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リアクション
【×4―1・変化】
気がつくと、静香は自分のベッドの上にいた。
「…………また、繰り返してるんだよね」
落胆する反面、ループしてくれてよかったという思いも抱いていた。
だが亜美の言っていたことも同時に思い出される。本当は、ラズィーヤが死ぬことを望んでいるのではないかと。
「本当に一体全体、なにが原因でこんなことになってるんだろ。いつまでも悩んでないで少しは行動しないといけないのかな」
そう決意した静香は、がばりとベッドから起き出した。
……と、勢い込んだものの。
午前中は校長の業務をこなさねばならないため、大したことはできず。
結局これまでのループと同じく、暇ができたのは十二時になってからだった。
食堂に入ると、ラズィーヤの姿が見えた。
(今回は、予告状の一件は発生しなかったのかな。やっぱりそのときそのときで、色々変化していくみたいだね)
考えに没頭して佇んでいると、ぽん、と肩を叩かれ。
振り返ると橘 美咲(たちばな・みさき)が笑顔で立っていた。
「お昼、一緒しましょうよ」
にこにこで同じテーブルに誘ってくる美咲に、静香はここは敢えて今回はラズィーヤとわかれて食事を共にすることに決めた。
メニューも今回は美咲と同じAセットを頼んで、なにか変化が起きないかと思うものの。この程度では、ラズィーヤが殺されるのを防ぐには至らないんだろうなとも思った。
「前々から食が細い方だとは思っていましたが、今日は一段と食が進んでいませんね……何か悩みでもあるんですか?」
指摘されたとおり、一緒に食事をし始めてからまだろくに手をつけておらず。
どうにも喉を通りそうにないとして静香はフォークを置き。これまでのことであり、これからのことでもある、難解な現状について話していった。
「え!? ラズィーヤさんが殺される!? それも何度も!? え? ループ?? ループって何ですか!? 同じことが何度も何度も繰り返されている!!?? 何でそんな大事なこと今まで黙っているんですか!! もっと早くに言って下さい!」
話が進むうち、あまりの興奮で静香にヘッドロックをかましはじめる美咲。
「ちょ、ちょっと待っ……ギブ、ギブ!」
「それでラズィーヤさんは何時何分に殺されるんです!?」
「さ、さあ……夕方なのは、たしかだと、おもう……けど……ちょ、ホント、離……」
「判らない? それじゃ静香校長は何時にラズィーヤさんの遺体を発見するんです?」
「よ、四時……半くらい……」
美咲はすぐさま静香の頭を解放して柱時計に目を向ける。
針は十二時十五分を刻んでいた。
「OK! 判りました! それじゃ今から静香校長の手でラズィーヤさんを守りましょうッ! 同じことの繰り返しなら、いつもと違う行動をすれば良いんです!」
「ぜぇー……ぜぇ……そ、そうだ、ね」
「あ、一応聞きますけど、私とこの話をするのも何度目かですか?」
「はぁはぁ……初めて……だよ。でも、ちょっと行動を変えても、どうせまた同じ結果になるかも」
「そんな弱気なこと言わないで! あなただけが頼りなんです!! あなただけがラズィーヤさんを助けられるんです! お願いですから、自分一人で抱え込まないで皆に相談して下さい! そして皆のことを頼って下さい!!」
美咲の必死さに、近くのテーブルに座る生徒は何事かという表情をしてきているが。
彼女はそんなことはまるで気にする様子もなく思いのたけをぶつけていく。
「きっと同じことの繰り返しなのは、その未来を静香校長も望んでいないってことだと思います。それがどういった力によるかは判りませんが、これだけは判ります! 私も皆もそんな未来は望んではいません!!」
「………………」
「だから取り戻しましょう。皆が笑い合える、そんな未来を」
そこまで一息に言って静香校長に笑いかける美咲。
静香は、なんと答えるべきか迷いながらも、肯定の意思を示そうと口を開きかけたが。
「なんだか興味深い話をしてるわね」
遮るようにして、いつの間にか隣に座っていた亜美が口を挟んできた。
「でも、その繰り返しこそが静香の願望って可能性もあるかもしれないわよ。静香はいつも、ラズィーヤのオモチャにされているじゃない。だから、これまでのストレスを発散しようとしてるのかも」
空気を壊す亜美の言い草に、美咲はムッと不機嫌な目つきになる。
「そんなはず……ない、よ。じゃあ、僕はもう行くから」
強引に切り上げるようにして、静香は逃げるように食堂を出ていき、美咲も後に続いた。
そして、その掛け合いを今回もクリスティー・モーガンは聞いており。再びラズィーヤを探しに向かうのだった。
同じ食堂内で神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)とミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)は、奇妙な感覚と苺のミルフィーユを味わっていた。
「あれ? 私、さっきも、その前もお茶の時間をしてて……その度にこのミルフィーユ、食べてたような?」
「お嬢様も気付かれましたか? はい、わたくしも気付きましたわ。どうもわたくし達、ずっと同じ状況を繰り返しているようですわ」
加えて今しがたの静香のやりとりを目撃し。
声をかけようともしたが、何だか声をかけづらい雰囲気なのを察し、結果。
「行きましょう」「そうですわね」
ミルフィーユをきちんと食べ、ふたりはそっと静香を尾行することにした。
「それで、このループっていうのは気づいている人が他にもいるんですよね?」
「うん。ただ、これまでのループで協力してくれた人が、今回のループではそのことを覚えてないっていうケースもあるみたいだけど」
歩きながら相談中の美咲と静香、そして後をつける有栖とミルフィ。
そんな彼女達の前方にやけにてきぱきと掃除を行なうメイド姿の高務 野々(たかつかさ・のの)がいた。彼女のやり方は、まるでどこにゴミがあるのかわかっているかのような手際のよさで静香たちの注目をいやでも集めていた。
「さて、掃除はこんなものでしょうか」
事実、前回のループでそれに気がついた野々はこれから行動を起こすつもりでいた。
「なんだか面白いことになっているようですし、存分に楽しむとしましょうか」
(と言っておけば、この状況を生み出している人物に気取られずにすむでしょう)
言葉と心境で裏腹なことをつぶやく野々。
もちろん心の方が率直な気持ちで、見た目校舎を楽しそうにスキップしてはいたが、それでいてしっかりと目は事件のピースを探しに動いていた。
静香はこのとき、野々に結局声をかけることはしなかった。
「こんにちは〜、静香校長」
「わっ!」
そのかわり神代 明日香(かみしろ・あすか)が静香に声をかけてきた。
「どうしたんですか? 何だか様子がおかしくみえますよぉ」
「え、そ、そうかな?」
「あぁ。ループのことですねぇ?」
「エ!? ド、ドウシテソレヲ」
驚きのあまり、カタカナじみたカタコトになる静香。
「あなたも、ループについて知ってるんですか?」
「ええ、まぁ。それでぇ、さっきのループと違う行動をとっているおふたりを見かけて、声をかけたというわけですぅ」
美咲に説明する明日香は、そのまま話を続けていく。
「それにしても、このループって一体なんなんですぅ? 静香校長なら、なにかご存知なんじゃないですかぁ? ことの始まりとか、今日という日の終わりとか」
「そ、それは僕にもまだよくわかってないんだ。いつもラズィーヤが殺される……現場を見た後、携帯電話をとると同時に意識が遠のいて。気がつくとまた朝で、ベットで目が覚めるんだよ」
殺される、のところでわずかに唇を噛み締めた静香。
「なるほどぉ、となるとその電話を……」
明日香はなにやら小声で呟いたかと思うと、いいことを聞けましたと礼を述べ、どこかへと走っていってしまった。
「やっぱり、そこかしこにループを把握してる人がいるみたいだね。なら、いっそもっと仲間を集めたほうがいいんじゃ」
「でも、校長として生徒の皆を危険な目に遭わせるわけにはいかないよ。それに、僕なんかに協力してくれる人が都合よく何度も現れるとは思えな「あの」
静香のセリフを聞き終える前に、有栖とミルフィはもう声をかけていた。
美咲はいきなりの闖入者に、身構える姿勢をとるが、
「失礼致します。えっと……こそこそ嗅ぎまわるような事をしてしまってすみません。校長先生もこの状況に、気付いていらっしゃいますよね?」
「え?」
「私たちにも、事態の解決に協力させてもらえませんか」
「わたくしたちとしては、ラズィーヤ様が殺されるのを阻止すれば、ループを抜け出せるのではとおもっております。人手は多いほうがよろしいでしょう?」
敵意のないのがわかり、美咲も警戒をといて、また静香に笑顔を向ける。
「ほら! こうして仲間になってくれる人がいるじゃないですか。一緒にがんばりましょう、静香校長!」
静香は視線を逸らせて相変わらず返しに困っていたものの、それでも彼女達の同行を拒否するようなことはしなかった。
と、逸らせた静香の視線に離れの庵が見え。そこでは前回同様、琴里と歩とローザマリアが話をしていた。
ただ。前回と違って、ローザマリアは琴里にラズィーヤが誰かに恨まれたりしていなかったかなどの動機について聞いていた。
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