リアクション
* 旗艦よりやや後方に位置していた、中型艦二隻。ここでも周囲に、ばたばたと敵小型艦が騒がしく飛び交っていた。 鋼鉄の獅子の艦。 「第一陣前へ……てぇーっ!」 レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)が叫ぶ。指揮官の一人として、兵を統率する身だ。 そんなレーゼマンの様子を見ているのは、クルツ・マイヤー(くるつ・まいやー)。レーゼマンとは、地球での軍学校時代の同期であり、唯一の友人でもあった男。この出兵から、鋼鉄の獅子へ派遣されてきた……強化人間として。――「こちらもいろいろ人手が少なくてな。よろしく頼むぞ」不思議な形での再会だ、レーゼマンは思いは胸に秘め挨拶をする。「お手柔らかに頼むぜ、堅物君」「チャラ男が何を言うか……期待してるぞ」二人は、言って互いにニヤリと笑む。そんなやり取りが見られた。 「俺もここじゃ新参物だからな。大人しくさせてもらうとするさ」当時の実力は、彼、クルツの方が上であった。……レーゼマンはこの再会にどう接していくか戸惑いもあったが、クルツの方は。「(あの堅物君が加入してるという部隊には興味がある。ついでに可愛い女の子でもいたら大バンザイなんだけどな)」――クルツはそうして獅子に合流したのであった。ひとまずは、 「さーて、お手並み拝見と行きますか」 ということである。 「第一陣下がれ! 続けて第二陣構え!」 艦の反対側では、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の防衛計画により迫り来る敵を打ち返した後、夏侯 淵(かこう・えん)の訓練の成果、射手たちが一斉に矢の雨を浴びせかけた。 「訓練の仕上げのつもりでいくぜ! おお、カルキノス!」 「無事だったのね!」 守護スキルで味方の守備を高めつつ、即天去私の構えをとっていたルカルカ・ルー(るかるか・るー)、艦へ戻ってきたカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)を船に迎える。 「勿論だ。……鴉の被害が大きい。それでも、よく戦ってくれた。 まあ、弔いは後。まずは……」 そしてカルキノスは、背後の雲海からも敵が迫っていることを告げた。 「何。魔物。後方から……!」 戦闘をかぎつけ、死肉を貪ろうと、雲海に落下していく艦を漁ろうとする、おぞましい雲海の魔物の群れである。 このことは、同じく後方に位置するもう一隻にも伝えられた。 こちらNPC兵が大多数を占める一隻は、若干の苦戦状態にあったが、主砲ルノー ビーワンビス(るのー・びーわんびす)の砲撃、乗り込んできた敵相手にはクロス・クロノス(くろす・くろのす)が奮戦し何とかしのいでいた。 ディテクトエビルのスキルを生かし、艦内に敵が入り込むのを感知し、クロスは兵に指示を出していく。 「はぁ、はぁ、そちらへ一人……お願いします!」 「クロスさん!」 隣の艦から、ルカルカの隊よりカルキノスが急報に来ているという。 「はい。えっ。 ……な、こんなときに後方からまだ、……魔物の一群?! ……ですか」 甲板に下りた賊は、数も多くなかったしどうにか排除しきった。だがまだ、周囲を飛んでいる敵が煩い。 このままでは、後方に現れたという魔物に追いつかれる。 クロスは、空飛ぶ箒を持ち出してくる。 「ルノーさん」 「はーいー??」 ルノーは可能な射程範囲のあらゆる方向に砲撃し必死であった。 「ここは、お任せします。私は、空へ……」 「は、はーいー。頭がこんがらがりそーですけど、クロスさんどうか!」 ルノーの援護射撃に紛れ、クロスは後方の雲へ飛び出した。 魔物。どれほどの数の? とにかく、気をそらせることに努めよう。飛空艇に追いすがられては、この状況では振り切れないかもしれない…… そのとき、隣の艦からも、小型艇が飛び出した。味方勢も、魔物を迎撃に出るようである。 クロスは、協力できる味方の存在に少し安心した。 この暗がりの雲海には、不穏で邪悪な気が満ち溢れているように感じられる。一人では、心細い。 乗り物からは、ルカルカが手を振っている。 「ルカルカさん!」 幾らも飛ばないうち、雲の向こうに、幾つもの影が見えた。そこから巨大な、甲虫じみた魔物が飛び出してくる。 「わっ」 クロスはとっさに避け、槍を目一杯振るって打ち付けた。 「く、まだ、まだ来ますね……!」 嘴の鋭い鳥の魔物、翼が三つも四つもある魔物……雲賊とはまた違う者か、黒い影姿を騎乗させている魔物も見える。数は……見当がつかない。 クロスは早速、槍をかまえ直し、それらの周りを旋回した。 「ウワ」「ギャァァァァ」「ピーピー」 その細かい動きに惑わされ、もつれたり、絡まったり、落下していく者もある。それを、別の魔物が啄ばんだりした。 「おぞましい光景ね。早いとこ全滅させなきゃ」 ルカルカは乗り物から身を乗り出し、霊剣・七枝刀を抜く。 放たれた真空の刃が、魔物の羽を切り刻み、騎手を空中へ振り落としていく。 追従する鴉兵の士気をダリルが高める(驚きの歌使用)。 「傷付いた者はこちらへ! 回復魔法もあるから、恐れるな。深追いは、しなくていいぞ!」 淵は、矢を次々と射つつ言う。その周囲をカルキノスが飛び、神の目で敵を睨み弱体化を試みる。弱体化した敵に、鴉兵がまとまって襲いかかる。しかし雲のなかから突如に現れる魔物に、食われる鴉も多い。ルカルカ艇も四方に注意を払いながら避けつつ、魔物を排除していく。 雲のなかでの激しい空中戦となった。 獅子の艦から、その様子は見えないが…… 「ルカルカ……上手くやっているか。 む! さすがに抜け出てきた強者もいるらしい」 艦の周囲はあらかた片が付いた、後方を見守る月島。雲間からここにまで迫ってきた魔物の影を、一つ、二つ、と見とめた。 「まさかやられてはいまいな?」 「とにかくいきますよ悠くん。ボクに任せて!」 翼のガトリングが、魔物を撃ち落としていく。「これくらいの数なら!」 三、四、……五体め! 見事に仕留めた。 最後に撃墜した巨鳥の背から、黒い鎧を纏った者が空へ舞い上がり、艦に下りてくる。 「……」黒色の甲冑姿。 「く、できるな。この相手……放っておけないな」 銃を取り出した月島の前に、翼が立つ。 「悠くん、下がっててボクが」 「……」この黒の甲冑には意思的なものが感じられない。 しかし翼にガトリングを向けられて、おののくでもなく、向かってくるでもなく佇んでいたがやがて、何がしかの感応が見られた。 「これは。魔鎧……」 「悠くん……に?」 鎧はひざをつき、屈服の意を示したようである。 「我が名。マクシミリアン・フリューテッド(まくしみりあん・ふりゅーてっど)……」 間もなく、後方から、ルカルカらの乗った小型艇、クロスの空飛ぶ箒が戻ってくる。鴉兵の数も、統率が執れていたおかげかさほど減っていないと見えた。 彼女らの後を追ってくる魔物の姿は、ない。 「皆、無事か……よかった。よく、討ち果たしたな。 旗艦は? 些か離れてしまった、こうしてはいられないな。早く向かわねば」 * 教導団旗艦はその頃、黒い煙を吐き出していた。機関部に被弾した、らしい。 |
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