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静香サーキュレーション(第1回/全3回)

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静香サーキュレーション(第1回/全3回)
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【×4―2・幽霊】

 真白雪白と由二黒は、校門前で待たせていたふたりのパートナー、アルハザード ギュスターブ(あるはざーど・ぎゅすたーぶ)サングレ・アスル(さんぐれ・あする)の元を訪れていた。
「せっかく百合園に来たのになんで筋肉トカゲと待機ぴょん?! 罰ゲームぴょん?!」
 などと文句を言ってギュスターブにシメられていたサングレを、すんでのところで救出した後、改めて今後のことを話し合いはじめる。
「えっとね。それで校長室に幽霊が出るのは、本当らしいんだよ。目撃した人もたくさんいるみたい」
 今回のループでも亜美に校内を案内して貰って様子をみていた雪白なのだが。前回と違い、亜美と別れてからは食堂へ向かわずこの場にきている。
「私は、この幽霊がループに関わってるとおもうんだけど。みんなはどうおもう?」
「まあ違っていても校長室に行けばなにかわかるんじゃないか」
「そうね。でも幽霊なんて、いかにも何かありそうよね」
「ボクもその幽霊怪しいとおもうぴょん!」
 パートナーたちの同意も得られたところで、雪白は校門前に泊めていた迷彩塗装ずみの小型飛空艇オイレにまたがり、
「じゃあ、サングレ。なにかあったら召還するから」
「わかったぴょん……って、あれ? やっぱりボクは待機ぴょん!?」
 ちょっと涙目のサングレを置いて、雪白は飛び立っていった。アルハザードも隠れ身をしつつ小型飛空艇ヘリファルテで後を追い、由二黒も自身の翼でついていく。
 そうして彼女らが密かに百合園の空を駆け。雪白とアルハザードは、校長室の外窓の壁際に。由二黒だけは屋根の上へとそれぞれ着地する。
 そのまま雪白が自らの影に気をつけながら室内の様子をうかがうと、中に誰かがいることに気づいた。
 校長室にいるのはミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)
 彼女もまたつい先ほどループに気づいたひとりなのだが、
(参ったな。いったい何でこんな事が起こっているんだか。魔法が原因か? それとも他の何か、超常現象とかもっとオカルト的なものとかか?)
 と、しばらく考えにふけった後。天啓がひらめいた。少なくとも彼女の中では。
(……おお! ピーンと来たぜ! そういえば最近、幽霊が出たって噂になってたよな。これはきっと、その幽霊の仕業に違いないぜ)
 というミラクル発想に至り、そして現在校長室である紙を広げていた。
 そこに描かれているのは、鳥居のマークと『はい』『いいえ』『男』『女』の表記。その下には五十音がひとつひとつきっちり記述されている。
「これこそ噂に聞いた日本の伝統霊話儀式『こっくりさん』! 幽霊と話すことができるなんて、日本には便利な儀式があるもんだな」
 外にいる真白は、それを聞いて多少認識が間違っていると言いたくなった。
「ここからどうすればいいんだっけ。えーと、確か」
 手順を思い返しつつ、用意しておいた十円玉を鳥居の上へと置き、それに右手の人差し指を乗せて肩の力を抜いていく。
「こっくりさん、こっくりさん、おいでください」
 このとき。自分のおぼろげな知識だけで行なっているミューレリアは、既に間違いを犯していた。
 それはひとりでこっくりさんをしてはいけないというものである。
 辛うじて見物人に雪白達がいる形になっているので、その禁忌は犯されていないと言えばそうかもしれないが。そんなことより重要なのは、
 既に十円玉がぶるぶると動き出したということにあった。
「おお、凄ぇ! ほんとに来た!」
 ミューレリアがひとりで騒ぎ出したのを見て、雪白達は彼女がひとり芝居でもやっているのかと思ったが。やけに嬉しそうな様子に、本当にこっくりさんが成功しているのかもとも思った。
「こ、こっくりさん。なにか私に伝えたいことはありますか?」
 緊張しながら問いかけると、十円玉は『はい』の表記に動いた。
「じゃあ、それはなんですか?」
 今度は五十音のほうへと移動し、『た』『す』『け』『て』と動いて停止した。
 ミューレリアは額に汗が流れるのを感じながら、指を離さないよう注意しながら左手でぬぐう。
「助けて? 助けるには、どうすればいいんですか?」
 今度は『わ』『か』『ら』『な』『い』と移動する。
「んん、困ったな。じゃあ助けられそうな人に心当たりは?」
 その質問に対しては『し』『す』『か』と動いた。心なしか今のは、十円玉のスピードが速くなったように感じて、また汗が噴き出してくる。
「しすか? もしかして、静香校長のこと?」
 すぐにまた『はい』に動く。
「なら、校長に任せておけば大丈夫ってことかな? それならそれでいいんだけど」
 その呟きには、十円玉は戸惑うように『はい』と『いいえ』の間をうろうろしている。それを見つめながらミューレリアは、指が尋常じゃなく震えてきていることに気づいた。
 相手が友好的な幽霊とみたからこそ、こうしてこっくりさんに挑めているものの。元々ホラー映画などが苦手なところがあるため、そろそろ精神的にキツイのを自覚する。
 こっくりさんは精神が不安定なときにするべきでないという掟を思い返し、
「こっくりさん、ありがとうございました。お離れください」
 やむなく終わりの言葉を紡いだ。
 すると十円玉は鳥居へと戻り、ぴくりとも動かなくなった。
「ふぅ……これで、いいのかな。なんかすごい疲れたけど」
 深く息をつきながら、十円玉とこっくりさんの紙を片付けていく。
 このまま校長に任せるべきか、自分でも何かしたほうがいいのか悩みながら、ひとまずミューレリアは校長室を後にすることにした。
「ダメだな。戦闘を前にすると気持ちが高ぶっちまう」
 今の緊張感にあてられたのか、ギュスターブがそんなことを思う中、
 今度は近くの廊下から、なにやら話し声が届いてくる。
 雪白達は校長室から意識を外さないようにしつつ、耳を傾けてみた。
「ごめんなさい、すこしお話を聞かせていただきたいのですけれど」
「最近の〜不思議な〜出来事や〜変わった〜出来事〜、見た夢とか〜噂話とか〜、とにかく〜なんでもいいですから〜聞かせてくださいな〜」
 百合園の女生徒と話しているのは神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)と、プロクル・プロペ(ぷろくる・ぷろぺ)エレア・エイリアス(えれあ・えいりあす)アトラ・テュランヌス(あとら・てゅらんぬす)達。
「え、えっと。そう、言われても、わたし、あまりくわしく知りませんよ?」
「構いません〜どんなささいなことでも〜」
「そ、そうですか? では……」
 おどおどした様子で質問を受けていた女生徒は、コホンと軽く咳払いをしたあと、
「最近なにかおかしな既視感を感じる人が多くいるみたいです。かくいうわたしもそのひとりなのですがなにやら一日がループしているという意見もあるみたいです。中には静香校長やラズィーヤ様がループの秘密を握っていると言う人もいるようです。それと夕時にここの校長室に幽霊が出るという噂がありそれがループの鍵という話もでています」
 一気にそこまで十秒で言い切った。
「わ、わたしが知っているのは、そ、そのくらいです。本当かどうかは、わかりませんけれど」
 エレン達は、あまりに話し方の違う女生徒に面食らった。
「ありがとうございました〜。あ〜そうです〜西川亜美、という〜生徒さんについて〜なにかご存知ですか〜?」
「さ、さあ。わたしは知りません。それでは、失礼しますね……」
 その女生徒の背中を見送り、角を曲がって見えなくなってから。
「……なんだか高低差の激しい人でしたわね」
「おお〜! とりあえず、頭に叩き込んでおくのである〜! エレンが分析するのに役立ってみせるのである!」
「ふふふ〜でも〜本当に〜面白い〜話し方の〜人でしたね〜」
「エレアもあまり人のこと言えないだろ」
 そんなことを話し合いつつ、四人はそのまま校長室へと足を踏み入れた。
「さて、どうしたものかしら。このループする世界……本当に私たちの世界なのかしらね。誰かの作った檻、偽物の世界に閉じこめられてるんじゃないかしら……」
 ぶつぶつと呟くエレン。
「ここに幽霊が出るのであろうか? 見たところ今はそれらしいものは影も形も見えないようであるが」
 室内を観測するプロクル。
「うーん、でもなんか変な気配がする……気のせいか?」
 超感覚で、辺りを探るアトラ。そのセリフに外の雪白たちが思わず縮こまっていたが、
「とりあえず〜、歩きどおしで疲れましたし〜、幽霊さんを待つ間〜集めた情報を〜分析してみましょうよ〜」
 エレアの一言で、注意は逸れたようだった。
 言われた通りプロクルはメモリープロジェクターで空中に映像を再生する。
『あれマジなんだってさー、校長室に幽霊が出るってやつー』『え? ガセじゃなかったそれ』『誰かが幽霊退治をしたって聞いたわよ?』
『逢魔が時の幽霊……怖いですわよね』『嘘だとしても恐怖が消えてくれませんわ』『わたくしなんか、本当に一度見てしまいましたのよ』
 映し出されたのは、彼女たちがこれまでに行なった聞き取り調査の内容だった。しかも、それはあくまでプロクルの記憶の中に存在する情報であるため、これまでの回帰した世界の映像もちゃんと残されている。
「やはり大半は、幽霊騒ぎの話ですわね」
「女の子は〜オカルトとか〜好きですものね〜」
 エレンとエレアは心理学や記憶術を駆使して分析し直していく。
 途中、すこし焦った様子のアリア・セレスティと遭遇した場面が映る。
『おかしな出来事? ちょっと説明しにくいな……それより、ナイフを持った金髪の子を見かけませんでした? え? それだけじゃわからない? ごめんなさい、私も顔をちゃんと覚えてなくて。あ、それからラズィーヤさんに会ったら、絶対に夕方校長室には行かないよう伝えておいてくれますか?』
「彼女、なんだか普通じゃない様子だったけど。もう少し詳しく話を聞いておくべきだったかな」
 アトラもなにか変化や兆候がないかをしっかりチェックしていく。
『ボクは、西川さんと一度話をしたんですけど。彼女はなにかを隠している節がありました。間違いありません。すべての鍵は彼女が握っています、きっと』
 姫宮みこととの会話も入っていた。
『そういえば亜美さんは元々日本の百合園に通っていて、こちらにいらっしゃったのは、シャンバラが東西に分かれてからだそうですわよ』
『彼女のパートナーって魔導書らしいわ。あんま見かけたことないけど』
 それから続々と亜美の話題が流れていき、
「そういえばあの西川亜美って人、静香校長といつ仲良くなったんでしょう?」
 アトラは何気なく呟いた。
「プロクルの記憶には、そのあたりのことは記録されて無いよ」
「校長先生は〜あれでいて〜交友関係の〜広い方ですからね〜」
「その人からも、話を聞ければよかったんですけれどね」
 エレンは、ふと置時計に目をやるともう四時になっていた。
 そして。その視線の端にある鏡台に、ぼんやりと女性の影が映っているのに気がついた。