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リアクション
●アメイアとの交戦地点
アルマイン搭乗の生徒たちと、巨大化したアメイアとの長きに渡る戦いにも、終止符が打たれようとしていた。
(……イルミンスールの機動兵器のことを私がよく知らぬとはいえ、貴様らがこれほどの力を引き出せるとはな……)
自らの回復力を上回る勢いで攻撃を加えてくる生徒たちに、アメイアは初めて、戦慄を覚える。
(だが、私が一度決めたことを、今更覆せぬ! 従わざるを得なくなった同胞の無念を、私が晴らすと決めたのだ! その為にはあのイコンが必要なのだ!)
しかし、闘志まで力尽きたわけではない。
アメイアが、今は遠くなってしまったリンネたちの乗る機動兵器のある方角を見つめ、心に呟く。
(さあ、来るがいい! 私は最後まで、正面から戦い続けて見せよう!)
その方角からやって来る数機のアルマインへ、アメイアが迎撃態勢を取って出迎える――。
「フィリップ君! 大丈夫!?」
アルマイン・マギウスで駆けつけたフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)の目の前で、ようやく『魔王』がその身を起こし、二本の脚で地面を捉え、立ち上がる。
西洋の騎士甲冑を着込んだようなその外見は、アルマインよりも一回り大きいこともあって重厚な雰囲気を醸し出していた。
『う、うん……ありがとう、フレデリカさん。皆さんも、僕たちを助けてくれて、ありがとうございました』
通信を介して、フィリップがフレデリカや他のアルマインに乗る生徒たちに礼を言う。
『おやぁ〜? フィリップ、いつの間にこんな可愛い子と仲良くなってたのさ! 詳しい話聞かせてもらおっかな!』
『ルーレンさん、違います、これは――』
横からルーレンが顔を覗かせたかと思うと、フィリップを画面外へ引っ張り込む。
おそらく画面外では、話を聞かせてもらうという生易しいものではない光景が展開されているようだ。
『よ〜し! 遅れちゃったけど、リンネちゃんたちも戦闘に参加するよ〜! モップス、準備はいい!?』
『言うと思ったんだな。ま、ボクはリンネに従うだけなんだな』
「ちょ、ちょっと待って! アメイアは皆さんを狙ってるんですから、今行くのは危険です! 戦闘は他の皆さんに任せて、皆さんはここで――」
じっとしててください、私も一緒にいますから……そう言葉を紡ごうとしたフレデリカは、モニターに復帰したフィリップに言葉を遮られる形になる。
『お願いします、行かせて下さい。
危険なのは分かっています、だけど……このまま一方的に言い様にされたままじゃ、僕だって気が済みません。
出来るか分からないですけど、一発、あなたは間違っているって、言ってやりたいです』
『お? 言うねぇ、フィリップー。気になる子の前だと頑張っちゃうタイプ?』
『茶化さないでください! ……迷惑をかけてしまうかもしれませんが、よろしくお願いします!』
頭を下げるフィリップにそこまで言われては、フレデリカも止める言葉が見当たらない。
アメイアに一発ガツンと言ってやりたいのは、フレデリカも同じであった。
「分かったよ、フィリップ君。私と一緒に行こ?」
『フレデリカさん……ありがとうございます!』
パッ、と笑顔を浮かべて告げるフィリップに、フレデリカの顔が炎のように赤くなる。
(……フレデリカ、すっかり恋する乙女な感じですね)
(まあ、よかろう。私もアメイアとやらに言っておきたいことがあるのでな、フレデリカに協力しよう)
(ええ。私も、フリッカが好きなように動けるよう、できることをいたします)
成り行きを見守っていたルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)とグリューエント・ヴィルフリーゼ(ぐりゅーえんと・う゛ぃるふりーぜ)が頷き、フレデリカに従う旨を確認する。
そして、『魔王』を中心に、周りを数機のマギウスが援護に回れるようにして、アメイアの下へと向かっていった――。
「あんた、自分の言ってたこと覚えてるわよね? やれるもんならやってみろ、いいわよ、やってやろうじゃない! 泣いても知らないわよ?」
茅野 菫(ちの・すみれ)とパビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)の乗るブレイバーが、蜂の外見そのままに素早い動きを見せ、アメイアの攻撃を避けると同時に、人間がそこに攻撃を食らったら痛がるであろう箇所を狙ってカノンの接射を見舞う。
それらはアメイアの腕や脚によって防御されたり逸らされたりするが、そういう行動に出るということは、アメイアがその攻撃を嫌がっていることの現れでもあった。無視できる攻撃ならば、防御動作をそもそも取らない。
「あとさ、あたしずっと気になってたんだけど、あんたのその胸、絶対パッド入れてるわよね? 不自然なのよ、強調してんじゃないわよ!」
『……うるさい虫が、外見もそうなら中身までそうらしいな!』
菫の口撃は、アメイアの羞恥心を煽るどころか、はっきりとウザがらせてしまったようである。
他のアルマインの攻撃を受けながら、菫の乗るブレイバーを執拗に攻撃するアメイアの拳が、ついにその下半身を捉え、二本ごと吹き飛ばしてしまう。
機動兵器の中では質量の小さいアルマインは、その一撃だけで大きく宙を舞い、一時的に制御不能に陥る。
追撃のために地を蹴り、アメイアが飛び上がる。あの虫だけは何としても叩き落す、しかしその思いが幾分強過ぎたことが、彼女に別の機体の一撃を打ち込む機会を与えてしまう。
「女性の身体に傷をつけるのは趣味じゃないが……そんなこと言ってられない!
こうなったら奥の手だ、俺の魔力全部持っていけぇ!」
機体に残された魔力を全部注ぎ込まんと念じながら、葛葉 翔(くずのは・しょう)が自身の魔力を引き上げ、両の水晶に触れる。
ブレイバーが装備していたシールドを放り捨て、片手に握っていたソードを両手で構える。急上昇したブレイバーは、ソードから魔力を迸らせながら急降下し、飛び上がったアメイアへ一直線に向かっていく。
「いっけー! 魔力斬りだぁ!」
咄嗟に『魔力斬り』と命名したアリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)の声に続いて、翔が叫ぶように言い放つ。
「アメイア、俺はこれでお前を斬るんじゃない!
俺はお前のその、『衣服』を斬る!!」
アメイアと翔の乗るブレイバーが交錯し、そして翔の宣言通り、アメイアの衣服が上から下へ切り裂かれる。上半身の白の服、ベルトのようなもので留められていた下半身の布地が地面に落ち、内側に身に着けていた黒のインナーも大部分が切り裂かれていた。
おそらく、留め具の金属部分がなければ確実に描写不可能な領域までやられていただろう。ちなみに、パッドは落ちてこなかった。
「チッ、真っ裸までは出来なかったか!」
「……翔クン、そんなことしたらいくらアメイアさんでも、泣いちゃうよ?」
どこか悔しがる表情の翔に、アリアがジト目を向ける。
これで少なくとも、満足には動けないはず……その思いは、機体を襲う強い衝撃で打ち砕かれる。
『なるほど、肌を晒させ、羞恥心とやらを煽る算段か。先程の者もそれが狙いだったのだろうが……肌を晒すことに抵抗のない種族など、ここパラミタにはいくらでもいるであろう。
貴様ら人間の勝手な思い込みで、私をこの程度で狼狽えるほどの脆弱な意思の持ち主と、決め付けないでもらおうか!』
「な、何だと……? つまりお前は、人間ではない――」
答える義務はないとばかりに、アメイアの蹴りが翔とアリアの乗るブレイバーを、菫とパビェーダが飛んでいった方角へと吹き飛ばす。
彼らは、辛うじて意識を保ったパビェーダによって、何とかイルミンスールの森に埋没することなくイルミンスールに辿り着くこととなった。
「どうした! 貴様らの覚悟は、その程度のものか!」
ここに来て、アメイアが戦況で優位に立つ。その死をも恐れぬ覚悟を負った攻撃は、ブレイバーの機動力すら上回りかけていた――。