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神々の黄昏

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神々の黄昏
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 □マレーナ周辺


 フマナ・戦場――。
 
 荒れ野は絶えず揺れ、沈降し、爆発が次々と起こる。
 いびつに歪み始め、巨大なクレーターを形成してゆく。
 その中心に……おお、見よ!
 無頼の生き神・ドージェは全身に黄金の闘気をみなぎらせ、次々と龍騎士達を屠っていくではないか。
 
 クレーターの淵には、無敵の剣の花嫁――マレーナが控え、セリヌンティウスの生首と共に、この壮絶な戦いの行方を見守っている……。
 
 ■
 
「マレーナ……マレーナァッ!」

 マレーナはハッとしてクレーターの裾野を見る。
 誰かが手を振って、こちらに近づいてくる。
 伏見 明子(ふしみ・めいこ)だ。
 現地集合だったようだ。
 九條 静佳(くじょう・しずか)鬼一法眼著 六韜(きいちほうげんちょ・りくとう)がバラバラと駆け寄る。
 マレーナは慌てて3人に叫んだ。
「危ないですわ、皆様。お下がりになって!」
「そーは行かないわよ! マレーナ」
 明子は駆け足でクレーターを登りきると、マレーナの傍で呼吸を整える。
「ドージェをここで死なせる訳には、いかないじゃない!」
「でも……」 
「聞かないわよ! 退学届を出してまで来たんだもの、 私」
 手伝わせてもらいます!
 明子は無言でマレーナに宣言すると、クレーターの中心部に向かおうとした。
 そこには龍騎士達を蹴散らし、一撃で骸の山を築きあげる「闘神」の姿がある。
 彼が雄叫びを上げる度、大地は共鳴する。
 神話の中の世界がそこにあった。
「何て……何て、綺麗なの……」
 想像を絶する流血の世界は、残酷すぎるあまり、見る物に「感動」すら与えてしまうようだ。
 明子達は暫し時を忘れ、戦いに見入る。
 そして気づいた。
 龍騎士達でも、ドージェの下に辿りつけるものと、つけない者がいることに。
「目に見えないバリアとか? 壁とか?
 何かあるのかしら?」
「ドージェと龍騎士達の生み出した、気。
 いわば『神の闘気』だな」
 セリヌンティウスが解説する。
「何人たりとも入れんぞ、諦めるのだ」
「諦める? そんな! ここまで来て……。
 私達は守るの!
 い、行くわよ! 皆!」
 
 だが、セリヌンティウスの忠告は正しかった。
 明子達は龍騎士のマークを外れたが、『神の闘気』の内には入れなかったのだ。
 
「貴方が無敵なのは百も承知だけど、背中にも目があった方が楽でしょ?
 ちょっと守らせてね」
 距離はあるのだが――。
 明子はドージェに語りかけると、すばやくファイアプロテクト、アイスプロテクト、耐電フィールド、護国の聖域……を放った。
 周囲を警戒しつつ、六韜がヒールを放つ。
「少しは効果あったかしら?」
 交戦する騎士達は、腕力による消耗戦を展開している。
 ヒールはともかく、他のスキルはあまり役に立ったとはいえなさそうだ。
「お前達! 何をしている?」
「やば! 龍騎士達に見つかったわ!」
「大丈夫だよ! このくらいなら」
 龍騎士の面をつけた静佳は、軽身功で敵中を飛び回りつつ、しびれ粉を使って龍騎士達を足止めする。
 明子も交戦する。
 だが、敵は推定4万もの兵。
 精鋭の上に桁が違う。
 3名では囲まれたら、一巻の終わりだ。
 超感覚で敵を観察して、フォローだけでもしたかったけど……。
 明子は唇を噛む。
「くっ!
 でも、ドージェも大丈夫そうだし。
 ここは一時、逃げるしかないっしょ!」
 明子達は小型飛空艇や光る箒に乗って、一目散に逃げ出した。
「いざと言う時は、私達が盾になるわっ!
 だから、ドージェ! ちゃんと帰ってきて……」
 だが『神の闘気』がある限り、彼女達はドージェに近づくことすらできないのだ!
 それが分からぬ明子ではない。
 
 眼下で首を垂れるマレーナの姿を最後に、3人は一旦、龍騎士達の手の届かぬ場所へと遠ざかる……。
 
 ■
 
 少し手前で、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は傷ついた龍騎士達にメイドインヘブンで介抱していた。
 七瀬 巡(ななせ・めぐる)はエンデュアやディフェンスシフトで龍騎士達をプロテクト。
「敵味方なく、救助すること……死者を減らすこと……それが1番だと思わない? 巡」
「うん、そーだね! 歩ねーちゃん」
 巡は頷くものの、どこか覚めた返事だ。
 
 ダメだよー、ドージェにーちゃん倒そうとしてる方助けちゃ。
 
 彼の表情が物語っている。
「でもね、そうすることで、誰かが戦いのむなしさに気づいて……それでやめてくれるかもしれないでしょ?」
 そのためには、行動あるのみ! と歩は本気で考えていたのだった。
「うーん……でも確かに。死んじゃったら、仲良くなるチャンスもないもんね……」
 複雑な表情だったが、巡も手伝い始める。
 
 けれど、現実は残酷だ。
 
「戦いを……やめてほしいとな……」
 何とか意識を取り戻した龍騎士達は、目を合わせずに俯いた。
「お嬢さん、それはできんよ」
「どうして?」
「それは……我々が、『龍騎士』であるからだな。本当に、すまない」
「…………そうですか、ですよね」
 折れたのは歩の方。
 誇り高き龍騎士達は、一時の善意に心を揺らすことはなかった。
 
 ■

 同じ頃。
 エリュシオン派のブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)も、歩と同じく龍騎士達の介抱に当たっていた。
 だが、彼の目的は歩よりは遥かに腹黒いものである。
 用意も周到!
「剣龍の子供」を携えて警戒心を解いた後、傷ついた龍騎士達に近づいたのであった。
 
 が――。
 
「これを、我に?」
 ええ、とブルタは愛想よく笑った。
「死を選ぶのも結構だけど、ここで死んだら無駄死にだよ。
 ここは転進した方がいいと思うよ?」
 はあ、と気後れしつつ、龍騎士は見上げた。
 生きの良い、レッサーワイバーンがいる。
「貴公は大層気前の良い方のようじゃ!」
「じゃ、エリュシオンに戻った後は……」
「ふむ、覚えておこう」
 龍騎士はまだ治りきらぬキズを押さえつつ、ワイバーンに搭乗する。
「だが、それは我が戦場で功をたてた後のことだ」
「え? そ、そそそそんな! 龍騎士様ぁ!」
「さらば!」
 体躯も頼もしき龍騎士は、ブルタのワイバーンと共に、再びドージェの下へと向かってしまった。
 
「はあ、こうなったら、死にかけた者の遺言でも届けて、かの国へ取り入るしかない、よね……」
 溜め息をつくブルタの目に、戦場を前にして方向転換する怪しい人影が目に入る。
「あれは、【龍退治】?」
 メガネを押し上げて、クッと笑った。
「武闘派……面白いことになってきたようだね」