シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

第四師団 コンロン出兵篇(序回)

リアクション公開中!

第四師団 コンロン出兵篇(序回)

リアクション

 

現地 6
調査班

 
 三日月島から対岸に着いた、現地調査班。
 ここも、相変わらず夜の暗さ、コンロンの中心に近付くためか更に闇を増しているとも思われた。
 だが、ここは延々広がる平地であり、視界が開けているためか、印象としては、明るい。高い空を、やはりちぎれた雲が、流れていく。
 ひんやりとした空気が、地表を伝って流れているのがわかる。
 ここから、調査班の冒険は始まることになる。
 

 
「地理情報が不確かですから、余計に気がかりですね」
 グロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)は、皆と別れ、パートナーらと三人でコンロンの平野を歩き始めた。
 円卓から大雑把に書き写してきた地図を手に広げ、レイラ・リンジー(れいら・りんじー)アンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)と一緒にそれを見る。
「大まかにでも、街道や町の位置がわかると色々便利ですので、道々記録しながらいきましょうね」
 ざっと見渡してもどこかでも平野。街道らしきものはなく、何を目印に進めばいいのか……
「……」「……」「……」
 無言で進んでいく三人。自衛程度の武器を持つに留め、一般旅行者を装っての旅だ。
「とくに、食糧が生産されているような街を見つけられるといいですね」
 現在、手元にある情報は、協力的な軍閥に関してのみだ。コンロン全体の情勢を改めて教導団サイドから見て、どうなっているのか、それを知っておいた方がいいだろう。そう思っての、調査の願い出であった。
 そしてここに、エリュシオンが干渉しようとしている、と聞く。と、レイラがフリップに書いて掲げた。
「何をやってるんですか、レイラ……?」
 レイラは続ける。コンロンにおいて、シャンバラ(正確には西シャンバラ)とエリュシオンそれぞれの意向を受けての代理戦争が行われる可能性が高い……のではないか。レイラは、「代理戦争」と大きく書いて掲げた。
「できることなら避けたいですね」
 グロリアはフリップに応えて言う。
「どうやら今回も、ここに入って軍用無線は使えなさそうね。
 ある程度調べたら、クレセントベースに戻るべきだわ」
 アンジェリカはそう言うが。
 グロリアは、はっとしてもう一度地図を広げる。三人で覗き込む。
「……」「……」「……」
 ここが何処なのか、もうわからなくなっていた。
 三人が黙ったままずっと地図を覗き込んでいると、上空を何かが飛び、横切っていく。大きな鳥……龍?
 

 
「さて、自分たちも潜入調査と参りますか」
 天霊院 華嵐(てんりょういん・からん)の組もまた、パートナー三人での旅であった。
 参謀科・天霊院の普段の姿からはなかなか想像できない、流れ者の傭兵の格好で出発した。
「よし、ちょっと先の方を見てくるぜ」
 天霊院 豹華(てんりょういん・ひょうか)も同じく一傭兵として。その姿はよく似合っている。
 オルキス・アダマース(おるきす・あだまーす)は相変わらず、可愛い竜として二人の間を飛んだり行き来している。「か、可愛くない! 竜なんだって!」
 華嵐は、方角を北東と決めて歩いていた。
「まず勢力分布の把握、それに地形情報……」
 北東へ向かえば、コンロンの中心に近付く。街もあるだろうし、おそらく他の八軍閥の勢力もある筈……できれば、中立か様子見を決めている軍閥に接触したい。そう思っていた。そのためには、軍閥にいきなり潜入するよりまず、一般に出回っている情報を集めたい。
「情報の分析が今後のコンロンでの活動の鍵になる。そして……情報の偏りがあるならば、そこに何かがある……」
 まずは豹華がローグスキルをもって、偵察を行うのが基本スタイルだ。
 延々と続く平野。
 数日、野宿を過ごした。
「んー。この地形からするとあの辺りに……」
 北東へ進んでいると、再び内海が見えてくる地点があり、更に進むと河になっていくらしい。
「町が? 豹華。本当か」
 河が内海に流れ出す地点に町があるようだという。河岸に灯かりが連なっている。小都市かもしれない。
「裏(社会)の方の情報とか集めるのはオレに任せてくれよ。
 華嵐たちは表の方の情報集めよろしく」
 豹華は町の影に消えていく。
 華嵐とオルキスはゆっくりと町の外れに近付く。大きな館。館の外に、古びた工芸品や美術品のようなものが置かれている。
「お〜! すご〜い! あって。あれなになに〜。わ〜、これお土産に……」
 はしゃぐオルキス。手にとってみると、どれも破損している。
「ハッ!? ち、ちがうぞ。楽しんでなんかいないぞ? ちゃんと分析してるんだぞ?」
「廃墟か……」華嵐は冷静に周囲を見渡す。人の気配はない。まだ、灯かりの照らす方までは距離がある。
 やはりまず、人に会わなければ仕方ないか。華嵐は、町の方に向けて歩いていく。
「なにか使えそうなものないかな〜どれも壊れてる。あれっ。待って〜!」
 そのとき、
「!」「な、何。あ、なんか竜的に悪寒……」
 上空を何かが飛んでいく。確かにあれに比べるとオルキスは可愛い。あれは……飛龍か。町の方に、下りる。
 

 
 道明寺 玲(どうみょうじ・れい)イルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)の二人旅である。
 名目は観光。
 二人も、慎重な旅の後、町と思しき明かりを見つけると、そこへ向かっていった。
 道明寺は、敵対することになる軍閥の方に、目を向けている。
 彼らにも大義があったのかもしれないし、義ある者たちであればそれが共感に値するかもしれない。そうであった場合に、教導団員としてどうすべきかはまだ、考えてはいないが……。
無論、教導団であることは表明するつもりはないが、もし、相手が本当に義ある者であれば、あえて隠す必要もないかと思っている。それか、個人的に協力しつつ相手を見定めるか。それが、教導団にとっての有益につながるかもしれない。
 本当に誰が敵なのかなんてことはまだわからないのだし、無駄に敵を増やすことはなるべく避けたい。
 黒い町の入口付近に明かりのもれていた酒場らしき店の戸を叩く。
「茶は心を癒しますな」
 酒場のマスターがお茶をトン、と置く。「観光? 珍しいな。至極珍しい」陰気な声で言う。
 マスターは黒い衣に身を包んでいるが、覗かせる顔はシャンバラ地方とも変わらない人間のものと思われた。
 道明寺はよい茶がないか等から問うて雑談をしてみた。そういった自身のわかる趣味の話をしていた方が、カモフラージュになると。
 イルマの方は、コンロン饅頭だという真っ黒い物体をパクパク口に入れている。カモフラージュも何も、素だ。
 周りにいる客も、皆陰気な黒い衣の者たち。変わったふうな者はいない。姿はこの地方の日常の格好なのだろうか。
 誰かが入ってくる。
 この者たちと姿が違う。甲冑とその紋章は?
 町の外で、何かの嘶きが聞こえる。
 龍騎士か?
「変わりはないか」
「……ええ、まあ」
 敵対する軍閥に接触するとは言え、いきなりエリュシオンの龍騎士はまずいのではないか。
 道明寺は、平静を装い、茶を啜る。饅頭を食い続けるイルマの口をふさぐ。「もが! もが!」「しっ。静かにするのです……!」
 こちらに、気付かないか。やつら。……
 

 
 こちらはナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)音羽 逢(おとわ・あい)との二人旅だ。
 武芸者・音羽逢と、そのメイド・ナナとして……
 久方ぶりにナナ様とご一緒なのはいいで御座るが、拙者が主でナナ様が仕えるなど……逢は道中もそう思いつつ、
「うぬぅ、通常ならば反対致すところだが」
「?」
「い、いや何でも御座らぬ……」
 ナナ様たってのご命令ならば致し方ないで御座るな。
 拙者、見事旅の武芸者を演じて魅せるで御座るよと、気合十分なのだが、ひとまず、武芸者を演じて何か情報を得るにも人に出会うことなく、また、実際の武芸を演じる敵にもこちらはさいわいか出遭うことない。
 平野が、延々と続いていくばかり。
 分裂した何れかの軍閥に接触できることをと、望んでいた二人。
 二人もまた町に辿り着き、一軒の酒場に入る。上階が宿になっているらしかった。
「旅人かい?」
「武芸者をしているで御座る」
「隣の嬢ちゃんは?」
「その、拙者の……メ、メイドで御座るよ(ナナ様御免)」
「武芸者とメイドねい。
 まあ、情勢が悪化してくるからね、あんたらみたいにどこから流れてくるのやら、……と失礼、とにかく流れ者の傭兵がけっこういるよ。
 この宿にも何人か泊まっているね。
 軍閥の一つが、帝国と結んだ話は知っているかね? 恐ろしい龍騎士と戦える戦士を、対立する軍閥が探しているんだ」
「拙者のような武芸者でも会ってもらるで御座ろうか」
「ああ。何やら戦士同士戦わせて優秀な者を雇うとか、そういう話があるそうだよ?」
 

 
 コンロン北岸の、平野の上空を飛んでいた宇都宮祥子(うつのみや・さちこ)ら一行。
 内海を渡って、まだすぐのときであった。
「何か来る?」
 東の空から……
 静かな秘め事のディテクトエビルが反応するが、「かなりやばいんじゃない。この感じ……」
 点のように見えたものが急速度で近付いてくる。
「鳥。えっ。もしかして、龍……」
「祥子。退避だ!」
 セリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)は慌てる。
 湖の騎士 ランスロット(みずうみのきし・らんすろっと)は武器を構えようとするが……「お、落ち着け! 龍一匹程度なら、逃げられずとも私たちの力で!」
 龍。
 その上に、人影も見える。
「龍、騎士……?」
「だめだ」
 一騎じゃない、後続に三騎、四騎、まだ来る……。
 すでに、エリュシオンはコンロン軍閥を接触している。
 コンロンの上空を彼らは行き来しているのだ。
 

 
「教導団第四師団付秘書、御茶ノ水千代(おちゃのみず・ちよ)!」
「な、何教導団!?」
「はい。三日月島への教導団来訪により、エリアでのパワーバランスが崩れ、戦いの激化が予想されます」
「三日月島に、教導団が来ている……!?」
 千代は、早々に軍閥に接触に行った。目的は真っ向からの平和交渉だ。
「今、コンロンでは軍閥が相争っていると。
 この地で暮らす民のためにも、一旦矛を退き、専守し情勢を見るよう、お願いしたく思うのです」
 千代は、南部平定戦を帰還し、その後も何度も戦塵のなか砂塵のなかの日々を思い出していた。
 私たちは運がよかったと。……合流できなかった難民たちのなかには、吸血鬼に襲われ、死して尚生きる屍として扱われた者も。……
 改めて思うのだった。あの事態をそもそも防ぐことができなかったのかと。
 千代は自分の思い上がりなのかもしれないと思った。「(一人の力なんて限界がありますし、私にできることなんてそう多くはないですし……)」
 でも……!
 それでも、これ以上争いに巻き込まれ、死にゆく人たちの姿から目を背けたくない!
 だからこその、あくまでも一般市民の戦争被害回避を軸にした説得であった。教導団との軍事要請や軍事協力を求めるわけではない。あくまで……
「……ほう。ご苦労であるな。しかしな」
 千代は、やはりダメか、と思う。軍事勢力から見れば「何をバカなことを」を相手にされないかもしれないことは、わかっていた。それに教導団からしてみると無謀&暴挙な上背任行為なのかも……
「我々の軍閥には、強い味方がすでにおってな」
「え……っ」
「それでもう他の軍閥に負けることはないのじゃ。
 わかるかの。龍騎士が味方についておるのじゃからのう! ところで、教導団は何しに来たのじゃあ。戦争を止めにきたということか?」