次もおもしろいカードでした。パラミタキイロミツバチの又次郎さんVSパラミタキリギリスのロベルト。
 又次郎さんは、伝説のパラミタキイロミツバチ・次郎さんの血縁だとのことで、注目が集まっておりました。ですがまだ若く、相手に対してまっすぐ飛び込んでいく戦法を主としており、しっかりと作戦を組み立てて戦ったロベルトに及びませんでした。又次郎さんの今後に期待ですね。



 続いて、第三試合の結果もお伝えします。

 パラミタコーカサスの剛力丸VSパラミタサルヴィンダンゴムシのリンクフィルド。
 昨年の経験も持つ剛力丸、さすがの戦いっぷりで見事に勝利! 健闘したリンクフィルドには、教導団から勲章の授与が検討されているとのことです。

 パラミタヤマシログモのアララちゃんVSパラミタミヤマクワガタのステキ自然。
 アララちゃん、女の意地を見せたかったところですが、ステキ自然のパワーが勝り、ステキ自然の勝利となりました。なお、アララちゃんが身につけていた虫用リボンが人気を呼んでいます。

 イルミンオオクワガタのテイカーVSイルミンクロカミキリムシのスパーキング。
 速さで押していったスパーキングと、守りのテイカー。軍配は、守りきってわずかなチャンスをものにしたテイカーに上がりました。スパーキングの、昨年に続いての健闘に、会場は大いに盛り上がりました。

 パラミタジュウシチネンゼミのオネェチャンVSパラミタキリギリスのロベルト。
 どちらも素早く動くため、観戦するほうもなかなか大変な試合でした。勝敗は、十七年に一度のチャンスをものにしたオネェチャンが勝利。ロベルトも素晴らしい戦いを見せてくれました。

 イルミンヒメスズメバチのエリザベートVSパラミタヒナヒグラシのラッシー。
 堅いラッシーの防御を崩すのに時間がかかり、長期戦となった試合でした。最後はラッシーが根負けしてしまい、エリザベートに隙を突かれてしまいました。エリザベートの勝利です! ああ、今ちょうどひぐらしの鳴き声が聞こえていますね。あれは、ラッシーの声なんですって。

 パラミタ怪虫モフラももろうVSパラミタオオカブトムシのガチタン。
 かわいいモフラの快進撃はここまででした。ガチタンのパワーに、最後は場外にころりと落とされてしまいました。もしかしたら次回は、成虫になったモフラが出場してくれるのでしょうか。期待したいような、したくないような……。


 ここまで、ベスト6が出そろいました。
 準々決勝、準決勝は今終了したばかりですので、結果のみお伝えします。

 準々決勝。
 剛力丸VSステキ自然。
 昨年も出場していたベテラン二匹の対決となりましたが、この勝負を制したのは剛力丸でした。しかし、どちらが勝ってもおかしくない試合でしたね。

 テイカーVSオネェチャン。
 オネェチャン強し! セコンドからたくさんの応援を受けて、全力を尽くしたテイカーでしたが、今一歩及びませんでした。

 エリザベートVSガチタン。
 無尽蔵なスタミナを誇るスズメバチも、遂に疲れてしまったようです。相手を翻弄するために動き回ったエリザベートですが、最後は疲労してしまい、その隙をガチタンに狙われて、場外となりました。

 準決勝には、東西要人の招待選手の中から勝ち進んできた一体が、スペシャルシード選手として参加しました。
 結果を見ていきましょう。

 招待選手、シャンバラサバクカの不魔キラーVS剛力丸。
 シャンバラサバクカ、蚊です。かゆいですね。
 強豪招待選手の中を勝ち進んできた優勝候補の不魔キラーですが、少しからだが小さく、堅さがないので、ひとたび捕まってしまうと弱いという弱点がありました。
 そして、それを剛力丸サイドに看破されてしまったのです。
 追い詰められ、最後はパシンといい音がしましたね。多くは語りませんが。
 決勝に進んだのは、剛力丸です!

 決勝を戦うもう一体を決める準決勝。
 二試合目はオネェチャンVSガチタン。
 堅いガチタンを崩すのに時間がかかったオネェチャン。どちらが力尽きるかの今期比べとなりましたが、最後倒れたのはガチタンでした。
 セコンド一同もびっくりの、オネェチャンが決勝進出です!


 ここまでの白熱の試合を、ダイジェストでお届けしました。
 ここからは試合会場に戻し、決勝戦の生中継をお届けします!