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リアクション
★ ★ ★
「負けられまセーン。すべてのカレーは、我が輩の手による物でなければならないのデース」
対抗心を燃やしたアーサー・レイスが、珍しく超真面目に正統派タイカレーを作っていく。
「ふっ、どうでもいいわ。いつも通りカレーなんだから、好きにやればいいじゃない」
ふてくされた日堂真宵は、キッチン近くの長机の上にごろんと横になりながらつまらなそうにぼやいていた。
「フハハハハー! この世界に、カレー以外の料理が存在してはいけないのデース! カレー以外は食べ物にあらずデース! 万物はカレーから成るのデース!」
もう、ノリノリでアーサー・レイスがカレーを作っていく。そのまま奇跡的にも、酸味のきいた独特な辛さのカレーが、しごくまともにできあがっていった。
★ ★ ★
「相変わらずの殺人兵器を作るつもりだな」
やれやれといった感じで、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が、騒がしいアーサー・レイスからパートナーのエイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)に目を移した。
トントントンっと軽快に包丁をまな板の上で動かしながら、エイボン著『エイボンの書』が、あらかじめ本郷涼介が渡してくれたレシピメモをチラチラ見ながら順調に調理を進めていく。
彼女が作っているのは肉じゃが定食だ。暖かい家庭料理と言えば、これこそが定番であり王道であるという本郷涼介の強い主張によるものであった。
素朴な料理ではあるものの、作る過程では一切の妥協や手抜きがない。肉は豚をセレクトし、合わせ出汁で丁寧に煮込んでいく。さしすせその要領で調味料を加えて味を調え、最後に「愛情」をつけたしてニッコリと笑う。
「うん、完璧だ」
そばで見ていた本郷涼介は、満足気にうなずいた。
★ ★ ★
「ことことこっと、ことこっと……♪」
楽しげに鼻歌を歌いながら、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)がいちごジャムを煮詰めていた。
作りおきの物でなく、作りたての甘いいちごジャムの香りが周囲に立ち込める。
「焦げないようにくーるくる♪」
丁寧に鍋をかき回しながらも、決していちごの形を崩さないように、あくまでもスプレッドタイプのジャムに仕上げていく。
「このくらいかな♪」
ミルディア・ディスティンはできあがったジャムを冷やしてとろみを増すと、自家製のパンをナイフで切り分けて軽く焼き目をつけていった。
★ ★ ★
「さて、みなさん順調なようですね。こちらも負けてはいられません」
余裕綽々だったジェイドが、コントローラーを手に持った。
レバーを何やら格闘コマンドのように複雑に動かして命令を与えると、メイドロボたちがキッチンの要所に散らばる。
「さて、では調理カードを……」
腰につけたカードホルダーの蓋を開けると、ジェイドが数枚のカードを取り出した。
トランプのように、片手でそれらを扇形型に広げる。
「これとこれにしますか」
そう言うと、ジェイドは選んだカードをコントローラーの溝にあててスライドさせた。ピッピッピーという音と共にメイドロボたちが動きだす。
しゅたたたたたたっと材料を切り刻み、生のまま小さな鍋に入れると、自分のエプロンをめくり上げて何やらごそごそとしまい込み始めた。
「何をやっているんだ?」
明らかにおかしいだろうと、本郷涼介がメイドロボたちが正面から見える所へと回り込む。
チーン。
特徴的なベルの音がして、メイドロボたちが自分のお腹の中からできあがった料理を取り出した。
「ずっこいなあ、電子レンジじゃない」
どうでもいいという感じで、日堂真宵が言った。
「ああ、ずるいんだもん、それって全然メイドらしくないんだよ」
コンテストの主旨に反すると、ミルディア・ディスティンが抗議した。
「まだこの段階では裏方ですから、メイドらしさはこれからですよ」
飄々と、ジェイドは他の参加者からの抗議を受け流していった。
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