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【おとこのこうちょう!】しずかがかんがん! 後編

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【おとこのこうちょう!】しずかがかんがん! 後編
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■□■3■□■ 張角軍・撃退

「さてと……未来・静香が元に戻りたいのか否かはさておき、
貴重なソーセージを無駄に消費する訳にもいかないからな」
現在の朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、張角を相手取り、
野性の蹂躙を使用して、カンガンガニの群れをけしかける。
「うわああああ!?」
張角は武器をふるい、足で踏みつぶして、ハサミを振り回すカンガンガニを倒す。
「貴様あ! 俺に何の恨みがある!?」
「お前に恨みがあるわけじゃない……。
だが、小ラズィーヤのためだ!
それに、この時代……いや、俺達が来た時代からそうだけどさ、
こんだけ戦闘メイドが居ると、流石に負けたくはないよなぁ……
そんな訳で、本気でいかせてもらうぜ!」
怒鳴る張角に、垂は言い、
己自身を高めるためにも全力で戦う。
「そんなわけで、ソーセージを奪われるわけにはいかないぜ!」
光学迷彩で物陰に潜んでいた、
未来のナナ・ノルデン(なな・のるでん)を殺気看破で発見し、垂は言う。
「やりますね……」
未来・ナナも、メイドとして対抗心を燃やす。
「そう言えばひとつ気になったんだけどさ、
カンガンガニのソーセージは、1本丸々食べる必要ってあるのか?
ほら、チョコレートプレッツエルゲームみたいに
未来・静香と未来・エリザベートがそれぞれ端から食べて行くとか……」
「ダメに決まってるでしょう」
「冗談、じょ〜だん」
未来・ナナに突っ込まれて、垂は笑う。
「まぁ、それで中途半端な事になっても困るからな、
イルミンスールはまだ成長していく可能性はある訳だから、
今回は未来・静香に譲ってくれないか?」
「イルミンスールでたくさんソーセージを作ったのですから、
静香校長の分もあるでしょう、きっと。
しかし、この状況下で、
確実にエリザベート様にソーセージを届けるのが、私の使命です」
いつ何時、ソーセージがダメになるかもわからない。
誰かがファイアストーム連発でもしようものなら、
全部消し炭であろう。
「わかった。じゃあ、決着をつけようじゃないか!」
垂と未来・ナナの影が交錯する。

★☆★

「ところでどうでもいい話なんですが、
未来の私のこたつに入った辺りから、身体や髪の毛が無性に痒いんですが……」
身体をかきむしっていた現在の志方 綾乃(しかた・あやの)だったが、
カンガンガニを蹴散らした張角に、その身を蝕む妄執で幻覚を見せる。
「ぎゃあああああああああああ!?」
カンガンガニの群れによってかかって襲われ去勢され、
憎んでいた宦官に自分がなってしまう幻覚を見せられた張角は、
暴走して武器を振り回す。
「こうなったら貴様だけでも地獄に落としてくれる、
アルバ・フレスカぁ!!」
周囲のオークやゴブリンは、恐慌状態の張角を見て、おろおろする。
「ゲホッ、ゲホッ……!!」
未来の綾乃は、血を吐いてくずおれる。
「どうしたんですか!? 顔が真っ青ですよ!」
「ご、ごはんが……ひさしぶりに食べたごはんがおいしすぎてつい吐血してしまったんです」
現在・綾乃に、未来・綾乃は無理やりごまかす。
(体が熱い、ぼうっとする。
長年の野外生活が祟ったみたいです。
自分でもわかるんです。私の命はもう長くない。
例え戦いが終わり世界が平和になっても、
私の辛い過去が変わることもなければ、寿命もそこまで伸びるわけじゃない。
でも不思議と死の恐怖はない。
ずっと辛いことばかりだった。
世界を呪ったことすらあった。
でも、最期にあの子に会えて、私は救われたと思う。
……あの子の望みは、私がもっと生きることなのに。
もう、何の心残りもないんです。
だから、残った命の炎全てを、あの子のために使いたい。
未来を救おうとするあの子の願いを叶えてあげたい……!!)
未来・綾乃の願いは、現在・綾乃を助けることだけであった。
(“あなた”がこの戦いで死のうとか思ってるくらい想像の範疇です。
だって私が“あなた”の立場ならきっとそうする。
だって“あなた”は私だから。
でも、絶対にそんなことはさせないです。
例え窮地に追い込まれても、無茶をしそうになっても、
絶対に私は“あなた”を助けます。
例えどんなに私が傷ついても、
こたつから無理やり引きずり出して、背中におぶって、絶対に二人で生きて帰るんです)
コタツに入ったままの未来・綾乃の移動速度に合わせて、
現在・綾乃は付き従っている。
「きゃあああああ!?」
そこに、オークやゴブリンが、張角をおかしくした現在・綾乃に襲いかかる。
「逃げて!」
未来・綾乃は、オークやゴブリンの軍勢の真ん中に這いよって、
コタツの中にしかけていた爆薬を爆発させた。
爆炎が上がり、白い粉雪のようなものが、張角軍に降り注いだ。
しばし、呆然としていた張角軍だったが、
身体をかきむしって大騒ぎし始める。
白いものは、未来・綾乃のコタツの中に住んでいた、ダニ・ノミ・シラミだったのである。
士気を失った張角軍のオークやゴブリンは、いっせいに逃げはじめる。
かくして、張角軍は撃退された。

現在・綾乃は、ダニ・ノミ・シラミの降り注ぐ中、未来・綾乃を抱きしめ、慟哭する。
「志方ないだなんて……。
志方ないだなんて、思えるわけないじゃないですか!」
現在・綾乃には、未来・綾乃が、爆発の瞬間、
いつもの自分の口癖……「志方ないですね」と言って、
微笑したように見えた。
現在・綾乃は、未来・綾乃をおぶって、その場を走り去った。