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ゴチメイ隊が行く3 オートマチック・オールドマジック

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ゴチメイ隊が行く3 オートマチック・オールドマジック

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「データ落ちは若干あるけれど、許容範囲内か。とはいえ、転送スピードが落ちているのは間違いないな」
 各教室の端末が異常ないかチェックして回りながらセルマ・アリス(せるま・ありす)は言った。パケットロスによってビットレートが落ちているのは間違いがなく、いずれかの回線がオーバーフローを起こしているようだ。ただ、それが回線の物理的切断による物なのか、アクセス過多によるものなのかはまだはっきりしない。
「以前とは障害の内容がまったく違うみたいだな……。ラインが破壊されていっているというよりは、以前復旧した部分の脆弱性が原因か?」
 セルマ・アリスは、姿の見えない小ババ様はひとまず考えないことにして、かつて修理が行われたターミナル部分に狙いを絞ってみた。場所的にも適度の空間があるだろうし、接続部というのは狙いやすいだろう。
 各教室のOAフロアの下などをチェックしていったセルマ・アリスは、移動中の廊下で予期せぬ出会いを果たした。
「まてー、小ババ様ー」
「ゴパパパパパ……」
 逃げて行く小ババ様の群れを、志方綾乃が追いかけている。
「どこからわいた!」
 すぐに、セルマ・アリスも志方綾乃の後を追いかけていった。
「うーん、噂ほどにはかわいくない気が……。でも、飼ったらかわいいのかもな。ほーら、飴をやるぜほらほらほら」
 セルマ・アリスは飴を振り回してなんとか小ババ様の気を引こうとするが、いっこうに効果がない。
「おかしいなあ。飴から生まれたって聞いたのに。好物じゃないのかなあ」
「違います。小ババ様が好きなのは光り物です。ほーら、光る箒ですよー。ほらほらほら……」
 志方綾乃が一所懸命小ババ様を呼ぶが、こちらも効果無しであった。
「それにしても、いったい、どこで見つけたんだ?」
「それが、突然壁を破って出てきて……」
 セルマ・アリスに聞かれて、志方綾乃が答えた。
「あ、前に人がいます。手伝ってもらいましょう。あのー」
 前方に人影を見つけて、志方綾乃が叫んだ。
「はい!? まあ、小ババ様ですぅ!」
 ローラーブレードですーいすーいと進んでいたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)たちが、持っていた野球のバットを振って、その勢いで反転した。だが、間合いが悪かった。
「あっ」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)のバットが先頭を走っていた小ババ様をもろに直撃した。
「ゴパらららららら……」
 吹っ飛ばされた小ババ様が、バラバラになりながら壁に激突する。外皮が破れ、内部メカがむきだしになった。
 ちゅどーん。
 お約束通りに爆発する。
「なんです、小ババ様ではないのですか?」
 驚くフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)にむかって、後続のメカ小ババ様たちがかっと不自然に口を大きく開いた。とっさに逆手に構えた野球のバットに、カカカッとティザーガンのプローブがあたって弾ける。
「これは……、敵!?」
 予想もしていなかった展開に、一同が唖然とする。たまさか木製バットだったからよかったものの、金属バットであったら今ごろはフィリッパ・アヴェーヌは気絶していたところだ。
「あー、見つけましたー」
 爆発音を聞きつけて、逸早くノルニル『運命の書』とトライブ・ロックスターが駆けつけてきた。
「それは偽物ですよー」
 ノルニル『運命の書』が叫ぶ。
「偽物ですか。では、御挨拶しないといけないですねぇ。こんにちはあ!」
 メイベル・ポーターが、先日、イルミンスールでお友達から教えてもらったばかりの挨拶方法を実践した。
 ぐしゃりと、野球のバットの下で、無残にもメカ小ババ様が潰され、小爆発を起こして四散する。
「ああ、メイベルだけずるいよね。いくよっ。こんにちは、こんばんは、おはようございます!!」(V)
 負けじと、セシリア・ライトが軽快に野球のバットを振った。
 ちゅどーん。ちゅどーん。ちゅどーん。
「まあまあ、二人とも、もっと落ち着いて御挨拶しませんと」
 フィリッパ・アヴェーヌが、そろりそろりと隅っこの方を逃げて行こうとするメカ小ババ様を容赦なく野球のバットで一突きにして潰した。
「うわああああ、偽物と分かっていても、胸が痛む……」
 トライブロックスターが、直視できないと目をそむけた。
「あーん、怖いよー」
 恐れをなしたノルニル『運命の書』が、トライブ・ロックスターの身体にしがみついて泣きそうな声をあげる。
「こ、これが蒼空学園七不思議の一つ『血塗られた廊下』なの……!?」
「こ、ここは任せた」
 唖然とする志方綾乃を引っぱって、セルマ・アリスはあわててその場を逃げだしていった。
「俺は、こんなことしかできないのか……」
 背後から鳴り響く爆発音に恐れをいだきながらも、セルマ・アリスは本当に自分にできることはなんなのだと自問していた。
 
    ★    ★    ★
 
「ははははははは、奇跡の配達人、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)、ロ〜ラ〜、ゴ〜♪」
 廊下をローラーブレードで疾走してはいけません……を無視して、クロセル・ラインツァートは蒼空学園の廊下を小ババ様を探して疾走していた。
「小ババ様ー、どこですかー。俺と一緒にイルミンスールへ帰りましょー」
 新たに小ババ様が現れたと知って、クロセル・ラインツァートはイルミンスール魔法学校に連れ帰ろうと固く決心したのだった。
「ここは怖い所ですよー。安全なイルミンに帰りましょー」
「なんだなんだ、何を騒いでるんだ?」
 突然母校の名を連呼されて、高月 芳樹(たかつき・よしき)が呆れ顔でクロセル・ラインツァートを見た。
「あー、いけないのですじゃ。校内はローラーブレードは禁止のはずなのですじゃ」
 伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)が、クロセル・ラインツァートを見て叫んだ。
「今は緊急事態ですから、構わないんです。そう俺が決めました」
 大まじめに、クロセル・ラインツァートが答える。
「あなたも小ババ様を探しているのですか。さっきから放送で小ババ様が出たと言っているので、私たちも探しているのですが」
 マリル・システルース(まりる・しすてるーす)が、落ち着いた態度でクロセル・ラインツァートに語りかけた。
「その通りです。なんとしても、小ババ様をイルミンスールに連れ帰らなくてはなりません。きっと、ここに現れた小ババ様も、今までしぶとく生き残ってきたのですから、進化論に則った突然変異強化型マッスルスペシャルに違いありません。この謎を研究して解明できれば、小ババ様はさらに進化するかもしれないのです」
「それって、どんなのになっちゃうのよ」
 ちょっと怖いと、アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)がクロセル・ラインツァートに訊ねた。
「そうですね。なんでも、相当固い小ババ様のようですから、きっと究極進化すれば細胞が流体金属にでもなっていって、なんにでも変身できたりするのですよ」
 またクロセル・ラインツァートが無茶苦茶なことを言う。
「なんですって、今回の小ババ様はメカ小ババ様だと聞いてたのよ。まさか、そこまで進化していただなんて」
 クロセル・ラインツァートの大声を聞いてやってきた風森 望(かぜもり・のぞみ)が、驚いて叫んだ。どうも、クロセル・ラインツァートは目立つので、簡単に人を集めてしまう。
「これは、絶対に捕まえて研究しないとだめだわ。究極リアルな小ババ様ぬいぐるみ発売のためにはぜひ必要よ。そしてがっぽりと……」
「それはいいのですけれど……」
 野望に燃える風森望の後ろで、ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)が言った。
「おおっ」
 とっさに、男性陣の目がノート・シュヴェルトライテに釘づけになる。
 以前の小ババ様騒動のときに使った服装を、ノート・シュヴェルトライテは今回も使い回しているのだが、それが復興記念コインをつなぎ合わせたドレスというど派手な物なのであった。それだけならまあいいのではあるが、服にコインを貼りつけたのではなく、コインをワイヤーでつなぎ合わせて服にしている物なのであった。そのため、あっちこっちに隙間ができていて、チラチラと白い下着や素肌が垣間見えて、男性諸氏にとってはとってもよろしい……いや、よろしくない仕様となっている。
「どうして、またこれを着なくてはならないのです」
 抗議するようにノート・シュヴェルトライテが風森望に言った。
「あら、以前とはデザインが違いますよ。秋の新モードです」
 しれっと、風森望が答えた。
「そんな詭弁が通ると思って……」
「大丈夫です。ちゃんと下着は最上級のシルクを用意してたでしょう。これで、確実に足止めができますよ。ほら、周りを見てみなさい」
「足止めするのは、小ババ様ですか、男どもですか」
 ノート・シュヴェルトライテの言葉に、男たちがあわてて目を逸らした。
 まったくと、高月芳樹のパートナーたちが男どもに冷たい視線をむける。
「とにかく、その格好をしていれば、今度こそ小ババ様がつられて出てきますよ」
 自信をもって風森望が言った。
「それは難しいですね」
 こんな所に集まって何をしているのかと、通りかかったレイチェル・ロートランドがノート・シュヴェルトライテを見て言った。
「小ババ様対策本部の見解では、今回現れた小ババ様は、本物をまねたロボットだろうということです」
「うん、それは聞いているわ。だからこそ、こうして光り物でおびきよせて確実に捕獲するのよ」
 自信満々で、風森望が答える。
「ですから、性質も本物とは別物らしいので、光り物ではおびき出せないとの報告が多数寄せられたようです」
「それじゃあ、この格好はすべて無駄……」
 がーんと、ノート・シュヴェルトライテがショックを受ける。
「まあ、とりあえずは男は釣れたから……うがうが……」
 そう言うのはこの口かと、ノート・シュヴェルトライテにつままれた頬を左右に引っぱられて、風森望がじたばたともがいた。