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ゴチメイ隊が行く3 オートマチック・オールドマジック

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ゴチメイ隊が行く3 オートマチック・オールドマジック

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「特別、会場自体に魔法的な仕掛けはないようだな。本当にただのコンテストなのか? いや、偶然が重なりすぎるということは、すでに偶然じゃないはずだ」
 会場の周囲を調べながら、緋桜 ケイ(ひおう・けい)はつぶやいた。
 長くイルミンスール魔法学校に籍をおいていた経験から、ついつい場という物に必要以上に気をむけてしまう。だが、魔法にとっては場という物は非常に重要だ。たとえば、魔法陣のような敵の結界の中に知らずに入っていたとしたら、まさに敵の掌の上で踊っていることになる。
「後は、カナタがうまく調べてくれるかな」
 そろそろ競技が始まるというアナウンスに、緋桜ケイは地面から顔をあげて客席の方へとむかった。
 そのころ、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は直接機材室の中を調べようと、様子をうかがっていた。
「なんか怪しいんだよなー」
 ゴチメイが来ているというからイベントをのぞきにきたのだが、どうも雰囲気がおかしいと感じる。だいたい、コンテストという物は一番を決めるための物だ。それが、このコンテストからは一番になるぞという気概があまり感じられなかった。もちろん、メイドロボットの売り込みという大義名分はちゃんとあるのだが、あまりに大義名分過ぎる。対費用効果を考えたら、こんな大々的なイベントなんて、あまり効率がいいやり方だとはとうてい思えなかった。
 幸いなことに、関係者が競技場所に移動していった今は、警備が甘いように見えた。今なら、彼らの用意した物などを調べれば何かつかめるかもしれない。
 ラルク・クローディスは、そっと機材室の暗幕を開けて素早く中へと滑り込んだ。その後ろから、何かの影が二つ追いかけるようにして中へと入ってくる。そして、ぶつかった。
「いてっ」
「痛いわよ」
 光学迷彩を解いた『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)橘 恭司(たちばな・きょうじ)が、小さな声で言い合う。
「何やってんだお前たち。静かにしろ」
 薄暗闇の中でラルク・クローディスがささやく。
「その通りだわ」
 言いつつ、『空中庭園』ソラが光術で明かりを点した。機材室の内部が、よく見えるようになる。
「ほーう」
 男たちが、軽く感嘆の息を漏らした。六メートル四方ほどの空間には様々な物がおいてあった。予備機なのだろうか、四体のメイドロボットが開かれたボックスに収められたままおいてある。そばにおいてある三つのボックスは空だ。中央には、大きなクラスターコンピュータがおかれていた。そばには、状態把握用なのかいくつかのモニタがおいてある。
「型番でもあれば、ルートがたどれるんだが……」
 待機中のメイドロボットを調べながら橘恭司がつぶやいた。着ているメイド服を少し脱がせて、型番のような物をうなじや胸元に確認しようとする。
「じーっ……」
「えっ?」
 ふいに冷たい視線を背中に感じて、橘恭司は振り返った。『空中庭園』ソラの思いっきり冷たい視線が突き刺さってくる。
「いや、これは調査を……」
「じーっ……。どうだか」
 正当性を主張しようとする橘恭司を、『空中庭園』ソラが一蹴した。
「ここにあるのはまだカスタムモデルかもしれねえから、型番なんて絶対ついているというわけじゃねえだろ」
「本体はそうでも、パーツの物が分かれば、そこからたどることが……」
「まだ脱がすんだ……」
「ちがーう!!」
 『空中庭園』ソラに冷たく突っ込まれて、橘恭司が全力で否定した。
「とりあえず、ケイに連絡して……。あれれ?」
 携帯を取り出した『空中庭園』ソラは、アンテナの本数が無茶苦茶に変化しているのを見て顔を顰めた。
「ここ変よ。きっと妨害電波を出しているのがあるんだわ。とりあえず雷術で全部ショートさせちゃいましょうよ!」
「おいおい!」
 短絡的な『空中庭園』ソラを、ラルク・クローディスが止めようとした。それを無視して、『空中庭園』ソラが指先に雷光を集める。
「ゴパ……」
「えっ……。しびびびびび……」
 『空中庭園』ソラが、まさに周囲の機械を破壊しようとしたとき、小さな針が彼女に突き刺さって電撃を与えた。放たれかけた雷術が制御を失い、あらぬ方向に放電してから急速に収束してパワーを失う。それでも、一部の機械が影響を受けたのか、小さなスパークがあがった。
 感電した『空中庭園』ソラが、気を失って倒れた。
「ズールズールズール」
 『空中庭園』ソラを倒した小ババ様が、口から発射したティザーガンのプローブについているワイヤーを蕎麦でも啜るように巻き取っていく。
「出た、小ババ様だ」
 橘恭司が身構える。
「いや、ちょっと待て、なんだこの三頭身のずんぐりむっくり小ババ様は。ペットレースで見たのとずいぶん違うぞ」
 ラルク・クローディスが首をかしげた。
「くるぞ!」
 橘恭司が叫んだ。ティザーガンを巻き取った小ババ様が、攻撃姿勢のようなものをとる。
「ゴパッ!」
 シュッと射出された雷針を橘恭司が、ブラックコートを脱ぎ捨てて絡めとる。
「ゴパパパパパパ……」
 小ババ様が逃げだした。
「逃がすか!」
 機材室の外に逃げだした小ババ様をラルク・クローディスが追う。
「捉えた!そこだぁ!!」(V)
 ラルク・クローディスの放ったドラゴンアーツが、逃げる小ババ様に命中した。
 ちゅどーん!!
「爆発した?」
 駆けつけた神代明日香たちが、一部始終を見て叫んだ。小ババ様なら、本来は光になって消えるはずだ。
「やっぱり、あれはロボットですぅ!」
 神代明日香が断定する。
「きっと、蒼空学園の秘密データを取りにきているんですぅ!」
「それです! きっと、ライバル会社が、私たちのロボットのデータを盗もうと送り込んだスパイロボットに違いありません!」
 これ見よがしにジェイドが叫んだ。一瞬にして、神代明日香の言葉を逆手にとる。
「ここにメイドロボの秘密が……」
 どさくさに紛れて機材室に飛び込んだ三笠のぞみだったが、薄暗闇の中で何かが動いた。
「すみません、勝手に入らないでください」
 アクアマリンの声と共に、起動した予備のメイドロボが三笠のぞみの前に立ちはだかった。その背後でピッという音と共にモニタに羅列されている文字の『No.99』の所が緑色の『ALIVE』から赤い『NO SIGNAL』に変化する。だが、眼前のメイドロボに気をとられていた三笠のぞみはそれに気づかなかった。さらに、その直後に、不自然にモニタの画面が歪んでから元に戻った。
「ごまかしてはだめですぅ」
「そうよ。真実を白状する時間なんだもん」
 ジェイドと押し問答をしている神代明日香に三笠のぞみが追従した。機材室の方は、起動したメイドロボが四方を守っていてすでに簡単には入れなくなっていたのだ。
「こっちです」
 そこへ、オプシディアンがペコ・フラワリー(ぺこ・ふらわりー)マサラ・アッサム(まさら・あっさむ)を連れて現れた。
「爆発があったようですが、競技とは関係ないパラ実生が暴れているのですか?」
「まあ、ついでに掃除しちゃえばいいんじゃないかなあ」
 怪訝そうなペコ・フラワリーに、マサラ・アッサムが飄々と言った。
「まずい。俺たちが暴漢にしたてあげられたか。ここはいったん退くぜ」
 ラルク・クローディスが、『空中庭園』ソラをだきかかえた橘恭司に言った。
「偽小ババ様という証拠があるんだから、ここで奴らを問いただして企みを白状させるべきなんじゃないのか?」
「証拠は吹っ飛んじまったじゃねえか。これ以上ゴチメイに誤解されるわけにゃいかねえんだよ。だいたい、奴らの思惑は同士討ちだ。そんな手に引っかかってたまるか」
 そう言うと、ラルク・クローディスは飛び出して神代明日香と三笠のぞみを両手でがしっとつかんだ。
「証拠って言っても、小ババ様は自爆しちゃったですぅ……」
「そうよ。おかしいんだもん……」
「すまねえな。こいつらの勘違いはちゃんと説教しておくからな」
 ラルク・クローディスは、ギャアギャア騒ぐ二人をかかえて脱兎のごとく逃げだした。
「小ババ様?」
 入れ替わるようにやってきたペコ・フラワリーがジェイドに訊ねた。
「こちらの勘違いだったようです。お騒がせいたしました」
 やんわりとジェイドが頭を下げてその場をとりなした。
「なんだ、人騒がせだなあ」
 ぼやきながら、マサラ・アッサムが納得できないという顔のペコ・フラワリーの背を押して帰っていった。
「いいのか、うるさい奴らを放っておいて」
 オプシディアンが、ジェイドにささやく。
「今騒ぐのはまずいですから。それにメイド勝負も見てみたいですからねえ」
「また、悪い癖を……」
 あまり遊びすぎるなとオプシディアンがジェイドに言った。
「そうですね。もう少し時間をください。こちらとしては、並列分散処理でデータサーチしていますので」
 アクアマリンも、腕時計型コントローラーの文字面のパネルを確認しながら言った。